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31 怒りの原因

「今夜飲みに行きませんか?」

「ごめん、今日は他に用事があるから」


 俺は佐藤先輩を飲みに誘う。

 しかし、あっさりと断られてしまった。

 まさか酒好きの佐藤先輩に断られるなんて。


「上田ー、今夜飲みに行かないか?」

「あ、今日はムリっす」


 仕方なく上田を誘うが、そっちも断られた。

 なんか上田も最近付き合いが悪いような。


 おかしい。何かがおかしい。

 馴染んできたと思った会社で、俺は再び孤独を感じるようになっていた。


 



「ただいまー」

「……」


 フィルも相変わらず、俺のことを無視する日々が続いている。

 なんなのこれ。

 俺、泣いちゃうよ?


「おーい、リディー!」


 唯一の味方であるはずのリディを呼ぶが返事がない。

 あ、そうか、今日はバイトの日だったな。

 ということは、またフィルと二人きりか。


「なあ、フィル」

「……」


 返事くらいしてくれよ。

 フィルは、漫画に夢中で俺のほうを見向きもしない。


「おい、フィルってば!」

「ちょっと、何すんのよ」


 俺はフィルの読んでいる漫画を取り上げる。


「お前、最近ちょっとヘンだぞ」

「……そ、そんなことないよ」


 フィルは目を合わせようとしない。


「何をそんなに怒ってるんだ?」

「お、怒ってなんかないもん」


 ほう。

 誰がどう見ても怒ってるようにしか見えないが。


「俺、何か悪いことしたっけ?」

「……」


 何かを言いたそうな顔をしている。


「言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれないとわかんねーって」

「……」


 また、無言ですかそうですか。

 困ったなー。

 無言は俺の専売特許だったはずなのに。


「そんな怖い顔しないでさ」

「ちょっと、触らないでよ」


 頭を撫でようと近づくと、思いっきり拒絶された。

 俺は頭の中が真っ白になる。





「……というわけなんだ」

「ふむ、それは困ったわね」


 ショックのあまり、俺はそのまま姉の家に押しかけた。

 こんな時に頼れるのは、姉くらいなもんだ。


「そうなんだよ、もう俺どうしたらいいかわからなくて」

「うーん、何か心当たりはないの? フィルちゃんが怒るようなことをしたとか」


 俺、何か悪いことしたかな。

 特に思い当たるようなことは何も――。


「あ……」


 もしかして、佐藤先輩と一緒にホテルに行ったのがバレた?

 いやでも、そのことを知ってるのは佐藤先輩と上田しかいない。

 フィルとの接点はないはずだ。

 

 いや、リディにも佐藤先輩のことを話したことがあったな。

 そっから情報が漏れたという可能性も考えられる。 

 しかし、リディに話したのは告白されたという事実だけだ。

 それでフィルが怒るというのは考えにくい。


 となると――。


「ここだけの話なんだけど――」


 佐藤先輩とのことを、正直に話すことにした。


「原因はそれね。間違いないわ」


 姉はそう断言した。


「でも俺、フィルに佐藤先輩の話なんてしてないんだけどなあ」

「女の勘ってやつね。あんたに浮気なんて三百年早いってことよ」


 三百年って長いなおい。


「別に浮気したつもりはない。というか、そもそもフィルと付き合ってるわけじゃないし」

「何言ってんのよ。二人で一緒に暮らしてるんだから付き合ってるも同然じゃない。あんたがそういう態度だから怒ってるんじゃないの?」


 ですよねー。

 でもフィルは否定したままなんだよな。

 その辺もはっきりさせておく必要がありそうだ。


「それで、俺はどうしたら良いんだ?」

「そうねえ、今みたいに正直に話して謝るのが一番よ」


 なるほど。

 誠意を見せるってやつか。


「わかった。ありがとう姉ちゃん!」


 俺はそう言い残して、姉の家を飛び出した。






「ごめん、フィル! 俺が、俺が悪かった! もう浮気なんてしないから、だから機嫌を直してくれ! 頼む!」


 俺は土下座で誠心誠意謝ることにした。


「マーくん、急にどうしたの?」


 俺が顔を上げると、首をかしげているフィル。


「え、だ、だから、俺が浮気したから怒ってるんだろ?」

「浮気……? 何のこと?」


 あ、あれ?


「え、えっと……フィルが怒ってたのは俺が原因じゃないの?」

「違うよ」


 え?


「じゃ、じゃあ何が原因なんだよ」

「だから別に怒ってないって」


 ん?


「いや、俺のこと、無視してたよね?」

「うん」


 ……。


「あの、なんで無視してたんですかね」

「たまには冷たい態度をとるのが良いって書いてあったから」


 書いてあったって、何にだよ。


「い、意味がよくわからないんだけど」

「べ、別にマーくんの気を引こうとしたわけじゃないんだからね!」


 ここまで聞いてようやく俺は理解した。

 また漫画の受け売りだったようだ。


「ったく、紛らわしいことするんじゃねえよ」

「ねえ、ところでマーくん、浮気ってどういうことなのかなー?」


 しまった。

 これは自分で自分の墓穴を掘ったパターン!

 フィルの笑顔が怖い。


「い、いや、だから、そ、それは、その……ご、ごめんなさい」


 姉ちゃんに相談したのは失敗だったかもしれない。

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