42章 白霧なりの一食一飯の恩義
「駄目だ、完全に手詰まりだ…。」
華凛はミストと共に商店街内の古本屋に来ていたが、Mr.シルバーの起こした事件の手掛かりになりそうな本は見つからなかった。颯、素子、八雲は別の場所を探していた。
「ねぇ、華凛。ここはもう意地を張らずにヘッドチェンジを使った方がいいんじゃない?」
ゴーストが華凛に提案をして来た。確かにこれ以上探しても手掛かりは見つからないように思えた。
「…仕方ない、一回だけ使おうか。でも、何を使おうか…。」
「待って。」
華凛がデバイスを操作してヘッドリストを見ているとミストが止めて来た。
「ど、どうしたの、ミスト?」
「私、考えたんだけど…この試練は初めからフェアじゃないよ。だって、華凛はどうやったって、Mr.シルバーの能力に関しての知識が欠けている…。」
ミストの言う通り、Mr.シルバーと戦ったのは初めて出会った時の一回だけ。その時はMr.シルバーが連れているラゴウがメインで戦っていて、Mr.シルバーが見せた能力と言えば、鳩になってバラバラになった後に別の場所に出現するくらいだった。
後は御頭デパートで自分の顔を変えて見せたりだった。
「つまり、この初めの試練は必ず華凛が一回以上ヘッドチェンジを消費しないといけない場所なの。確実に一回分は減らそうとしているんだよ、あのMr.シルバーは。」
「た、確かに…。ミストの言う通りだ…。」
「だから、使っちゃ駄目…。」
ミストは華凛が右手で持っているデバイスごと、両手で優しく握った。
「華凛は自分が最初に思った事を貫いて。それが、きっと正しい事だから…。」
「わ、わかったよ、ミスト…。」
華凛はミストの助言を聞き入れ、デバイスを仕舞った。
「でも、それだと一体どうしたら…?」
「私に考えがあるの。待ってて…。」
「…? ミスト?」
ミストはそう言うと姿を一瞬で消した。華凛はいきなり消えたミストを捜すため、周りを見渡した。
「…お持たせ。」
「ミスト?」
ミストの声が聞こえた方向を華凛は急いで見た。華凛の目に入ったのは横にスライドし、立ち止まったミストの後ろ姿だった。奥にもう一人、人影があった。
「…!? Mr.シルバー?」
Mr.シルバーも杖を右手に持って先っぽをミストに向けていた。
「…驚いたよ。まさか私の背後に急に現れるとはね…。」
「気配を隠していたつもりなんだろうけど、私の前じゃバレバレです。」
ミストは惚けた感じで両手を横に出してMr.シルバーを煽って見せた。
「ミ、ミスト、どうやってMr.シルバーの場所がわかったの?」
「簡単だよ。私の元、ジャック・ザ・リッパーですから。多分、華凛の様子を近くで見ているんじゃないかな?って思って。商店街の上付近に用意されてた隠し部屋にいた。」
「やれやれ、君を呼んだのは失敗だったかな?」
「そうだね、失敗だったね。でも、何でだろう?私と華凛の出会いは必然だったと私は思ってる…。」
ミストは少し振り返り、華凛を見て微笑んで見せた。その後、Mr.シルバーに視線を戻す。
「この場に私がいないなんて、そんな事考えられないよ。」
「確かに、な…。華凛君とは出会ったばかりだと言うのに大した忠誠心だ…。で、私に何か用か?」
「今から私と戦ってもらう。」
「ミスト?」
華凛は心配そうにミストを見た。
「華凛の仲間たちで実体化できる時間制限がなくて、継戦的に戦えるのは私だけ…。でしょ?」
ミストの言う通り、颯と素子のデュエル・デュラハンは三分しか実体化できないし、素子のデュエル・デュラハンは回復役で戦闘向きじゃない。
