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38章 怪演!アルジェントルランド

「華凛。華凛、朝だよ。華りぃーん。」

「うん…?」


 ゴーストの声が聞こえてきた。何だか今日のベッドは固く感じた。


「…あ、しまった。私、そのまま寝てた…。」


 華凛は八雲から渡された陰陽師の本が思いの外、おすすめされただけあって読み応えがあり、読み進めていたら気が付かぬ内に眠ってしまったようだった。

 華凛は机から上半身を離し、思いっ切り身体を伸ばした。

 ゴーストが映るデバイスも机に置いてあった。


「…いよいよ今日かぁっ、デュラハン・パークにみんなで行くのは。」


 華凛はスマホを手にし、今日は4月19日の土曜日である事を改めて確認しつつ、同時に時刻も確認した。今は七時過ぎだった。待ち合わせは九時となっている。


「あれから一週間も経ってないのに結構変化あったなぁっ…。八雲先輩に、ミストも一緒に行く事になったし…。」


 華凛がベッドの方を見るとミストがまるで猫みたいに丸まって眠っていた。

 ベッドがふかふかなのがお気に召したようで幸せそうに寝ている。

 華凛は立ち上がって布団を掛け直し、頭を撫でてあげた。


「華凛、急いだ方がいいんじゃない?」

「えっ?何で?待ち合わせ九時からだよ?」


 華凛はゴーストに忠告されたので改めてスマホで時刻を確認するが、間違いなく七時過ぎだった。


「忘れたの、華凛?キミの仲間には二時間以上前行動をする子がいるじゃないか。」

「…あーっ、そうだったね。いたね、素子ちゃんが。」


 素子は二時間以上前行動を心掛けている備えあれば憂いなしガールだった事を華凛は思い出した。

 御頭(おがしら)中学でも誰よりも早く教室にいるという話だ。


「じゃあ、早めに行こっか。私、シャワー浴びて来るね。」


 華凛は着替えを用意した後、ミストの存在がバレないように自室の扉を閉めてからシャワーを浴びに行く。


「今日も目覚めのあったかい雨、頼んます!」


 華凛は機嫌よくそう言った後、暖かい湯を全身に浴びた。

 浴び終えた後、バスタオルで身体を拭いて用意した服に着替える。


験担(げんかつ)ぎ、験担(げんかつ)ぎ…ってねぇぃっ!」


 今日はMr.シルバーの試練をあっという間に乗り越えてみせて、その後に遊園地をみんなで思いっ切り遊んでみせる!という想いを込めて自分にとって一番の勝負服を着る事にした。

