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6章 ファーストミッション!

「よし、それじゃあ早速、ミッション開始!」

「…って、ちょっと待ってな。お爺さん、今、式地悟さん言いました?」

「何か知っているのか、素子?」


 華凛と颯は式地悟という人物を思い出そうとする素子を見る。


「確か、御頭街(おがしらまち)の海岸に浮かぶ二つの島に住んでいる科学者がそんな名前だったような気がするんやけど…。何でもロボットの研究をしてるとかで。」

「おぉっ、その通りじゃ。わしは開発エリアと実験エリアという島に住んでおるんじゃ。よく知っておったのぉっ、お嬢ちゃん。」


 素子の予想は的中していた。


「へぇっ、お爺さん、科学者だったんですね。」

「そんな島暮らしの科学者はんが何故この御頭(おがしら)商店街に来たんです?」

「何、三時から御頭(おがしら)博物館で知人と会う約束をしておってな。それで遠路はるばるやって来たんじゃ。まだ時間があるから寄り道しようとしたのがいけなかったの…。」


 華凛はスマホで時刻を確認した。現時刻は一時四十分だった。


「なるほど、失くした物はそれに関係ある書類…って訳ですか。」

「馬鹿したもんじゃよ。電子データじゃと流出の恐れがあるから紙媒体で持ち運びする事にしたんじゃが、このザマじゃ。」


 式地は溜め息をつき、両手でお手上げのポーズを取った。


「不運だったな、科学者殿。」


 華凛はスマホのメモ機能を使って式地から話を聞く事にした。


「商店街に来る前は持ってたんですよね?」

「あぁ、それは間違いないわい。じゃから、この商店街内で立ち寄った店を戻ってみたんじゃが、見当たらなかったんじゃ。」

「なるほど…。書類は封筒に入れてたんですか?」

「あぁ、普通のA4サイズの分厚い封筒じゃよ。」

「ふん…。」


 華凛はスマホを顎に当てて考えた末、二つ当てはまりそうな場面を思いついた。


「何か思いついたん、華凛ちゃん?」

「二つ程ね。一つは颯ちゃんと行ったお土産屋さん。床に紙ゴミが散乱してた…。でも、封筒らしきものはなかったから違うかも…。だとしたら、もう一つは…。」


 華凛は本屋で会った老紳士を思い出していた。あの老紳士は分厚い封筒を持ち歩いていた。


「あの老紳士かな…。でも…。」

「うん、それだとうちらはあの老紳士さんを盗っ人扱いする事になるで?」

「うん…。でも、あのお爺さんが持ってた封筒が仮に式地さんの物だとしたら、あの人は持ち主を捜さずに本屋で本選びをしていた事になる…。」

「落とし物を探す方法、みたいな本を探してたんじゃないか?」

「それなら、スマホで済むんちゃう?図書館でもええんやし、わざわざお金払わんでしょ。」

「あ、そっか…。」


 華凛たち三人は申し訳ない気持ちがありながらも真剣にあの老紳士の事を疑っていた。


「あのお爺さんがスマホ持ってない、って可能性もあるけどね…。そう言えば、あのお爺さん、結局本買ってなかったな…。何か本を探してるとしたら、まだ近くの本屋さんにいるかも…。」

「何かうちら、完全にあの老紳士さんを疑う流れになっとらん?良くないんとちゃうかなぁっ?」

「…確かに一つの考えに凝り固まるのは危険だね…。うーん…それでも、あのお爺さんがまだ親切に落とし物を届けようとしてくれてるなら、捜せばこの近くにいるかも…。」

「お、お嬢ちゃんたち、歳の割にはなかなか本格的なロジックを組むんじゃな…。少し驚いたわい…。」


 会話に入っていなかった式地は真剣に推理する華凛たちを見て驚いていた。


「ごめんなさい…!私、推理小説が好きなもので…!と、とにかく!式地さんが寄ったお店をまた回りがてら、商店街を探索。場合によっては私がこの辺りの本屋さんを回ってみるよ。」

