向日葵のように
[あぁ、そこにいたんだ。やっと見つけた]
画面に映る男は廃園になった遊園地の中で涙を流しながら言った。
シーンが切り換わり月明かりでスポットライトのように照らされた一輪の向日葵が咲いていた。
その向日葵から一滴の水滴が男が見つけてくれたことを喜ぶかのように優しく滴り落ちた。
シーンはそのままに向日葵が写生画になってエンドロールが流れ始めた。
妙に既視感があって普段は自己投影して映画を観ないけどこの映画は自分のことのように思えた。
感傷に浸っていると肩に重みを感じた。
横を見ると百合が目を瞑りながら頭を俺の肩に乗っけていた。長い映画だったから寝てしまったのかもしれない。
「百合、寝ちゃったの?」
聞くと百合は肩に顔をうずめて首を横に振った。
顔を覗いてみると頬に涙が流れた跡があった。
「泣いてるの?」
「君だって泣いてるじゃん」
「え?」
言われて自分の頬に触れると涙で濡れていた。
気づかずに泣いているなんて初めてだった。
けど、この感覚に懐かしさがあった。
「ねぇ、ハグしてもいい?」
顔をうずめたまま百合は耳を赤くして言った。
かと思えば俺の返事を待たずに痛みを感じるほど強く、まるで別れを惜しむかのように強く抱きしめた。
「もういいんだよ、」
微かに、消えそうな声から確かに聞こえた。
「何が?」
「っ!なんでもない、映画に対して言っただけ」
百合はそう言って困ったような顔をしながら笑って見せた。
でも確かに俺に対して言っていた気がした。
「ふぁあ」
長時間の映画だったから百合は少し目を瞑れば寝てしまいそうなあくびをした。
あくびをしたからなのか涙が頬を伝った。
それにつられて俺もあくびをすると百合は目を瞑りながら微笑んだ。いつの間にか雨は止んでいて、カーテンからは夕日の光が射し込んでいた。
その光が百合を温かく、優しく照らしていて映画の中の向日葵が月明かりに照らされていたように照らしていた。ずっと見てると百合が一輪の花のようにさえ見えてくる。
「百合、」
「ん〜?」
「君と一緒に校庭の花壇にあるあの花が咲くのを見たい。あの花だけじゃなくてその先もずっと一緒に花を見ていたい。君が好きだ」
今ここで言わないとずっと後悔することになると思った。ここで今言わないと今日この見て見ぬふりをしてきた気持ちに向き合った意味がないと思った。
それに百合もきっと俺と同じ気持ちだと信じたい。
「私も好き」
驚くことも大げさに喜ぶこともなく百合は自分も同じ気持ちだと言うことだけを静かに教えてくれた。
まるで何年も付き合ってる人同士がお互いに好きって気持ちを再確認し合うみたいだった。
意外にもあっさりとした告白の返事だったけどそれでも嬉しかった。
これからもまた百合と過ごせる気がして。
そう思っていると、隣から寝息のようなものが聞こえて百合の方を見ると寝息を吐きながら静かに眠ってしまっていた。
俺も、百合のが移って瞼が重くなってきた。
その重みに任せて自然と目を瞑ると眠気がさらに増して、そのまま眠気に身を任せることにした。
「百合、好きだよ」
「私もだよ、だから、、、」
意識が眠気で途切れそうなとき、微かに震える声で百合が何かを言っているのが聞こえた。けど、何を言っていたのかはわからなかった。




