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Superbia  作者: アオ


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1/3

プロローグ


────……雨の降る夜は、晴れた日よりもずっと、夜の色が濃い気がする。


漆黒を照らす赤いランプは、どこか不穏さを感じさせる。

横転した車と、骨組みが複雑に折れたどこにでもあるビニール傘。

片方だけの靴は裏返っていて────……鮮血は雨で流される。


一人の人間の時間が止まった。


(……ここか)


黒いコートを目深にかぶった男が、雨の中歩いてくる。

凄惨な事故現場に、男はわずかに眉根を寄せた。


男は倒れている人間を見下ろす。若い男性であることはわかるが、身体の損傷は激しく、顔は原型がわからないほどであった。

その体の横に、もう一人の男が立ちすくんでいる。

体は透けていて、雨は男を通り抜け地面を直接叩く。


「……時間だ、行くぞ」


立ちすくむ男にそう声をかけると、男はゆっくりと顔を上げる。

傷のない顔立ちは整っていて、優しそうな雰囲気を醸し出していた。


「そうか、俺……死んだのか……」


男は答えない。

変わりに首に下げていた鍵を右手に持ち、何もない空間に差し込むと、不思議なことに「カチリ」と何かがハマる音がし、何もなかったはずの空間に扉が現れた。


「行くぞ」


短く言う男の背に、透けた男が少し迷いながら声をかける。


「最後に一つ、良いだろうか」

「……三秒だ」

「短いな」


男の返答に困ったように笑う。

男は恥ずかしそうに後頭部を搔きながら、


「彼女に……」


と言いかけるも、言葉が見つからないらしい。


「……言葉を残すことはできない」

「そっか……」


男は残念のような、どこか安心したような、複雑な表情を見せる。


「行くぞ」

「……わかった」


男が扉を開くと、中から光が溢れ出す。

透けた男はためらうように、地面に横たわる自分を数秒見つめた後、光の中へと身を投じた。


扉が閉まり、漏れ出た光を閉じ込める。

辺りは再び漆黒に塗れ、赤灯だけが目に痛い。


男はポケットから手のひらより少し小さい円盤を取り出す。

何の変哲もない円盤だが、男がその表面に触れるとわずかに光り文字が表示される。


『循魂管理局

回収任務


対象:男性

時刻:23:41

未練:未確認

魂魄:未回収』


男がその文字に触れると、文字は揺らめいて次の文字を綴る。


『回収任務達成状況』


慣れた手つきで円盤を操作し、『任務完了』の選択肢に触れた。


『回収任務:完了

次の任務を表示しますか』


男は指先で円盤をなぞると、乱雑にポケットへとしまい込む。


「……次だ」


誰に言うでもなく、一人そう呟くと、男は暗闇に姿を溶かした。


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