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Superbia  作者: アオ


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第2話 循魂管理局


どこまでも無機質な空間。

白に統一された、よく言えば清潔感のある、悪く言えば息苦しいまでに白一色の空間に、ビアはいた。


「……おや、あなたが現場ではなく循魂管理局(こちら)にいるなんて、珍しいですね。ビア」


カウンターの向こうにいた男が皮肉めいた口調で声をかける。

ビアは面倒くさそうにため息を吐いた。


「呼び出したのはそっちだろう、セイン」

「ええ、任務記録の管理をしていまして」

「監視だろ」

「管理、です」


ぶっきらぼうなビアに対し、セインは張り付けたような笑みのまま返す。


「あなたの任務記録を整理していたのですが、最近任務完了までに少し時間がかかっているようですね」

「……気のせいだろ」


セインの言葉に、心当たりはある。

原則、魂魄の回収は迅速に行わなければならない。魂魄の回収に時間がかかるほど、回収し循環できたはずの魂魄は悪霊へと変化し、“魂の循環”が行えなくなるからである。


悪霊に堕ちてしまった魂魄は回収後、循環することなく、いわゆる“地獄”という場所で永遠の闇の中に閉じ込められる。


魂魄が正しく循環できないと、人間界で活動する魂魄が減り、世界が機能しなくなるのだ。

そうならないためにも、魂魄の回収に時間をかけてはいけない。


しかし、最近の任務では「三秒」という奇跡の時間を魂魄に与えていた。

そのことを、セインは言っているのだろうと察してはいるが、ビアは知らんぷりを決め込む。


「あなたの“魂盤”のログを拝見いたしましたが……。

平均、魂魄の回収を2秒ほどで終えているのに、最近の任務では5~6秒かかっています。

もちろん、それでも一般的な処理速度からしたら相当速いのですが……。

こうした些細なことにも目を光らせていないと、危ないのは私のクビですので」


そう言うセインは、相変わらず感情の読めない笑みを張り付けている。

セインの言う魂盤とは、ビアのポケットに乱雑にしまわれている円盤のことである。

セインのいる循魂管理局では、魂盤のログを見ることができるのだ。

それをビアも知ってはいたが、僅か数秒なんかで呼び止められるとは思っておらず、完全に誤算であった。


「相変わらず神経質なことで……。たかが数秒のことで、現場から呼び寄せられるくらいには人手が足りてるってことで間違いないか?」

「この四秒の差が問題なのです。あなたはいつだって、魂魄の未練の強弱に左右されることなく回収任務を行っていたでしょう」


セインの言葉に、ビアは黙る。

事実、ビアが故意的に魂魄に時間を与えているのだ。


「……俺も腕が落ちてきたってことだな。まあ、実害もないんだし良いだろう」


ビアのように魂魄を回収する者を、「循魂官」という。

一般的な循魂官の魂魄の回収にかかる時間は平均で2~3分ほどである。

それを僅か数秒で行うのだから、ビアの優秀さは言うまでもない。


たった四秒をねちねちと突かなければならないのだから、循魂管理局の奴も大変だな、とセインを見てビアはため息を吐く。


「数秒の奇跡で、魂魄を救っていると思っているのですか?

さすが、“傲慢(スベルビア)”ですね」


セインの言葉に、ビアの指先がピクリと反応する。


「その名前で呼ぶな」


切れ長のビアの瞳が、セインを容赦なく睨みつける。

隠す気もないビアの殺気に、セインも短くため息を吐いて返す。


「まあ、良いです。今回は見逃しましょう。

ビアを呼び出し、注意喚起を行ったという記録自体はできましたので」


セインはてきぱきと手元の機械を操作しながらビアにそう告げる。


「さて、ではせっかくなので次の任務の話です。

間もなく寿命を迎える魂魄がありますので、そちらの回収をお願いします。

詳細は後程送りますね」

「ああ」

()()()()()に、お願いしますよ」


ビアはセインの言葉を受けると、くるりと背を向けた。

会話の終わりを告げる合図であることを、セインも理解しているためそれ以上は何も言わず業務に戻る。


ビアはセインの居る「監査課」を出て扉を一つ、二つと通り「記録課」と書かれた扉の前で足を止めた。

普段現場で魂魄の回収を行っているビアは、滅多に循魂管理局には来ない。

せっかく来たのだから、と寄り道感覚で記録課へと赴き、どこか躊躇する指先でそのドアノブに触れた。


扉の向こうに広がる空間は、監査課と同じように白で統一されている。

監査課と違うのは、記録課には図書館のように背の高い本棚が無数に陳列しているところだろう。

すべて同じ装丁の本が本棚に隙間なく並べられており、本には魂魄の生涯が綴られ、長く生きた人ほど厚い本となっているのだ。


ビアは目的の本棚へと迷うことなく進み、指先で背表紙をなぞりながら、一際薄い本の背表紙で指先がぴたりと動きを止める。


その本を手に取るかどうするか、迷っているビアのポケットが震える。


ビアは本の代わりにポケットにある魂盤を手に取ると、そこには先ほどセインが言っていた新しい任務の詳細が浮かんでいた。


『循魂管理局


回収任務

対象:男性

時刻:11:54

未練:強

魂魄:未回収』


未練の項目に目を通し、「強」の文字にビアはため息を吐いた。

そして腰に下げた懐中時計を確認すると、魂魄の寿命が尽きる時間まで残り時間が少ないことに気が付く。

これもセインの嫌がらせか、とビアは軽く舌打ちをして本棚に背を向けた。


結局、ビアは本を手に取ることはせずに循魂管理局を出て現場へと向かう。

次の魂魄を回収するために。




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