八雲も式神を操れるとは言っても同じく戦闘向きではない。
「…ふふっ。」
急にMr.シルバーが意味深に笑い出した。
「…? 何がおかしいの?」
「いや、ね…。思い込みとは恐ろしいものでもあるし、時には頼りにもなるな…と、ふと思ってね。」
Mr.シルバーが意味深な事を言い出したのが華凛には気になった。今のミストの発言は重要な意味を有しているかもしれない。
ミストは振り向いて華凛に小声で話し始めた。
「…私がMr.シルバーと戦って、強引にでも彼の能力を次々と引き出してみせる…。…だから、華凛はMr.シルバーの観察に専念して…。」
「作戦会議かね?」
Mr.シルバーがそう言うと、ミストは振り返ってMr.シルバーを見た。
「…ううん、今日の晩御飯の献立を聞いてただけ。」
「それは良かった。最後の晩餐にならないようにな。」
「それって、おかしくない?それだと私、その最後の晩餐を食べられてるじゃない?あなたに勝って、無事に華凛の家に帰れて、ご馳走の前にいるって事になるじゃない。全然最後じゃない。ねぇっ!」
ミストはそう言うと一瞬でMr.シルバーの懐に入った。
「遅効性でやって来る死だよ。一口食べた瞬間に君は死ぬのさ。」
「何それ?」
ミストはナイフを右手に持ち、Mr.シルバーを横一閃する。Mr.シルバーは後ろに一歩下がって避けた。
続けてミストは左手を前に伸ばす。
「ふっ、ナイフは囮だね。ラゴウ!」
Mr.シルバーがラゴウの名を叫ぶといきなりラゴウが出現し、ミストの左手を右爪で掴んだ。
「くっ!?」
「ミスト!?」
ラゴウはミストを軽々と上に放り投げた。ミストは問題なく、地面を二回跳ねて着地してみせた。
「そうだよ、ラゴウがいた…!これじゃあ、ミストの目論見は…!?」
ラゴウの存在はMr.シルバーの能力を引き出すというミストの作戦には邪魔な存在だった。これでは二対一でミストが不利だった。
「何慌ててるの、華凛?忘れたの?私の能力!」
ミストはそう言うと両手から糸を出した。ラゴウを糸で繋いで操り人形にした。
「これでそのワンちゃんは私の操り人形!ほら、こんな事もできちゃいます!」
ミストはラゴウにその場で無理矢理躍らせてみせた。
「何とはしたないリトルレディだ…。」
「誉め言葉、どうもありがとう!」
ミストはそう言うとラゴウを動かし、Mr.シルバーに襲い掛からせた。
「ふん。」
Mr.シルバーは全身を紙の鳩に変え、ラゴウの右爪の引っ掻きを避けてみせた。
「そのまま糸を切断する気?させない!」
ミストは一旦糸をラゴウから外した後、宙返りして舞い散る紙の鳩をナイフで切り刻む。その後、着地して懐に何かを入れ、ラゴウに再び糸を繋ぎ直した。
Mr.シルバーは人型に戻る。
「ごめんね、私が紙の鳩をリッパーしちゃった!構成するパーツが足りないんじゃないですか?」
「何、私はそれ程やわではないよ。」
ミストは善戦してくれてはいるが、未だにMr.シルバーは華凛が見た事がある能力しか使っていなかった。
華凛はミストを心配し、思わず両手で握り拳を作る。
「…改めて聞かせてくれ。君は一体何故華凛君のために戦う?」
「改めて言う必要ある?私、華凛の事が好きになっちゃったから!」
急なミストの言葉に華凛はつい頬を染める。ゴーストが隣でにやにやしていた。
「私の食べてきた紙から引用すると…そう、一食一飯の恩義ってやつね!ま、私に掛かればもっと盛って億色億飯の超恩義かな?」
「盛り過ぎだろう!」
Mr.シルバーが突っ込むと同時にミストはラゴウを操ってまた襲わせた。




