穴を掘る豚。
大人オーク達が武器の準備をしたり、泥で戦化粧っぽいのを描いている最中。
俺はというと、穴を掘っていた。
勿論待避所である。
え?仲間が戦うのにお前は逃げるのかって?
馬鹿言っちゃあいけねえ。
俺の戦闘力なんて高が知れている。
この森で魔物と遭遇して10秒持たないだろう俺がこの森を抜けてくる冒険者にどうやって戦えというのか。
無理無理。無理でーす。
そんな訳で俺は逃げ込める穴を掘っているわけだ。
はぁ・・・。
群の仲間達は勝てるかな・・・。
元人間として、というかこういう血を流すような争いとは無縁な日本人として、人間が死ぬのを見たくはない。
魔物にとって死はとてつもなく身近だ。
飯も魔物の死骸がほとんどだし、たまに仲間が死んで、墓地みたいなところにが運ばれているのを見ていると力のない自分がいつこの立場になってもおかしくは無いんだなぁと実感させられる。
やはり、仲間が死ぬのを見るというのは堪える。
しかし、人間が仲間によって殺されるのも見たくはない。
人間が死ぬというのをこの世界に来てから見たことはないが、多分直視出来る代物では無いだろう。
出来ればお互いに被害が出ずに、何もないまま終わって欲しい。
沈んだ気持ちを紛らわすように一心不乱に穴を掘る。
途中で蚯蚓を掘り返してしまい、プギャー!と叫び声をあげたが、無事、1m位の巣穴を掘ることができた。
昔から手足のないのはダメなんだよな・・・。
蛇は平気なんだけれども。
巣穴に群の集落周りの木の実や薬草、骨などを運び込む。
木の実や骨は非常食程度、薬草は傷ついたオークや人間の為に出来るだけ多く採集しておく。
ちなみに薬草に関しては、驚くべきことにオークが傷を癒すのに使っていたのを見て初めて存在を知った。
最初は雑草をすり潰して塗り込んでいるのかと思ったが、
採って来ている草が同じ草だったことと、
俺が何本か同じ臭いをしている草を採取し、傷付いたオークの元に持っていった所、
その草を受け取り塗り込み始めたのを見て、薬草と判断した。
それからというもの、数少ない俺の日課として傷ついたオークの為に薬草を取ってくるという仕事が出来たのだった。
殆ど無傷死んでるかのどちらかだから、滅多に仕事する訳でもないんだけどね。
そんなこんなで準備を終えた俺は、集落でぼーっと大人達を眺めていた。
人間であれば、戦いにいく家族と涙ながらに別れたり、或いは激励したりする光景が広がるのだろうが、生憎俺は今魔物だ。
目の前の大人達は雄々しく生えた下牙をお互いに打ち鳴らし、或いは吼え、そして足を踏み鳴らしている。
いつか前世でみた映画の中に、勇猛果敢な戦士たちがこんな感じでお互いを鼓舞していたっけなぁと思い出した。
そんな戦士たちの鼓舞聞きながら、やがて集落に夕陽が差し込み始める。
それはまるで今後の惨状を表してるかのようで、
俺はざわりと何かが胸の中で蠢いたような感じがした。
そしてその時はきた。