7章 帰宅、そして未来へ
「あ、あのお爺さん。封筒、見つかりました。これで間違いありませんか?」
華凛はMr.シルバーと別れた後、式地の元まで走って来た。両手で封筒を持って差し出す。
「お、おぉっ!これじゃ!間違いない!良かった、封筒は開かれてないみたいじゃの…。ありがとうな、華凛ちゃん!いやぁっ、助かったよ!」
式地は安堵を含んだ笑顔で華凛の頭を左手で撫でた。
「華凛ちゃん、お手柄やん!どこにあったん?」
素子と颯も走って来て合流した。
「やっぱり、あの老紳士の人が持ってたよ。さっきばったり会ったの。」
「そうか、そうか。良かった、一時はどうなる事かと思ったわい…!」
華凛はあのMr.シルバーと名乗た老人について気になる事があったが、この場では言うのはやめといた。
「ま、何にせよ、これでSolve the case!だね?」
「どこに指差してんだ、華凛?」
華凛は誰もいない場所を指差して右目でウインクしていた。
「いやぁっ、お爺さんを指差す訳にはいかないし…。」
「ふふっ、うちらの初めての依頼、無事に成功やね!」
「お嬢ちゃんたちに是非お礼をしたいところじゃが…。生憎、もう時間がないの…!急がねば…!」
華凛もスマホで時刻を確認した。二時二十分だった。
「急いだ方がいいですよ、後四十分しかない!」
「すまん!このお礼は必ずするからの!ありがとうな、華凛ちゃん、颯ちゃん、素子ちゃん!では、またの!」
そう言うと式地は急いで走っていった。
「行ってしまったな…。短い間だったが、明るい老人であった…。」
「せやけど、結局封筒の中身は何だったんやろ?恐らくロボット絡みなんやろうけど。」
「企業秘密か何かだろうし、どの道私たちには知る由はないよ。さ、買い物続けよう!」
「そやね。」「うむ。」
こうして華凛たちは中断していた商店街内のショッピングを再開した。
スーパーに行き、素子は薬コーナーでもうお金がないのを悔しがっていた。
颯はどら焼きを三つ買い、三人で食べながら楽しく歩いた。
そうしている間に楽しい時間はどんどん過ぎて行き、もう夕方五時になった。
最初に入った商店街の入り口まで歩いて戻る。
「…? あれ?」
「どうしたん、華凛ちゃん?」
華凛はお土産屋の前で立ち止まった。来た時と変わらず、お婆さんがうとうとしている。が、ある変化に気づいた。
「…床に散らばってた紙ゴミがなくなってる…。」
「ん?あ、ホントだ。ま、私らがいなくなった後に掃除したんだろ。」
「…ちょっと、待ってて。」
華凛はお土産屋に入り、お婆さんに聞いてみる事にした。
「あの、お婆さん。尋ねたい事があるんですが…。」
「ほえ?何かのう?」
「朝、床に散らばってた紙ゴミはお婆さんが片付けたんですか?」
「紙ゴミ?はて?何の事かの?」
お婆さんはそもそも紙ゴミが散らばっていた事自体記憶にないようだった。
「ここの婆さん、いつもこんな調子なんだ。気にせず帰ろう、華凛。」
「うん…。」
颯の言う通りにし、華凛は去ろうとする。
「…あ〜っ、そう言えば今日、普段とは違う事があったのぉ〜っ…。」
「えっ?違う事、ですか?」
華凛はお婆さんの方を振り返った。
「すごくダンディな老人が来てのぉ〜っ…。片眼鏡をつけたニヒルな方じゃったわい…。わしがもう少し若かったら、きっと恋に落ちていたじゃろうなぁ〜っ…!」
間違いない、Mr.シルバーの事だ。華凛はもっと詳しく聞く事にした。
「そのお爺さん、何を買いにここに来たんですか?」
「いいや、何も買わんかったよ?気がついたらいなくなっておって、冷やかしじゃった。じゃが、かっこよかったから許す。」
「そうですか…。」
華凛はこれ以上お婆さんから話を引き出すのは難しいと思った。これだと自分も冷やかしになってしまい、申し訳ないので犬のキーホルダーを買った。
「華凛ちゃん、どうしたん?あの老紳士さんの事で気になる事でもあるん?」
