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Superbia  作者: アオ


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第1話 誕生日の夜


夜のオフィス街。

色とりどりのネオンが重なり合い、目に痛い蛍光色に塗れた夜の空。

活気溢れる街中で、忘れ去られたように聳える廃ビルの屋上でその縁に座る一人の男は、ポケットの中に僅かな振動を感じて手を差し込む。

小さな円盤を取り出し表面に触れると、揺らめきながら文字が表示される。


『循魂管理局


回収任務

対象:男性

時刻:22:13

未練:強

魂魄:未回収』


その文字を確認し、男は短く息を吐く。


(未練、強か……)


男は円盤をポケットに戻すと、立ち上がり何もない空間に一歩踏み出す。

まるでそこに地面があるように、空を進む男は迷うことなく一つのビルの上にまで来るとゆっくりと降下し、ビルの入り口に立つ。


ビルは人の出入りがあるものの、その誰もが黒いコートを羽織る男のことなど見えていないように、一瞥することもなく素通りしていく。

男は誰にも注目されることなくビルの中に入ると、まっすぐに指定されたオフィスへと向かう。


節電のためか、暗くなったオフィスで煌々と光るのはパソコンの画面である。

パソコンの前には資料が広げられており、一人の男性がその上に突っ伏すようにして倒れていた。

人の気配のないオフィスで、男性のすぐ横に置かれたマグカップから立つ湯気だけが人のぬくもりを感じさせる。


机に突っ伏す男の横に立つ、もう一人の男。男は困惑したように“自分自身”を見下ろしていた。


「え……?俺、なんで……」


体の透けた男は状況を飲み込むことができずに困惑する。

戸惑うように視線を忙しなく動かすと、暗がりに立つ黒いコートを羽織った男を見つけて、その表情に絶望の色を映す。


「あんたは……、いや……俺、死んだのか……?」


困惑する男は、黒いコートの男にそう問いかける。


「そうだ」


短く返答すると、男は絶望の色をより濃くし、その場に崩れ落ちた。


「嘘だ……! そんな……どうして今日なんだ……っ」


絶望する男を見下ろしながら、黒いコートの男は円盤に浮かんだ文字を思い返す。


『未練:強』


未練のある“魂魄”の回収は容易ではない。

しかし、自分の死を受け入れることで未練がなくなる場合もあるため、男は黙って首から下げていた鍵を手に取り空間に差し込む。


────カチリ、


音がして、何もない空間に扉が浮かび上がった。

扉から零れる光に、絶望していた男は子どものように泣きじゃくった。


「む、娘に……電話をしないと……!」


涙はとめどなく溢れ、頬を転がって床に落ちる。

薄汚れたカーペットに、涙の染みはできない。


「無理だ。もう、時間だ」

「そんな……っ、待ってくれ……!今日は……!」


男は泣きながら、ポケットからスマホを取り出す。

ロック画面にはメッセージ通知が何件かあり、そのうちの一つを指先で丁寧になぞる。


『娘:今日は早く帰ってきてね!』


その文字に、男の瞳から涙が溢れる。


「今日は……誕生日なんだ、娘の……」


涙で掠れた声は、黒いコートの男に届く。

未練の理由が分かった男は、短く息を吐いて手にしていた鍵を一振りした。

すると、絶望する男のスマホがわずかに光る。


「三秒だ」

「え……?」

「奇跡だと思え」


スマホが振動し、気が付けば娘と通話が繋がっていた。


『もしもし、パパー?

まだ帰ってこないの?』

「あ、ああ……遅くなってごめんな」

『ううん、お仕事遅くまで頑張ってくれてるの、知ってるもん。

ありがとう!ケーキ、食べないで待ってるよ!』


娘の、底抜けに明るい声は、絶望の色に染め上げられたこの空間ではひどく場違いで。

男は震える声で涙を隠すように笑った。


「ああ、ごめん。本当に……。帰れなくて、ごめんな」


それだけ言うと、スマホは輝きを失い音もなく画面は消える。


「時間だ」


黒いコートの男が言うと、絶望に泣いていた男はゆっくりと立ち上がった。

深く息を吐き、目を閉じる。


「ああ、ありがとう……」


男はそう言うと、扉のドアノブに手をかけた。

扉を開ければ、溢れるあたたかな光に、男は再び涙を零す。

自身の“終わり”を受け止めるように、男はただ静かに泣いて、そのまま光の中に身を投じた。


男が扉をくぐると同時に扉は消失し、静寂と暗がりだけが残されたオフィスが広がる。

机に突っ伏した男のデスク上に、スマホが置かれていた。

僅かな振動とともに、点灯するロック画面にはメッセージ通知が浮かぶ。


『パパ、どうしたの?』


そのメッセージに、既読がつくことは永遠にない。

男はスマホの画面を見ることなく、ポケットから円盤を取り出して任務完了の報告を行うと同時に、手の中で円盤が震えた。


任務の通知ではなく、“上”からの連絡である。

男は気怠そうにため息を吐くと、円盤に触れた。


『任務は滞りなく終わりましたか?────……ビア』

「ああ。任務完了の報告をしただろう。確認していないのか」

『……ああ、今確認しました。入れ違いでしたね』


通話の向こう側の声は悪びれる様子もなく淡々と続ける。


『いや何、あなたにしては少し時間がかかっていたような気がしまして……。

問題なく終了したのなら、こちらからいうことは何もないです』


それだけ言うと、一方的に通話を切られた。

信用がないのか、それともただの過干渉なのか……。

黒いコートの男、ビアは円盤を乱暴にポケットにしまい込んだ。




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