37章 ミステリアスなジャック・ザ・リッパー
「あ、八雲先ぱぁ~い!」
ミストを連れた華凛は御頭商店街の入り口で待ってくれていた八雲と合流した。
早くも先輩呼びに慣れてきた。
「こんにちはでしょうや、華凛さん。それと…。」
ミストは華凛の後ろに隠れて八雲を見ていた。どうやら、罪悪感を感じているようで八雲と相対する事を恐れているようだった。
「大丈夫、八雲先輩は許してくれるから…。いや、あんまり先輩の優しさに甘えるのもどうかと思うけどさ…。」
華凛は自分の右頬を掻き、ミストに困り顔を見せた。
「ね?」
「…わかった。」
ミストは華凛に隠れるのをやめ、八雲の前に立った。
「…ごめんなさい。」
ミストは八雲に対して頭を下げた。
「…はい、いいでしょうや。」
八雲は優しく微笑んでミストの頭を撫でてあげた。ミストはゆっくりと顔を上げて八雲を見る。
「ゆ、許してくれるの…?」
「事情は華凛さんからトークアプリで聞いたでしょうや。もう二度とあんな事はしてはならないでしょうや。お父さんたちにもやんわりと説明しておくから、怖がらずに謝りに来るでしょうや。」
「わ、わかった!ありがとう!」
「良かったね、ミスト。」
華凛はミストの横に立ち、頭を撫でてあげた。
「うん!」
ミストは笑みを浮かべ、華凛に対して頷いた。
「でも、良かったねぇ~っ、ミスト。あなたがジャック・ザ・リッパーを元にしているなら、もしかしたら男の子になってたかもしれない訳で。それだと対応変わるかもよぉ~っ?」
華凛は親指と人差し指を建てて顎に当て、ミストの身長に合わせてジト目でミストを見た。ミストは冷や汗を掻く。
「わ、私は男女平等でしょうや。罪を許すも責めるも性別は関係ないでしょうや。さ、早く本題に入るでしょうや。」
ミストを近くのベンチに座らせ、八雲はミストの手や足に触れた。
「…どうです、先輩?」
「…ふむ、とても式神とは思えないでしょうや…。私はこんな人間に近い式神は初めて見たかもしれないでしょうや…。」
八雲はミストの右頬をつんつんした。
「そうですか…。」
華凛はミストの左頬をつんつんした。
「ボクもミストに触れたいな…。」
デバイス内でゴーストが羨ましがった。
「…あなたたち、真面目に調べてる?」
「も、もちろんでしょうや。続けるでしょうや。」
八雲はミストの前でしゃがんで目を瞑り、ミストの右手を両手で持った。
「…こうして直に触れて確かめてみると確かに霊力は感じるでしょうや…。しかも、これは式神の元となっている人形自体がかなり高性能なものでしょうや…。誰かに霊力を与えられている訳ではなく、自力で霊力を生成する機関があって、それが自立行動を可能としているでしょうや…。一度式神として成立してしまえば、もう陰陽師を必要としないすごい式神でしょうや…。」
「す、すごい、八雲先輩…!触れただけでそこまでわかるものなんですかっ!?先輩、今すごく陰陽師してます…!すごく頼りになります…!」
華凛は八雲の陰陽師見習いとしての力を見て興奮し、感激して見せた。
「わ、私は常日頃から陰陽師でしょうや。」
「ふ、触れただけでそこまで私の性能がわかってしまうのは何だか逆に怖いわ…。」
ミストは両手で自分を抱きしめた。
「しかし、ここまで高性能の式神を生み出すのは現代の陰陽師では難しいでしょうや…。これは恐らく、陰陽師が活躍する全盛期…平安時代を生きた強力な霊力を持った陰陽師が作ったものでしょうや…。」
八雲はミストのツインテールに触れたり、肩を揉んだりする。華凛も釣られてミストと両手を合わせて上下左右に動かして見せた。
「…あなたたち、本当に調べてる?私で遊んでない?特に華凛。」
「ご、ごめんごめん…。つい…。」
華凛は立ち上がり、自分の後頭部を掻いた。ミストはジト目で華凛を見る。
「…これ以上は私にもわからないでしょうや。恐らく、お母さんやお婆ちゃんでもこれ以上の解明は難しいでしょうや。」
「いえ、十分ミストの事がわかりました!ありがとうございます、八雲先輩!」
華凛は感謝を込めて八雲にお辞儀をした。ミストも華凛を真似てお辞儀をする。
