8章 超越!中学生になった華凛
「華凛、起きてぇ〜っ。朝だよ、朝。」
「んん〜…?」
ゴーストの声を聞いて華凛は上半身をゆっくりと起こす。まだ寝ぼけながら恐らく寝る前に机に置いたであろうデバイスを手に取るために右手をぺたぺたと机に当てる。
「…どこだぁ〜っ、ゴーストぉ〜っ…?」
「ここだぁ〜っ、華りぃ〜ん!」
何度か当てている内にデバイスに軽くぶつかった。位置を特定できた華凛はそのままデバイスを掴んで見た。
「…おし。おはよう、ゴースト。」
「おし。お目覚めかい、華凛。」
華凛は立ち上がり、着替えを持ってシャワーを浴びにいく。まだ眠いのでだらしない感じで服を脱ぎ、シャワーを浴びた。
「おぉ〜っ…!やっぱり朝からシャワーって良い感じ〜っ♪今度から常だね、常!」
熱い湯を浴びて鼻歌混じりで髪をささっと洗い、十分にシャワーを堪能した後、私服に着替える。
「しかし、学校に行く前にシャワーを浴びるようになるなんて華凛も立派になっちゃって…!中学生デビュー、気合入ってるじゃない!何、早速ボーイフレンドとか作っちゃう〜?」
「何か私よりテンション高いね、ゴースト…。」
華凛は鏡の前でドライヤーを使い、茶髪掛かった黒髪を乾かしてセット。お気に入りの髪留めとサイドテールを決めて、スカートをひらひらさせてリビングへと向かう。
「おはよ、華凛。」
「あ、おはよう、お姉ちゃん。」
リビングに向かう最中に姉の天音の部屋の前を通った。天音は自室の扉を閉めないので必然的に毎日朝の挨拶をする。
天音は近年できた『デュラハン・パーク』の社員となって、そこから近いからという理由でまた一緒に暮らす事になったのだが、姉妹なのにどこかぎこちない。
天音はタンクトップの短パン姿でテレビゲームとスマホゲーム、携帯機と三つのそれぞれ別の育成ゲームで遊んでいた。
「お姉ちゃん、今日仕事は?」
「私、今日有給なの。」
「そうなんだ…。」
「…あのさ、華凛さ…中学校生活にはもう慣れた?」
「まだ通い始めてニ週間だよ?授業は今日からだし、私服の学校で制服じゃないしさ。まだ、あまり実感がないよ。」
華凛は中学生になった実感を得たかったから朝からシャワーを浴びるなどをして、新生活の実感を得ようとしていたところもあった。
「素子ちゃんも颯ちゃんも同じクラスになれたのは嬉しかったけど…。」
商店街でのファーストミッションの後から四年。颯と素子は他校だったため、祝日くらいしか会う機会がなく、都合も合わない時があったため、なかなか御頭ミステリー研究会としての活動は出来なかった。
この春から中学生になって、颯と素子とは同じ御頭中学校に通う事になったので一緒に行動する機会が増えるのは華凛にとっては喜ばしい事だった。
「まぁ、気楽に頑張りなさいな。」
「何か他人事ぉーっ…。」
華凛は天音との会話を切り上げ、朝食が置いてある机に向かう。
「あ、そうだ。あんた、A組だったっけ?」
「うん、そうだけど。」
「あーっ…じゃあ、別のクラスか…。私の知り合いでさ、『城之園愛歌』って子がいるんだけど、もし会う事があったらよろしく言っといてよ。あの子、良い子だから、あんたの友達になれると思うよ。」
「わかったけど、クラスが違うって割と距離あるんだよね…。まぁ、会う機会があったらね。」
今度こそ、華凛は朝食に向かった。
「おはよう、華凛。」
「おはよう、母さん!」
華凛は依唯子に挨拶し、椅子に座った。朝食はトーストとコーンフレークだ。
「天音、まだゲームやってた?朝食食べないのかしら?しょうがない子だ。」
「お姉ちゃん、一度育成ゲーム始めたら止まんないからねぇ〜っ…。仕方ない、食べ終わったら私が運んどいてあげるよ。」
「ありがとう、華凛。じゃあ、お願いね。」
テレビでニュースを見ながら依唯子と華凛は朝食を食べる。
「あら、また爆発事故ですって…。最近多いわねぇ〜っ…。」
「うん、そうだね…。」
ここ最近の御頭街は怪事件が多い。
爆発事故だけじゃない、首無しの化け物も現れたという噂も聞く。もしかしたら、肝試し大会の時に会った首無し鎧武者みたいなのがこの街にはたくさんいるのかもしれない。
襲われた時の事を思い出し、華凛の背中に悪寒が走った。
