涙の後の晴天
頭から柔らかい感触とともに誰かに撫でられているような感覚が伝わってくる。
目を開けると百合が俺のことを膝枕しながら俺の頭を撫でていた。俺が起きたことに気づくと百合は安堵した表情を見せた。
「よかった、もう会えなくなるのかと思ったよ」
百合の言ってることが普通なら大げさだと思うかもしれない。けど、今はその言葉が全身に滲みた。
「聖朱君何があったのか話してくれる?」
気が抜けたのか声を震わせながら百合は聞いてきた。そんな百合を見て俺は隠さずにちゃんと百合の気持ちに応えようと思った。
俺は深く頷いて、夏休みに入ってからの今まで経験してきたことを全て話した。
夏休み前のことを思い出せないこと、最近の出来事に懐かしさや既視感が多くあること。
水族館で水槽から見えた見たことのあるけど記憶に無い記憶。
そして妙にリアルな夢のこと。
全部話した。話し終えるころにはまた俺は涙が出ていた。百合も泣いていた。
「聖朱君ハグしよ」
そう言って百合は起き上がった俺の胸に飛び込んだ。そして俺を強く肋骨が折れてしまうんじゃないかってぐらい強く抱きしめた。しばらくすると、
ふぅと息を吐き百合は俺の方を見た。
その瞳はまるで何か覚悟を決めたみたいにまっすぐと俺の方を向いていた。
「聖朱君、明日のお祭りのあと話したいことがあるの。でも、それは聖朱君にとってつらいことになるかもしれない。それでも君は聞いてくれる?」
聞きたくない。と言えばきっと百合は話さないでいてくれるのだろう。きっと今までそう言って逃げてきたんだと思う。
でも、俺はお人好しの老店主がいる服屋に行った帰りに百合の家に行くと決めた日から目を背けないこと、百合の気持ちを無下にしないことを心に決めた。だから、
「わかった。それが百合と俺の二人のためになるのなら俺は聞くよ。たとえそれがどんなに辛くても」
そう言って俺は百合の唇に軽くキスをした。
百合は少し頬をか赤らめながら
「ありがとう」
と言って優しく微笑んだ。
明日、俺は自分が選んだ道の答え合わせをする。
そしてそれと同時に明日で百合と会えるのは最後。
なんとなくそんな気がした。少し早い夏休みの終わりのような感じがした。いや、もしかするかなり長い夏休みの終わりなのかもしれない。
どんな結果だったとしても俺はその真実を受け入れなければならない。
いろんなことを考えれば考えるほど俺は百合の体温を感じずにはいられなかった。
八月十三日、昨日のことがあったにも関わらず今日はなんともなくいつも通りに起きれた。
ベッドから起き上がって花たちに水をやりに行くべく学校へ行く支度を始める。いつものようにひどいアホ面からマシなアホ面にすべく顔を洗い歯を磨いて制服に着替える。普通の日が懐かしくって自然と笑みが溢れてしまった。
「おはよう、百合」
「あ、おはよう、聖朱君。
昨日はあれから大丈夫だった?」
「うん大丈夫だよ、ありがとう。」
「ならよかった」
花たちにに先に水をあげていた百合は安心したように笑ってみせた。いつもと変わらない笑顔が愛おしかった。
「この子まだ咲かないね」
「うん」
水やりを終えたあと俺と百合はまだ咲かない蕾のままのマリーゴールドを見ていた。
「でもちょっとずつ開いてはいるね」
「そうだね」
「聖朱君、この子は絶対に咲くよ!」
突然百合が声を張って言った。
「ああ!咲くよ!」
俺もそれに応えるように力強く頷いた。




