無力な豚。
俺が穴に逃げ込むのと同時に、大人オーク達の遠吠えが響き渡った。
それに答えるように人間たちの鬨の声も遠くから聞こえる。
あぁはじまったか・・・。
剣と魔法の世界といえば聞こえはいいけど、実際はモロ弱肉強食の世界だし・・・。
おのれ自称神め、死んだら枕元にたってやる・・・。
奴が寝るかは知らないけど。
やがて人間たち声が近くなった頃、
何かがぶつかり合う後と、水っぽい何かが弾ける音や爆音などに混じり仲間の悲鳴や人間たちの怒号などの戦いの生々しい音が響いてくる。
あーもう嫌だ。
豚ってこんなにハードモードなの?
チートってなんだったんだよ!!
くそう・・・。
豚屋のブヒブヒが食べたい。
食べたら口直しにブヒ食べて、デザートにブヒブヒを・・・。
ブヒブヒ言っているとドスッと音を立てて、入り口付近の天井から槍が生えた。
うん、大人しくしてよう。
ブヒブヒいって人間にバレて死ぬなんて絶対ごめんだしな・・・。
激しい戦いなのだろうか、凄まじい血の匂いが巣穴の中にまで充満する。
豚で良かった。間違いなく人間なら吐いてたわ。
血の匂い嗅いでお腹が若干減っているような気がするのは気のせいだとしておこう。
・・・気のせいだとしておこう。
空腹を紛らわせるために木の実を齧っていると、やがて戦いの音が止む。
巣穴の上から聞こえてくる足音からすると、人間が勝ったらしい。
獣臭くない血の匂いと、仲間の声を叫ぶ沈痛な悲鳴を聞く限り、どうやら少なくない被害が人間側にも出たようだ。
異世界言語がキチンと機能しているのに少しで安心した。
こんな所で確認が取れたのは、少し複雑だが。
やがて、人間たちの声が遠くなって行くのを確認し、心の中で30分ほど数えた後
恐る恐る巣穴からあたりを覗き込んだ。
惨状を見た俺は、吼えた。
仲間から生えた無数の矢や魔法によるものか切り刻まれたようにバラバラになった死体の山。
それらは全て下牙が引き抜かれていた。
オークにとって下牙は誇りのようなものだ。
俺にも小さいが、若干生えているし本能によるものなのか、元人間の俺でも下牙に対して誇りというものが少なからずある。
それが全部引き抜かれていたのだ。
それがオークにとってどれほどの仕打ちか俺は本能的に察して激しい怒りがじりじり
と俺を焦がした。
そして人間の死体もかなりひどかった。
あるものはオークの斥力に体が耐えきれずに引きちぎられ、
あるものは鈍器のような物で殴られた為か、首から上が原型を止めておらず、
あるもには胴体に下牙で貫かれたのであろう大穴が開いていた。
人間だったころの俺に引っ張られたのか、思わず吐き気が込み上げる。
色々な感情が入り混じり、耐えきれなくなった俺はその場で蹲った。
巣穴の入り口で、じっとしていたら確実に血の匂いに惹きつけられた魔物に襲われる。
頭ではわかっているが、心と身体が動かない。
仲間達の死と人間の死のリアルさとこの惨状の最中、
何もせずに縮こまっていただけの自分の力のなさに情けなくなり、泣いた。
しばらく呆入り口で座り込んでいると、小さな呼吸音が聞こえてきた。
もしかしたら誰かが生きているのかもしれないーー。
のろのろと立ち上がり、音がする方へ近づいていく。
呼吸音の主は、肩を大きく切られた桃色の髪の美しい人間の女性だった。