「「了解!」」


 華凛たちは式地に老紳士がどんな見た目をしているか教えた。一応、知ってる人かもしれないので尋ねてみたが、面識はないと式地は答えた。

 華凛たちは残り時間も少ないため、商店街内を走り回る。


「…ゴースト、喋ってもいいよ。今、お爺さん離れた場所にいるから…。」


 華凛は鞄の中からデバイスを取り出した。


「…う、うん…。ありがとう、華凛…。」


 気のせいかゴーストは普段より元気がないような気がした。


「…? どうしたの?元気ないね。」

「…う、ううん。何でもないよ…。博士の無くし物、見つかるといいね…。」

「うん、『博士』のね…。」


 まだゴーストと会って日は浅いが、華凛にはわかった事があった。ゴーストは割と口が軽かったり、態度に出やすいところがある。動揺したり、カマをかけたりしたらボロを出す事も割と見受けられる。

 今もそうだった。素子の説明で式地は『科学者』とは言っていたが、『博士』とは誰も言ってない。式地とゴーストは何か関係があるかもしれない、と華凛は思った。


「やっぱり、本屋さん巡りかな、これは…。 って、あ痛っ!?」


 華凛は周りをきょろきょろしながら走っていると人にぶつかってしまった。今日はこれで二度目だ。茶色い革靴が華凛の目に入る。


「やれやれ、よく転ぶ子だな、君は…。」

「あっ…!?あなたは…!?」


 華凛がぶつかったのはあの老紳士だった。老紳士はしゃがんでまた右手を差し出した。華凛は手の冷たさに警戒して掴んだが、やはりまた冷たかった。

 華凛は立ち上がり、老紳士を見て頭を下げた。


「ご、ごめんなさい…。私、二度も…。あ、あの…その封筒!」


 華凛はつい老紳士の持っている封筒を指差してしまった。


「あぁ、これかい?誰かの落とし物みたいでね…。落とし主を捜していたんだ…。」

「なら、良かった…!私たち、その落とし主さんが困っていたので探すのを手伝っていたんです…!それでお爺さんの事を捜してて…。」

「ほう、私が封筒を持っていたのを覚えていたのか…。記憶力の良いお嬢さんだ…。それではすまないが、落とし主に渡しておいてくれるかな?」


 華凛は老紳士から封筒を受け取り、安心した。


「ありがとう、お爺さん!助かりました!」

「うむ、それではな…。」

「…あ、あの…。」


 華凛はつい老紳士を呼び止めてしまった。


「ん?何かな、お嬢さん?」

「お爺さんの探し物の本は見つかったんですか?」


 華凛はこの老紳士が探し物の最中に本を探していた事が気になり、つい遠回しに聞いてしまった。


「…はて?何故そのような事を…?」

「お爺さん、本屋で本を探してるって言ってたでしょ?私がぶつかった後、結局本は買わずに店から出て行っちゃったし…。」


 老紳士は少し考えた後、華凛の方を振り向き直した。老紳士の肩に鳩が止まる。


「…いや、見つからなかったよ…。普通の本屋じゃない本なのかもしれないね…。」

「そうですか…。あの、タイトルを教えてくれたら、私も探しますけど…。私、古本屋をよく巡るから…。」

「…いや、自分で探すよ。気遣いありがとう、優しいお嬢さん。」


 老紳士は振り返り、再び去ろうとする。


「…あっ、靴…。」

「ん?」


 華凛はある事に気づいた。老紳士は足を止め、再び振り返った。


「どうかしたかな、お嬢さん?」

「あ、いえ…。」

「何か気になる事でもあるのかい?何、遠慮なく聞いてくれて構わないよ。」

「…靴、革靴が気になって…。」

「…ほう?」


 華凛はある事に気づいた。本屋でぶつかった時は黒い革靴だったのに、今は茶色い革靴になっている。


「…って、何でもないです!ごめんなさい、はっはっはっ…!」


 落とし主を捜していた老紳士が本屋に寄って、その上に靴を履き替えている。華凛はどうしても気になったが、これ以上聞くのは直感的にやめる事にした。


「…ふむ。お嬢さん、私の名前は…『Mr.シルバー』とでも呼んでくれたまえ。良かったら、君の名前を聞かせてくれるかい?君に興味が湧いてきたよ…。」

「えっ?か、華凛…です…。」


 華凛は老紳士の今までとは違う冷たい視線を見てつい緊張し、名乗ってしまった。


「華凛君か…。うむ、気に入った。なかなか読みが鋭い子だな…。将来性がある…。もしかしたら、私の…ふっ、君とはまた会えるかもしれないな…。ではな、ホームズガールたち。」


 そう言うとMr.シルバーと名乗った老紳士はまた靴音を立てずに去っていった。

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