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ふたりの旅行計画

 しい、と、鈴原が、演技がかったしぐさで、人差し指を口元にあてた。

「まわりにばれないように、特に先生たちには」

 瀧川も、上がりそうになる口角を抑えながら、神妙にひとつ頷いた。

「決行はあした、水曜日。始発前の五時半、 N 駅改札で」


 まさか、この年の瀬にもなって、大学受験を控えた進学校の成績優秀生たちが、学校をさぼって旅行の計画を立てているなど、誰が思いつくだろうか。しかも、一時の駆け落ち気分を味わう恋人同士などではない。男ふたり組である。


 かれらは県内でも上から二番目の高校に通っていながら、成績は常に上位。教師たちからの期待も厚いふたりだった。といっても、ふたりの性質は、それはもう真反対とも言えるのだが。

 瀧川治(たきがわおさむ)はいわゆる天才型で、見た目も、言葉遣いも、「優等生」を求める教師たちからしてみれば、眉をひそめたくなるような有様だ。そのくせ、性格はどこかカリスマティックなところがあって、クラスの内外から頼られるような魅力がある。イベントごとでは、常に中心になって動くタイプだ。さらに定期試験はといえば、どこで勉強してきたものか、きっちりと点を稼いでいくのだから、教師たちもなかなかその素行に口を出せずにいる。

 一方の鈴原重樹(すずはらしげき)は、典型的な「優等生」らしいタイプで、服装から所作まできちんと整っている。試験でもそれは同じで、普段からの地道な積み重ねできっちり点数をキープしている。クラスの中では勉強のできる人、程度の意識しか持たれていないが、特にそれを気にするふうもなく、どちらかといえば相手からの距離を一歩置いて人付き合いをするような生徒だ。

 そんな真反対のふたりが、これもまたどうしたわけだかつるんでおり、ふたりでいるところで発した瀧川の呟きに、鈴原が反応したところから始まったのが、この旅行計画だった。

「ベンキョーも、ガッコーも、なにもかも投げ出して、現実逃避の旅でもしてーなあ」

「それ、いいね。しようか」



 瀧川はその夜、夕飯も早々に済ませて自室にこもった。明日からの旅行に向けて、荷造りをするのだ。日々、受験勉強に励んでいるのだろうという親の考えとは裏腹に、着々と荷詰をするのは、なんだか背徳的で、悪だくみを実行しようとする子どもの気持ちにも近く、思わずにやけてくる。

 教師や、親や、そのほか大勢が見ているのは大学合格だが、自分は全然違うのだ。と、なんとなく胸を張りたい気持ちになる。おれはもっと先を見ている。もっと大きくて、よく分からなくて、不安になるような、でも期待でいっぱいの、なにかを。試験とか、受験とか、点数とかはどうでもいい。そんなことしか見ていない世間を欺くのは、実に気持ちがよかった。

 しかしその一方で、かれは鈴原の意図を汲み取ることができなかった。本当に旅行に出かけるつもりなのだろうか。こういう呟きは普段、一笑に付されるか、そうでなければ無視されるかのどちらかだった。瀧川がなんとなく思いついた、くだらなくて実現の兆しのない計画案が実現するのは、初めてのことだった。

 鈴原も、瀧川のように勉強を押し付けてくる環境から逃げ出したかったのだろうか。それとも、明日の朝起きたら、携帯にドッキリの連絡でもあるのだろうか。もしかしたら、予約したホテルはよく集中できそうな静かな宿だったりして、そのまま勉強合宿でも始まるのではないだろうか。とにかく、なにか裏がありそうな気がしてならなかった。

 瀧川は、参考書と問題集をバッグに入れようかと考えて、重くなるのでやめた。せっかくだから、鈴原がなにを企んでいようとも、宣言通りにすべてを投げ出してしまおう。

 十一時を回っても、鈴原から連絡がある様子はない。今のところ、荷を崩す必要はなさそうだ。明日も早いからと、黙ったままの携帯をもてあそびながら、かれは早々と床に就くことにした。

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