 首からネックレス、赤いジャケットにふわっとした黄色いスカートを着こなして見せた。


「まさに年相応さと大人びた感を併せ持ったハイブリッド衣装!下着もお気に入りのピンクの勝負服仕様で今日の私は断然可愛い!」


 自分の服装に自信がある華凛は鏡に映る自分を思わず指差した。

 サイドテールの髪型もばっちりセットした。

 納得のいく見た目になれた華凛はリビングに行き、もう用意されている朝食を食べに行く。

 依唯子が朝食を作り上げるタイミングもばっちしだった。


「おはよ、お母さん!」

「おはよう、華凛。今日よね?みんなで遊園地エリアに行くのは。楽しんで来なさいな。」


 華凛は椅子に座り、ご飯と味噌汁。卵焼きにブリの照り焼きを見る。


「うん、そのつもり!お土産期待してていいよぉ〜っ?」

「もう、華凛のお小遣いじゃ高いものなんて買えないでしょう?はい、机に置いておくわね。」


 依唯子はそう言うと机に二万円を置いてくれた。

 お年玉よりも高い金額なので華凛はつい弾んでしまい、食が進んだ。


「ご馳走様でした!」

「はい、お粗末様でした。」


 華凛は小走りで自室まで走り、扉を開けた。


「あ、おはよう、華凛。」


 ミストはもう起きていて、以前に駄菓子屋で買って来たグミを食べながら挨拶して来た。


「ごめんよ、華凛。ミストが何か食べるものがないかって聞いて来てさ。」

「もぐもぐ。頂いております。」

「別にいいよ。グミ美味しい?」


 華凛がそう言うとミストは口を動かしながら嬉しそうに頷いた。


「…ミスト、ごめんだけど、もう出掛けるからまた窓から外に出てくれる?」

「ううん、いいよ。それくらい朝飯前。グミ食べてるけど。」


 そう言うとミストは俊敏な動きであっという間に窓から外に出て行った。

 華凛も荷物を持ち、玄関まで走る。


「…あ、あのさ、華凛。」

「何?お姉ちゃん?」


 天音の部屋を通り過ぎた後に天音に声を掛けられた。

 華凛は後ろにバックし、斜めに立って上半身だけ天音に見せる。

 今日は仕事は休みなようで天音は育成ゲームで遊んでいた。


「私も小遣いあげるからさ。これで楽しんで来な。」


 天音は右手に持った一万円札を差し出して来たので華凛は天音の部屋に入り、受け取った。


「へへっ、まいど♪」


 華凛は嬉しそうに袖の下に一万円札を入れるフリをした。


「何、その時代劇の悪者みたいな芝居は…?相変わらずね、華凛。」


 華凛は背を向け、天音の部屋から退室しようとする。


「お土産期待してていいよ、お姉ちゃん?私、昨日から姉学を履修中だから、姉の気持ちがわかるようになったのです!」


 華凛は振り返り、自分の胸に右手を当てて誇って見せた。周りにキラキラオーラを振り撒く。


「何よ、それ?もう…。まぁ、いいわ。いってらっしゃい。」

「うん!行って来ます、お姉ちゃん!」


 歳の差があって、少し距離感があった華凛と天音。

 今日はほんのちょっとだけだが、華凛は天音と姉妹らしいやり取りをできた気がした。

 華凛は機嫌よく玄関に向かい、靴を履く。


「それじゃあ、行って来まぁ〜す!」

「はい、いってらっしゃい。」

「気をつけんのよぉ〜っ?」


 華凛は依唯子と天音の声を背に受けて、玄関から一歩外に出た。

 階段を一気に駆け降り、ミストが待っている場所まで走った。

 ミストはまだグミを食べていた。


「お待たせ!じゃ、行こっか!」

「うん。」


 華凛はミストと手を繋いでデュラハン・パークの遊園地エリアを目指す。


「ミスト、私、お小遣いたくさんもらっちゃったからさ。今日はミストに色んな食べ物食べさせてあげられるかもよ?」

「何それ、誠なの?」

「まっこと、まっこと!せっかくもらったお小遣いが勿体ないから、今日は徒歩で遊園地エリアに向かいましょーっ!」


 華凛はミストと楽しく会話しながら歩き、四十分くらいでデュラハン・パークのモノレール乗り場に辿り着いた。


「け、結構歩いたね…。」


 華凛は両手を膝に置いて息を切らした。


「大丈夫、華凛?」


 ゴーストがデバイス越しに心配して来た。


「ぬかったわ…!そもそも素子ちゃんが二時間前行動してるから早く行こうとしてたのに何たる本末転倒…!目先の小遣いに眩んでついお小遣い>素子ちゃんになってしまった…!不覚の極み…!」

「うちは好きでやっとるんやし、気にせぇへんでえぇんやよ?」


 右隣にいつの間に素子がいたので華凛は驚きながら立ち上がった。

 八雲も隣に立っていた。

 素子は青を基調とした上着とロングスカート、八雲は黒を基調とした上着とクリーム色のロングスカートを着て華凛と同じくお洒落をしていた。


「も、素子ちゃん!?」

「はい、素子です。」

「八雲もでしょうや。」


 華凛は立ち直し、二人の方を向いた。


「そ、そうは言ってもさ…。素子ちゃん、今日は何時から…?」

「うーんとな、六時四十五分くらいからおったよ?」


 今日の素子は待ち合わせより二時間十五分前行動だった。


「せやけど、八雲先輩がおったから退屈せんかったで?」

「はい、素子様に合わせて私も二時間前行動を心掛けて来たでしょうや。」

「せ、先輩、あまり無理はなさらずに…。」


 華凛は糸目になって八雲を気遣ってみせた。


「せやけど、ほんまにあの子一緒なんやね。」

「あ、うん。ミスト?」


 ミストは華凛に呼ばれたので走って近寄って来た。


「な、何だか華凛ちゃんに懐いておらへん?呼び方も親しげにミストになっとるし…。」

「いやぁっ、色々ありまして…。」

「ミストだ。改めてよろしく。」

「何や、礼儀正しいな。こちらこそ、改めてよろしゅうな。」


 素子はミストと握手をした。後は颯だけだが、なかなか来ないので華凛たちは近くのベンチに座って会話をして待った。

 八時五十分になったら颯は来た。

 颯は普段通りの動きやすい短パンの服装だった。


「おっす、華凛たち!」

「待ち合わせギリギリに来たね…。」

「まぁ、颯ちゃんやし…。気分屋さんやし…。」

「しかし、本当にあのツインテロリ、一緒なんだな。」

「ごめん、颯ちゃん。そのくだり、もう素子ちゃんとやったんだ…。」


 ミストと颯は因縁もあってバチバチしながらも何とか握手した。


「どうやら、これで全員揃ったようだね。」


 華凛たちの前に急にMr.シルバーが姿を現した。


「あ、あなたは老紳士殿!?」

「わざとらしい反応ありがとう、颯君。さて、それでは楽しい試練…私の講義を受けてもらおうか。」


 Mr.シルバーは両手を広げて華凛たちを歓迎して見せた。


「…? 私たち、まだパーク内に入ってないけど?」

「すまないね、想定していたよりもここの結界が強力なものでね…。私が中に入れない都合上、ここで()()させてもらうよ。何、八雲君とMs.ホワイトミストにあげたプレミアムチケットは私を乗り越えた後に使えるご褒美だと思ってくれたまえ。」

「結界って…?」


 以前、素子がデュラハン・パークには結界のようなものがあるかもしれないと言う話を聞いた事があったが、事実みたいで華凛は面を喰らった。

 言った本人の素子も驚いている。


「展開って何…?」

「何、私も結界のようなものを持っていてね。今、君たちを招待しよう…!」


 Mr.シルバーが右手の指を鳴らすと華凛たちとMr.シルバー以外の人が突然消え、世界が歪み始めた。


「な、何これ…!?」


 空と大地が赤くなり、遠くに銀色に光る遊園地が姿を見せる。

 まるで別の場所に転移してしまったようだった。


「ようこそ、私の楽園『アルジェントルランド』へ!さぁ、私を楽しませてくれ、華凛君たち!」

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