セクハラをする豚。
血なまぐさい集落で、小さく息をする女性の傍らに佇んでいた。
俺の中人間としての部分が早く助けろと訴え、オークとして生きてきた本能が早く殺せと訴える。
魔物になってから初めての人との対面に、俺は感情を持て余していた。
多分、助けなければ後悔するだろうし、助けても後悔するだろう。
更に助けてもこの女性が俺を殺しに来る可能性もある。
オークと言えば、女性の敵。
更にはもしかしたら女性の仲間も俺の仲間が手に掛けている可能性もあり、仇討ちとして、俺を殺しにかかるかもしれない。
そんな事を考えている間にも女性の呼吸音がどんどん小さくなっていく。
時間がない。
俺は助けないで後悔するより、助けて後悔することにした。
まぁ美人に殺されるなら本望だろ。
そういう性癖じゃないけど。
俺はありったけの薬草を巣穴から持ち出し、傷に塗りこんでいく。
人間に効くかわからないが、俺ができるのはこのくらいだ。
不可抗力で色々視界に入ったけど、今はそれどころじゃない。
柔らかくて大きかったとだけ言っておこう。女性の神秘だ。
煩悩に耽りながらも、治療したかいあって、少しずつ出血は収まりはじめた。
しかし、女性の顔色は優れず、結構乱暴に治療しているのにうめき声の一つもあげない。
まぁ、肩口からかなり深く切られてるし、まだ息しているのが不思議だけどな。
しかしマズイな・・・。
医学に聡いわけでもないし、人間の身体なんてよく分からないけど顔色がヤバいのだけはわかる。
しかし出来る事は全てやったし。
くそ、あのニートめ・・・。
回復魔法とか使えればこんな状況チョチョイのチョイじゃ・・・って、あ!!
俺は思いついたように、急いであるものを見つけるべく人間の死体を漁り始める。
地面に落ちている容器を見る限り、それっぽいものを持っているのは把握している。
女性は使ったのか持っていなかったが、もしかしたらまだあるかもしれない。
数人調べたところで目当てのものが見つかった。
小さい瓶に赤い液体。そう、ポーションだ。
この赤い物体がポーションなのかわからないが、他に打つ手はないし試すほか無いだろう。
毒だったらさーせん。
急いで女性の元に持って行き、いざ使おうとしてある問題に気づいた。
俺、豚じゃん。と。
瓶にはいったポーションっぽい液体は、コルクのようなもので栓がしてあり、
更に手を使えないのにどうやってコレを飲ませるというのだ。
かけても効果があるならかけてもいいが、違ったなら一本しか手元にないこれを無駄にすることになり、もしそうなったら取り返しがつかない。
俺はゴクリとつばを飲む。
最善の方法は、瓶を口の中で噛み砕いて液体のみをマウストゥーマウスで送り込む方法だ。
しかし前世でもチュッチュなんかそんなにしてないし、しかも相手はこんな美女だ。
緊張するなという方が無理だろう。
先ほどまでとは違う緊張感に苛まれ、俺は額から変な汗が出るのを感じた。
毒かもしれない液体が入った瓶を噛み砕き、中身を口の中に入れる。
液体は、ほんのり甘くなかなか味は悪くない所を見る限り大丈夫そうだ。
瓶を床に吐き出し、硝子片を口の中で選り分ける。
これで準備完了だ。
で、では・・・いただきまああああす!!
おおよそ人命救助とはほど遠い掛け声を心の中でかけつつ、女性の口に液体を流し込む。
最初は中々入っていかなかったのでダメ押しとばかりに舌を入れ無理やり飲ませる。
液体を無理やり飲ませるって語呂、とてつもなくやばい気がする・・・。
いや!人命救助だし!!ふ、ふかこーりょくだし?!
彼女の髪と同じ思考に言い訳しながらも全て飲みこませるのに成功し、名残惜しげに口を離すと、女性の顔色はかなり良くなっていた。
このまま暫くすれば、意識も戻るだろう。
・・・結局助けちまったなぁ。
まぁ、気が付いてからこの後のことは考えよう。
今は、この場をなんとかしなきゃいけない。
このまま放置しても血の匂いに惹かれて魔物が集まって『ヴヴヴゥゥ』・・・?
突然低い声が後ろから聞こえ、恐る恐る振り返ると俺の数倍はあろうかという犬が涎を垂らしながらこちらを睨みつけていた。
その瞳には、完全に美味そうな餌を見つけたと描いてあるように獰猛な色を宿し、絶対に逃がさないという足運びで俺と女性の周囲を回り始める。
今ここに、子豚対狼の戦いが始まる。