「いえ、大した事はしてないでしょうや。…あ、そうでしょうや。華凛さん、まだ時間はあるでしょうや?」
「はい、まだ大丈夫ですけど…。」
「陰陽師の事を詳しく知りたいなら、ちょうどいい本が商店街の本屋にあるでしょうや。私が買ってあげるでしょうや。」
「い、いいんですか?」
華凛は申し訳なさそうに八雲を見た。
「今時、陰陽術に興味を持ってくれる人は珍しいでしょうや。むしろ、嬉しいでしょうや。それに華凛さんたちにはかなりお世話になったでしょうや。気にしなくていいでしょうや。何だったら、華凛さんも我が紫煙家に弟子入りしてもいいくらいでしょうや。」
「陰陽師探偵…。何か新たな境地…。そして、助手はジャック・ザ・リッパーかぁっ…。」
「さりげなく私を勝手に助手に?」
華凛とミストは八雲と一緒に本屋を目指した。
「そういえば、ジャック・ザ・リッパーって正体不明の殺人鬼って話だったけど、近年の目覚ましい科学力の発展で正体がわかったんだよね。」
「えっ?そうなの?」
ミストは自身に関わる事だからか興味津々に華凛の話を聞く。
「その話は私も知っているでしょうや。」
「はい。被害者の一人が事件当時に身につけていたショールに理髪師の髪がついていて、それをDNA鑑定した結果、理髪師のアーロン・コスミンスキーだった事がわかったんです。」
「えっ!?私、アーロン・コスミンスキーだったの!?」
ミストは驚いて自分を指差した。
「しかも、私に理髪師の才能が…!」
「いや、でも…それだと男性になるはずだし…。多分、ミストの元になったジャック・ザ・リッパーの書物は正体がわかる前に発行された本なんじゃないかな?つまり、ミストは当時のミステリアスなジャック・ザ・リッパーを内包した貴重な存在って事になるかもしれないね。」
「私、貴重なんだ…。ほうほう…。」
ミストは自分の胸に両手を当てて下を向いた。
そんな話をしている間に本屋に着き、店内に入る。八雲がおすすめしてくれた本はすぐに見つかり、レジで会計を済ました。
「はい、プレゼントでしょうや。」
「あ、ありがとうございます、八雲先輩!大事にします!」
「明日の試練に是非、役立てて欲しいでしょうや。それじゃあ、私は帰るでしょうや。明日、頑張ろうでしょうや。」
「はい!今日は本当にありがとうございました!」
華凛とミストがお辞儀をすると八雲は手を振って帰って行った。
「よし、じゃあ私たちも家に帰ろうか。」
「うん。」
華凛はミストと手を繋ぎ、家に帰った。帰った後、依唯子にミストが一緒に晩御飯を食べていいか聞いてみたら快くOKしてくれた。
天音と仁の帰りは遅いので依唯子と華凛、ミストで一緒に晩御飯を食べた。
「…ミスト、入って来て良いよ。」
今日はミストが泊まるという話に持っていくのは難しそうだったため、ミストには帰ったフリをしてもらい、窓から改めて入ってもらった。ミストの高い身体能力があってこそ成せる荒技である。
「ごめんね、一芝居打ってもらって。」
「いいよ、これくらい朝飯前。晩御飯食べた後だけど。」
「良い?私、今からお風呂入って来るけど、お母さんたちにバレないようにしてね?」
「わかった、大人しくしてる。」
華凛はミストをお風呂に淹れてあげたかったが、いくら肉感があるとは言え、淹れても大丈夫なのだろうか?と考えながら湯船に浸かっていた。
「身体から染み込んで体内にある元の式神が濡れたらあれだしな…。あ、でも体内に飲み物とか淹れられてるし…。結論、わからん!今度先輩に聞こっ!」
華凛は風呂から上がって着替えて髪を乾かし、ベッドに寝転がる。
八雲にもらった陰陽師の本をミストと一緒に読んだ。
「…? ミスト、寝ちゃったの?」
読んでいる最中にミストは眠ってしまっていた。
「式神でも眠るんだね…。」
「うん。自立できる式神って八雲先輩が言ってたから、エネルギーの補給的なものが必要なのかな…?」
華凛はミストに布団を被せてあげた。
「さて、私は明日の試練に備えてまだ、まだ陰陽師の事を調べるぞぉ~っ!Let's 一夜漬けだぁ~っ…!」
「無理しないで寝なよ…。」
ゴーストに忠告された後、華凛は椅子に座ってしばらく読書を続けた。




