01 出会い
「私、世界征服をしにやってきたの! だからあなたも協力しなさい!」
突然、俺の目の前に現れた一人の少女。
人が多く通る街中で、俺を指差しそんなおかしなことを言ってくる。
「は、はぁ。そういうのいいですから」
苦笑いをして、その場を去る俺。
こういう頭のおかしなやつには、かかわらないほうが良いに決まっている。
君子危うきに近寄らずって言うしね。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
あれ、足早に去ろうとした俺の目の前にさっきの少女が再び現れた。
おかしいな、あの距離を一瞬で移動したとでも言うのだろうか。
「ボクに何か用ですか? 悪いけど、宗教とかそういうの興味ないですから」
「違う違う、違うのよ! 私はね、異世界からやってきたの。それでね、暇だからこの世界を征服しようと思ってるんだ。だからさ、あなたも協力してよ? ね、お願い!」
物凄く真剣な面持ちで、そんなことを言ってくる少女。
あ、アカン。これ、アカンやつや。
死んだばあちゃんが、いつも言ってた。
隣の田中さんと、見知らぬ美少女には気をつけろって。
「ボク、お金とかあまり持ってないですよ? そういうのが目的なら他をあたってくださいよ。それじゃ、失礼します」
軽く一礼し、その場を去る。
この子が何の目的でこんな嘘をついているのかはわからない。
もしかしたら、女優を目指してて、演技の練習とかそういうのなのだろうか。
しかし、そんなことはどうでもいい。
とにかく、こんな子と関わりたくない。
それに、早いところ買い物を済ませないと、また姉ちゃんに何言われるかわかったもんじゃないし。
近所のスーパーに入り、買い物かごに頼まれたにんじんとじゃがいもを入れる。
どうやら今日はカレーらしいな。
姉ちゃんの作るカレーは、いつも隠し味にとんでもないものを入れてくるから怖いんだよな。
この前なんて、タバスコが一瓶まるごと入ってたし。
会計を済ませて、買ったものをエコバックに詰める。
ふう、あー疲れた。早く帰ってゲームの続きしよーっと。
「ちょっと、そこのニート! 待ちなさいって言ってるのがわからないの!」
「ぬあ、びっくりしたなあ、もう。驚かさないでくださいよ。何なんですか! ストーカーですか? 警察呼びますよ」
スーパーを出ようとした瞬間、さっきの少女が腰に手を当て待ち構えていた。
こええよ、何なんだよこいつ。
まさか買い物が終わるまでずっと待ってたのか?
「ふふー、ちょっとばかし、あなたのこと調べさせてもらったわよ。えっと、名前は七星将人、23歳独身で無職。彼女いない歴=年齢の童貞。現在、姉のアパートに居候中。えっと、それから……」
「ま、待て待て待てーい! この短時間でどっからそんな情報を仕入れてきた!」
俺の経歴を淡々と言い始めた少女。
遮るように俺が言った。
な、なんなんだこいつ!?
俺が童貞だってことは、姉ちゃんくらいしか知らないはずなのに!
「そりゃー、私はこれでもちょっとは名の知れた魔女だったからね。この程度の情報を得るくらい造作もないことよ」
ふふん、と威張るような態度を取る少女。
また、おかしなこと言ってるし、どうすりゃいいんだ。
走って逃げるか?
いや、さっきの口ぶりからすると、俺の住所も知ってそうだが。
「な、何なんだよ一体。俺が何をしたって言うんだよ!」
「んー、別に何も? ただ、最初に視界に入ったのがあなただったってだけ。あっと、自己紹介がまだだったわね。私は、フィローネ=アレキサンドライト。フィルって呼んでちょうだい。よろしくね、マサトくん?」
そう言って、手を差し出してくるフィル。
うっかり、手を伸ばしそうになるが慌てて手を戻す。
「待て待て! そんな挨拶されたって、俺は協力なんてしないぞ? 何なんだよ、アレキサンドライトって! どうせ偽名なんだろうけど、もっとマシな名前考えろよな。見た目からして14~5歳だろ? もうすぐ日も暮れるし、ガキはさっさと家に帰れよな!」
「う、うう、ひどい。私、帰る場所なんてないのに……。そんな言い方するなんて、しくしく」
目に涙を浮かべ、上目使いで俺を見てくるフィル。
こいつ、策士か。
明らかに、わざとだ。嘘泣きだ。
でも、嘘だとわかっているのに、なんだか胸が痛む。
「なんだよ、家出少女かよ。それなら、警察にでも突き出してやるからこっちこい」
「いやよ、いや! 放して! 助けてええええ」
俺が、少女の手を掴み引っ張ろうとしたら騒がれた。
「おい、やめろ。マジやめてくれ。この状況でそんな大声出したら、絶対に勘違いされるから!」
「ふふーんだ、冷たいことばっかり言うからよ。じゃ、マサトの家にれっつごー!」
そういって、俺の家のほうに向かって歩き出すフィル。
また騒がれても面倒だし、仕方なく言うとおりにすることにした。