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薬袋古道具屋怪談  作者: メイ
エピソード03 天石 凛の場合
18/20

03_05怪目_鳩時計は今、拾弐時

 運命が私を呼ぶ。ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン。

 セイミツが蔵を叩く音(ノック)は私、天石(あまいし) (りん)の耳にはそれと変わらず響いた。




 コン コン コン コン。


 

 ノック4回は正式なノック。



 コン コン コン。



 ノック3回は親愛を込めたプライベートノック。



 コン コン。



 ノック2回は急ぎのトイレノック。




 では、4回を越えたノックは何だろう。




 コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン ゴン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コソ コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コンコン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コン コつン コン。




 化物かな。


 蔵の扉は閂で止めてあるものの、小刻みな衝撃に踵を鳴らしてタップダンスを踊り始めた。

 


 リズムを刻みながら長時間啼き続ける(ドア)の声を聞くのも悪くない。薄気味悪さを通り越して、私は張本人の(ツラ)を拝みたくなる。取っ手に手をかける。誰だろう? 開けた先に死神(メシア)が立っていても構やしないのに。


 天磐戸(あまのいわと)を開いた。




『よォ、色男。元気そうサなァ? 邪魔するよ』



 一人の青年が立っている。

 白群(びゃくぐん)の髪をふわふわと揺らして、胸で結んでいる。日光で橙色(オレンジ)に染まった瞳は、派手な柄の着物がよく似合っていた。裸足に下駄。精密(セイミツ)と名乗った彼の口はニヤァと半月を作った。




「……どうぞ」


『随分簡単に招き入れるんだねェ、お前ェさん。このセイミツが吸血鬼(モンスター)なら、お陀仏だぜェ』


「あんな恐ろしいノックして、よくもまあぬけぬけとそんなことが言えるものだ」


『恐ろしいなんて、塵ほども思ってなかろォに。おお、(こわ)や怖や……げに恐ろしきは人の口だァ』





 何故かその男を私は知っている気がした。

 見透かしたような相貌。初対面、の気がしない。




「どっかでお会いした……か?」


『あぁ、俺ァ行商人だからな。どこにでもいる。そン時のどっか別の俺と会ったんだろうよ』


「……は?」


『もうアンタも化物って事だィ』


「ばけもの……は、初対面の相手に失礼だ」


『ンじゃ、聞くがな? 俺に話してみ? お前ェさんがなんでここに引きこもってんのか、サ』



 良いだろう。と、口を開きかけた時だった。




 ジジッ。




 話の腰を途中で折る輩が、法螺吹き、キャラメル。

 そして、セイミツ。視界が()れる。思い出せ。そう、私へ楯突いて来る。



 セイミツが後ろへ羽織を靡かせる。うねうねと派手な羽織はセイミツへ寄り添った。私に向かって笑う。にたり。

 私の嫌な予感と警鐘が円舞を踊りながら背筋を這う。





「……それよ、り。何をしに来た」



『知ってるクセに』



「知らん」



『あ・そ。鳩時計、探してる。あるだろ? 鞴の鳩時計が』




 今度は悪寒。それだけが脹ら脛から登ってくる。嫌なのに。うなじにそれが辿り着いたら、私はきっとこのわけのわからない台詞を吐くこの行商人(モンスター)に頷いてしまう。


ノックに紛れて『コソ』がいるよ!

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