「うん、実は…。」
颯と素子ももう御頭ミステリー研究会の仲間だ。華凛は二人にも話して意見を聞いてみる事にした。
「ふむ、Mr.シルバー…。意外と厨二チックな名前だったのだな、あの御仁。」
「なるほどなぁっ…。散らばった紙ゴミ、落とし物よりも優先した本探しに履き替えた革靴…。駄目や、うちには繋がりが全くわからわぁ〜っ…。」
「うん、どうしても気になるんだよね…。」
やはり推理するには材料が少な過ぎる。これ以上考えるのは無理だと華凛は思った。華凛たちは商店街を通り抜け、近くの歩道橋まで歩いて来た。
「あ、ほな。うち、家こっちやから。今日はありがと。色々あったけど、楽しかったで。」
「あ、うん!私も楽しかった!また遊ぼうね、素子ちゃん!」
「私もここからは別ルートを辿る!さらばだ、華凛!素子!」
「またね、颯ちゃん!」「ほななぁ〜っ!」
華凛は二人と別れ、歩道橋を上がり始める。
「華凛、そんな気にする事ないよ。もう書類自体は無事に博士の手に戻ったんだしさ。」
「…うん、そうだね。気にしてもしょうがないか!」
ちょっとMr.シルバーの事を疑い過ぎか、と思った華凛は気持ちを切り替えてゴーストと会話をしながら家まで帰る事にした。
「華凛、良かったねぇ。杞憂に終わって。」
「何?何の事?」
「覚えてないの、華凛?今朝は華凛、あの二人の間に自分は入れるのかなぁっ?心配だなぁ、って緊張してたじゃない。」
「あぁ、そう言えば…。」
確かに華凛は今朝、その事を気にしていた。しかし、颯と歩道橋で会ってから二人のペースに自然と入り込む形で突っ込みを入れまくり、気づいたらその事を気にしなくなっていた自分がいた事に華凛は気づいた。
「だからボク言ったでしょ?小学生の仲だったらそんなに緊張する事ないって。」
「うん、そうだね。ゴーストの言う通りだった。何か今日一日で颯ちゃんと素子ちゃんとは大分仲良くなれたなぁ〜っ…!もちろん、ゴーストもね。」
「うん、ボクも楽しかったよ!」
華凛とゴーストは共に今日一日楽しかった日を共感し合い、歩道橋を降り終わった。
「…? 何…?」
歩道橋を降り終わった時の事だった。何か白い小さな物体が目の前を飛んでいった気がした。
「どうしたの、華凛?」
「…ううん、何でもない。」
きっと虫か何かだろう、と思った華凛は気にせずに自宅へと歩を進める。もう辺りは暗くなって来た。何故だか怖さを感じた華凛は早足で自宅へと向かった。
しばらくしてマンションまで着き、急ぎ足で階段を駆け上がり、インターホンを鳴らした。依唯子が扉を開けて姿を見せる。
「あら、お帰り、華凛。もうお風呂沸いてるから先に入っちゃいなさい。」
「はーい。」
依唯子の言う事を聞き、華凛は靴を脱いで自室に荷物を置いた。
「じゃあ、ゴースト。私、お風呂と晩御飯食べるから。大人しく待っててね。」
「はーい、ごゆっくりねぇ〜っ。」
ゴーストに見送られ、華凛はささっと入浴を済ませてドライヤーで髪を乾かした。その後、晩御飯が用意されてるテーブルへと向かい、テレビを見ながら依唯子と共に食事をした。
「あら、御頭博物館で行方不明事件ですって。怖いわねぇっ…。」
「…えっ…?」
華凛は依唯子の言葉を聞いた途端、全身に鳥肌が立った。華凛は血相を変えてテレビの画面をかじりつくように見る。
「行方不明…。あのお爺さんじゃないみたいだけど…。」
一瞬、式地ではないかと思った華凛であったが、行方不明者は別の人だった。
姿を消したのは『羽島大我』博士。荷物は起きっぱなしでいなくなったと言う。
「何…?何でか気になる…。一体…?」
華凛は晩御飯を食べ終えた後、トークアプリで颯と素子たちとこの事件の事を話し合った。
その後、式地と会おうにもタイミングを狙ったかのように多忙となって会う事はできず、この事件も未解決事件として片付けられた。そして、時は流れる…。




