13 友達
フィルと話をしている途中、突然、フィルが俺の後ろを見ながら驚いたような顔をする。
恐る恐る振り返ると、そこには――。
何もいなかった。
いや、少なくとも俺には何も見えなかったと言ったほうが良いだろう。
「な、なんだよフィル。脅かすなよ。何もいないじゃないか」
「いるよ、私にはわかるの」
ま、ま、まさか幽霊?
フィルは、魔法を使えるだけじゃなく霊感とかもあるのだろうか。
俺は、幽霊だとかそういうのは信じたことがない。
しかし、フィルは、俺の後ろを睨み続けている。
「じょ、冗談やめろよ。お、俺、そういうの苦手なんだよ」
「いえ、姿を隠しているだけで、そこに確かに存在しています。優秀な魔女である私には、そんな魔法で姿を隠したとしても、丸見えですよ」
フィルが、急に立ち上がり歩き出したかと思えば俺の後方ですぐに立ち止まる。
すると、何もいないはずの空間から、笑い声が聞こえてきた。
「くくく、ふはははは! さすがだな。かなり高度な潜伏魔法を使っているんだが」
そう言いながら、現れたのは、俺と同い年くらいの男。
今までの話を総合的に判断すると、この男の正体はすぐに見当がついた。
「フィルの親父さんって、すごい若かったんだな」
俺がそう言うと、フィルとその謎の男が同時にずっこけた。
「なんで、なんでそうなるのよ。今までの見事な推理はどこ行ったのよー。もうー」
「はっはっは、なかなか面白い男だな。僕の名は、リディアス=アレキサンドライト。フィルの兄だ」
フィルの、お兄さん?
今まで家族の話は、度々出ていたが兄貴がいるなんて聞いてなかったぞ。
そんなの推理できるかってんだ。
あ、いや、まあ、年齢からしたらそう考えるのが妥当か。
それよりも――。
「お、おい、フィローネ=アレキサンドライトって本名だったのかよ!」
「突っ込むところ、そこなの? なんで今更、名前に突っ込むのよ!」
「いや、だって、正体を隠したりするために偽名を使うなんてよくある話だし」
「えええ、偽名だと思ってたの? 私、嘘はなるべく言わないようにしてたんだからね!」
ああ、言われてみればそうだな。
両親に無理やり撮らされた動画以外で、フィルは嘘をほとんど言っていない。
「お、そうか。じゃあ、そうなったらそうなったで構わないって言ってたのも嘘じゃないんだな、本当なんだな!」
「こんな時に、何の話してんのよ」
無駄にハイテンションな俺を、フィルが呆れたように見てくる。
「あ、あの、楽しそうなところ悪いんだけど、ちょっとは僕のことも、気にかけてほしいなー、なんて」
頬をぽりぽりとかきながら、リディアスが寂しそうに呟いた。
「ごめん、忘れてた」
「忘れてただとぅ!? いや、まあ存在感ないってよく言われるけどさ。異世界に来てまで言われるなんて、うう」
よほどショックを受けたのか、打ちひしがれたようにがっくりと肩を落としていた。
「あ、あの、リディアスさん? それで、一体何しに来られたんですかね」
「は! そうだった! 凹んでる場合ではなかった。あ、それと、僕のことは、リディって呼んで良いからね、むしろそう呼んで欲しいな」
もじもじと身体をくねらせながら、おかしな頼みごとをしてくるリディ。
「お兄ちゃんはね、友達がいないの。だから、愛称で呼ばれたいのよ」
そんなことをフィルが小声で言ってきた。
ああ、なんか友達いなそうなタイプだもんな。
俺も人のことを言えないけど。
「それで、リディは何をしに来たんだよ」
「おおお、早速呼んでくれたんだね、嬉しいな、嬉しいよ! 僕たちもう友達だよね、そうだよね?」
そういって、俺の両手をがしっと握ってくるリディ。
俺は、内心イラッとしながらも平常心をなんとか保つ。
「つまり、俺と友達になりにきたのか?」
「へ? あ、違う違う。僕の大事な大事な妹に変な虫がつかないように見張りにきたのだ」
急に、俺の手を乱暴に跳ね除け、ビシッと指をさされた。
「変な虫って、俺のこと? いや、まあ変であることは否定はしないけどさ。どちらかっていうと、リディのほうが変だと思うな」
「な、な、な、僕が変態だと!? くそ、なんでバレたんだ。初対面だっていうのに! さては、心を読む魔法を使えるんだな?」
なんでこいつは、まともな会話ができねーんだ。
つーか、変態とは言ってないのに。
そうかそうか、変態なのか。ふーん。
「あー、もう面倒くせーなあ。さっさと、話進めてくれよ」
「はいはい、もう私が代わりに説明するよ」
フィルが耐えきれなくなったのか、俺らの間に割って入ってきた。
「たぶんだけどね、お兄ちゃんは、マサトが私と付き合ってると思ってるんだよ。妹フェチな変態兄貴だから、たぶん、それが許せなかったんだろうね」
「な! 僕は、妹のことが心配でだな……」
妹に変態呼ばわりされたのに、どこか嬉しそうにしながらあたふたとしているリディ。
「なあ、フィル。俺たちって付き合ってないのか?」
「付き合ってないでしょ。告白もされたことないし」
「えっ!?」
俺とリディが同時に、驚いたように声を上げた。
「え、付き合ってないの? じゃあ僕は何のためにここまで来たんだ?」
「知らねーよ。俺に聞くな。あー、もう何なんだよ一体」
俺は、ちょっとイライラしていた。
フィルに、あっさりと付き合ってることを否定されたことがショックだったのだ。
「うーん、そういうことなら、僕が友達になってあげるよ」
「断るッ! なんで俺がお前と友達にならにゃならんのだ」
「いや、僕たち仲良くなれるような気がするんだ」
きっと、友達いないんだろうな。
だから、必死なんだろう。
うん、わかるよ、その気持ち。
でもさ。
「友達ってそういうもんじゃなくね?」
俺の言葉で、なるほど、と納得したような顔をするリディ。
「そうか、そうだよね。じゃあ、今から遊びに行こう。もちろんフィルも一緒に」
「ええ? なんでそうなるの?」
そして、深夜だというのに、リディに連れられて出掛けることになってしまうのだった。