「…? どうしたの、華凛?」
「ううん、何でもないの!」
華凛は急いで朝食を平らげ、椅子から立ち上がる。
「ご馳走様、母さん!」
「はい、お粗末様。」
華凛は食器を洗った後、天音の部屋にトーストを乗せたおぼんを運ぶ。
「お姉ちゃん、朝食ここに置いとくね。」
「ん。…ありがと、華凛。」
「何、大したSolve the caseじゃないよ!」
もう学校に行く時間なので華凛は急いで自室に戻る。鞄を手に持った後、玄関に行って靴を履く。
「それじゃあ、母さん!行ってきまぁーす!」
「はい、気をつけて行くのよ?華凛。」
華凛は玄関から外へ行き、階段を駆け下りる。周りを確認した後、鞄からデバイスを取り出した。
「もういいよ、ゴースト。改めておはよう。」
「うん、おはよう、華凛。」
ゴーストの存在は未だに素子や楓以外には秘密という事になっている。華凛はマンションから出て御頭中学へと向かう。
マンションから中学校へは大体二十分くらいで着く距離だ。
「もうあれから四年経ったからゴーストから改めて聞いたけどさ、ゴーストってデュエル・デュラハンではないんだよね?」
「うん、そうだね。」
肝試し大会の時、ゴーストは四年待ってくれと言っていて、今年の初めにやっと自分の正体を話してくれた。
デュエル・デュラハンとはこの街で一年前から急に流行ったゲーム。
スマホのデータユニットのデュラハンの頭を付け替えて戦うゲームだ。
一試合に三回だけ頭を変える事ができて、頭のタイムリミットは一つ三分。
色んな媒体で遊ぶ事ができて、現にさっき天音が遊んでいたゲームの一つがデュエル・デュラハンだった。
天音はデュエル・デュラハンを育成ゲームとして遊んでいる。
「ゴーストはデュエル・デュラハンが流行る前から存在していたし…。」
「ボクは『デュエル・デュラハン』じゃなくて、君の『ディサイド・デュラハン』さ。」
「そのディサイド・デュラハンってのがよくわかんないんだけどさ…。」
華凛は曲がり角を通り、歩道橋を登る。
「パートナーである君と共鳴して、ディサイドしたデュラハン。それがボクさ。それ以上でもそれ以下でもないよ。」
「うーん…聞いてもさ、そのディサイドってのがいまいち、わかんないんだけどな…。」
「…わかんなくていいよ。ボクは忘却の彼方の存在…。もう本筋には関われない永遠の部外者さ…。」
「何か、かっこつけてるな…。」
「ははっ、そうかい?」
華凛は歩道橋を降り終えて御頭中学への通学路を歩く。
「ゴーストの正体は聞いてもさ、なかなかSolve the caseまで持っていけないや…。」
「その決め台詞、キミが使うにはまだ早い!ボクは先駆者としてキミに立ちはだかるのさ!」
「師匠ヅラ!意地悪!」
「それ、よく言われる。」
「誰にさ?」
「おっと、その手には乗らない。」
ゴーストとそんなやり取りをしていたら、もう学校は目の前だった。ゴーストにまた後でね、と言った後、鞄に閉まった。
下駄箱で靴を履き替えて1年A組の教室へと向かう。
廊下で話をしている生徒が多い中、華凛は教室を目指す。
「おし、道人!今日も放課後、俺の家で勝負じゃ!」
「もちろん、いいよ!ハーライムで受けて立つ!」
「ちょっと、大樹君!あたしのルブランは眼中にない訳?」
廊下でも生徒がデュエル・デュラハンで盛り上がっている。今はどこにいてもデュエル・デュラハンは大流行りだ。
「…!? 道人…?」
「ちょ、ちょっと…!?ゴースト、喋っちゃ駄目だって…!」
急にゴーストが鞄の中から喋って驚いた。この四年間でゴーストが学校で迂闊に声を出したのは珍しい。
華凛は周りを見回すが、どうやらゴーストの声は誰にも聞かれなかったようだった。
「…道人、ね…。」
華凛はゴーストが思わず声を出した存在『道人』を覚えておく事にした。何かゴーストの秘密に近づける鍵のような気がしたからだ。
華凛はA組の教室に入り、自分の席に向かった。
○大神華凛 12歳
血液型 A型
誕生日 11月21日 乙女座
身長 155cm 体重 秘密
趣味
読書、主に推理小説 本屋巡り 推理する事
好きな食べ物
パスタ系
苦手な食べ物
茄子




