神との対面
カミと聞かれても、俺はあまりぱっと思い浮かばなかった。
「龍族の神様って、どんな人なんだろうね」
俺の後ろから、紗由里が話しかけてくる。
強風で、何を言っているのか聞きとりづらいところもあったが、どうにか何を言っているのかは分かった。
「さあな、だが会ってみればこの人だと思うやつなんだろうさ」
俺はそう答えたが、紗由里に届いている自信はなかった。
「着いたぞ」
先頭を飛んでいた龍族長である五ヅ龍が俺たちに伝えた。
そこは、切り立った崖の上で、複数の龍がそこここにいた。
「人間か」
「人間と一緒に来るとは聞いてないぞ」
「戦争の相手を我々の家に呼ぶとは…」
何かしらの噂話が聞こえてきた。
「人間と龍との戦争のせいなのかな…」
「ああ、それ以来の不仲だ。そうそう治るようなものでもないだろう」
俺たちはここまで連れて来てくれた龍のタンニーンの背中から降りながら言った。
タンニーンとの付き合いも、考えてみれば長い。
彼の母親であるゲオルギウスと古代の盟約によりタンニーンを育てることを約束し、もう1年近くが経とうとしていた。
人間と戦争を行っている龍族のゲオルギウスからみれば、藁にもすがる気持ちだったのだろう。
そんな突然に託された俺たちは、タンニーンをここまで育て上げた。
「ここだ」
五ヅ龍が言ったのは、そんなふうに考えているときだった。
「お前たち3人だけが入れ」
五ヅ龍はその地面から生えているとしか言いようがない洞窟の入口に俺たちを案内した。
「行こう」
タンニーンが最初に入り、紗由里と俺がそれに従う。
俺たちが入ると、入口の扉が閉められ、戻れなくされた。
「そうか、行くしかないのか…」
俺がそう独り言を言っている間にも、タンニーン達は先に行った。
「…えっと」
タンニーンがそういったとき、前から光が溢れてきた。
「よく来たな」
その存在は、俺達にそう話しかけた。
光の反乱が落ち着くと、はっきりとその人の体が見えるようになった。
「あなたは…」
「夢の中では失礼した。我と会うことが許されるものかどうかを確かめるために、どうしても必要だったのだ」
「では…」
俺はその人に聞いた。
「我が龍族の神たるムツヲノヌシノカミだ。お前たちをここに招いたのは、他でもない。お前たちだけしか出来ないことをしてもらうためだ」
「俺達にしか出来ないこととは?」
俺が聞き返すと、彼は俺達に背中を向けながら言った。
「付いて来い。お前たちにあわせたい人達がいる」
そう言って彼は俺たちを、入ってきた入り口とは逆方向に連れて行った。