天才魔法少女☆大暴走の話。
ある所に不思議な一族がいました。
彼らは火種がなくても火をおこせたり、雨を降らすことが出来ました。
また、成人すると老いると言う事はなく、その外見は変わりませんでした。
何故なら、体内に魔力と呼ばれるものを宿していたからです。
しかし、全ての魔力を使い果たすと、まるで花が枯れる様に死んでしまう運命にありました。
ある時、一族でも飛びぬけて膨大な魔力を持つ女の子が生まれました。
この子は恐らく、一族が死に絶えた後になっても、
1人で長い長い時間を過ごすことになるだろうと、一族の長の老人は言いました。
女の子の両親は、それはあんまりだと嘆き悲しみました。
けれども、彼女はそんなことはこれっぽっちも気にしませんでした。
女の子にとって、世界は見つかるのを待っている宝石で溢れている様なものだったからです。
彼女は東に珍しい食べ物があると聞くと飛んで行き、西に美しい音色で奏でられる演奏会があると聞くと飛んでいきました。
ある日、女の子は森の奥深くに美しい湖があると言う噂を聞きました。
湖は確かに美しく、彼女を夢中にさせました。
ところが、つい見惚れて空を飛ぶのが疎かになってしまったのです。
女の子は箒の上から落ちてしましました。
彼女は気がつくと、小さな山小屋のベットの上にいました。
女の子がぼうっとしていると、知らない男の人が怪我は大丈夫かいと声をかけました。
良く見てみると、幸い大きな怪我はしなかったようですがあちこちに包帯が巻いてありました。話を聞くと、彼が手当をしてくれたそうです。
彼女はお礼を言うと、何処か気持ちが温かくなったのを感じました。
女の子にとって、こんな怪我は簡単に治せるものでした。
けど、見ず知らずの他人の自分を助けてくれた彼の優しさが嬉しかったのです。
男の人は、暫く山小屋に滞在しているそうです。
それを知った女の子は、また遊びに来てもいいかと尋ねました。
彼は、勿論と言って穏やかに笑いました。
そうして、女の子は毎日のように湖に通うようになりました。
男の人は訥々と話をしました。
薬草学の話。
故郷の両親の話。
可愛らしい妹がいること。
実家は貧しくて、奨学金で学校に通っていること。
将来は医者になって、苦しんでいる人々を助けたいと思っていること。
自分はできるだけ患者に負担がかからない医療を目指していることを言いました。
女の子は治癒は魔法でも強い負担がかかってしまうのにと驚きました。
そうして、貴方は努力家でとても優しいのねと言いました。
男の人はそれを聞くと照れたように笑いました。
二人は沢山の話をするようになりました。
やがて、お互いに惹かれあうようになったのです。
男の人が湖の周りの薬草の調査が終わって、学校に帰ることになると手紙を交わす約束をしました。
女の子の好奇心たっぷりの明るく刺激に満ちた手紙は彼をいつも元気づけました。
男の人の飾らない優しさに満ちた手紙は彼女をいつも温めました。
彼女はある時、自分が年を取らないことを彼に打ち明けました。
男の人は驚きましたが、卒業したら側にいてほしいと言いました。
そうして、数年後男の人が無事に医者になると二人は結婚しました。
女の子は年を取らないので一か所にはいられません。
二人は旅人として、世界各地を回りながら沢山の人の病を助けました。
それは彼らが年を取り、父親と娘に、祖父と孫に見える様になっても変わりませんでした。
やがて、男の人は冬の寒い晩の日に静かに逝きました。
女の子は苦しいことも楽しいことも沢山あった、過ぎてしまった歳月を思って涙をこぼしました。
その後、女の子は魔法使いとして働き始めました。
東に困った人がいると聞くと飛んで行き、西に変な事件があると聞くと飛んでいきました。彼女は、毎日沢山の人のために働きました。
そんな女の子のことを不思議な力を使う一族は気が狂っていると口々に噂しました。
何と言っても魔法は彼らにとって寿命そのものだったからです。
やがて、彼女は一族と縁を切ることになりました。
そうやって数百年もの月日を重ねていると、女の子は花が萎れるように弱っていきました。彼女は疲れ果て、同時に海の様な深い満足感に浸りました。
そうして、ある月の綺麗な晩のこと希代の魔女と呼ばれた彼女は誰にも知らずに散りました。
最後に女の子は、やっとあの人に会えると思いました。