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36章 式神の妹…みたいな

 Ms.ホワイトミスト改め、ミストに何者なのかを聞いた華凛は思わず息を呑んだ。


「…実は私にもよくわかんないんだよね。」


 華凛はミストの返答を聞いた途端、座っているベッドから前にずっこけた。


「わぁっ!良いこけっぷりだね、華凛!」

「あ、あのねぇっ…。」


 華凛は何とか立ち上がり、ベッドに座り直した。


「まぁ、私の誕生経緯とかは自分でもわかんないんだけど、式神なのは確かかな。」

「…! 式神…!?」


 ミストはさらっと重要な事を言ったので華凛はミストに思わず顔を近づけた。ミストもいきなりの事だったからか、頬を染める。


「私はジャック・ザ・リッパーの書物を媒介にして誕生した式神。誰が作ったのかはわからない…。気がついたらこの世界にいて、放浪してた。」

「式神?あなたが?」


 陰陽師見習いである八雲が式神を操る所は天衣無縫の館で見たが、それは紙や石などであって、どう見ても人間にしか見えないミストが式神だと聞かされても半信半疑だった。


「こんなに弾力がある肌で式神…?」


 華凛はミストの頬を両手でぷにぷにする。


「私、別に身体が紙で出来てるって訳じゃないし。」


 華凛はミストの全身をこしょぐり始めた。


「あはっ、な、何っ!?やめっ、こしょぐったい…!あっはっはっはっはっ…!だったらぁっ…!」


 ミストも抵抗して華凛をこしょぐり始めた。


「ちょっ!?何で私をこしょぐる必要があるのよ!?」

「復讐よ、復讐!覚悟なさい!」

「何やってんのーっ、二人共ーっ。」


 しばらく二人でこしょぐり合っていると次第に冷静になっていった。


「お、おほん!と、とにかく触覚もある事はわかった。後、紙があなたにとってのご飯?」

「そう。紙を体内に取り込めば元気にもなるし、文字が書いてある紙なら学習もできる。でも、最近になってご飯の美味しさに気がついたんだ。」

「ご飯も問題なく食べられる式神ねぇっ…。」


 華凛は式神である事を頭に入れて改めてミストの全身を見る。


「でも、そうなって来ると、Mr.シルバーもミストと同じでモリアーティ教授を元にした式神の可能性が再び浮上して来るな…。」


 紫煙家で素子や颯と考えた際は紙や石などではなく、別の媒介で動く式神は大陰陽師クラスでないと無理だと言う話になったが、それはミストの存在で覆った気がした。


「うーん、ミストから改めて話を聞いたら急に八雲先輩に式神に関しての意見を求めたくなったなぁっ…。」

「でも、ミストは紫煙家の人たちからしたら、不法侵入犯で窃盗犯でもある訳で…。ミストを連れて行ったら…。」


 ゴーストが言った事を想像する華凛。

 忍術やガンマンにやられるミストを想像してしまい、ぞっとした。


「…ただじゃおかないだろうなぁ〜っ…。天衣無縫の館には行かない方がいいね…。ちょっと、八雲先輩だけ呼び出して待ち合わせできないか聞いてみようか…。」


 華凛はスマホを取り出し、トークアプリを起動。八雲に今から会えないかを書き始める。


「ねぇ、華凛。ディサイドヘッドを使ってミストの謎を探れないかな?」

「アクセスディテクティブヘッドか…。」


 アクセスディテクティブヘッドは三分間だけ、華凛が今まで得て来た情報や対象となる人物の隠している感情や秘密をパズルのピースとして周りに出現させる事ができるヘッド。

 短い時間でパズルをうまく完成させる事ができたら真実に到達できるという強力な能力を秘めている。


「でも、あれは今不要な情報までパズルのピースとして散らばるからさ。パズルを完成させるのは割と大変なんだよね…。無理矢理答えを導き出すから、私の脳にも負担が掛かるみたいで何だか怖いものもある…。」

「そっか、諸刃の剣的なヘッドなんだね…。華凛の負担を考えると迂闊には使えないか。」


 ゴーストとアクセスディテクティブヘッドの事を話している間に八雲から返事が来た。

 ちょうど御頭(おがしら)商店街まで買い物に行くところだったので会ってくれる事になった。


「よし、ミスト。ちょっと出掛けるからついて来て。すぐに済むからさ。」

「いいけど、その前に…。」


 ミストは両手でケーキが乗った小皿を持った。


「まぁ、そうだね。ケーキ初めて食べるだろうし…。わかった、食べたらすぐに行くよ?八雲先輩を待たせたら悪いしさ。」

「うん!」


 そう言うと華凛とミストは共にケーキを食べ、オレンジジュースを飲んだ。


「これがケーキ…!美味しい!」

「気に入ったんなら、ほら。半分あげるから。」

「えっ?いいの…?」

「その代わり、もう不法侵入とか無銭飲食とかは金輪際やめる事!それと、すぐにとは言わないけど、心の準備ができたら紫煙家の人たちにも謝罪する事!いい?」

「…うん、わかった!ちゃんと謝る!」

「よし、約束よ?」


 華凛はそう言ってケーキを半分差し出すとミストは喜んで食べ始めた。


「さすが。華凛さんは面倒見上手。」

「当然。何しろ、もう四年も幽霊の面倒を見てるからね。」

「はい、面倒を見られてます。」

「…ねぇ、ミストってさ。今まで寝床とかはどうしてたの?」

「基本野宿だよ。」

「やっぱりか…。それはあんまり良くないな…。うーん、ちょっと考えとくか…。」


 華凛はミストを家で面倒を見るべきかを考える事にした。

 もう依唯子にはミストを友達として紹介してしまったのでそれらしい説得力のある滞在理由を考えないといけない。

 ケーキを食べ終えた後、自室を出てリビングに行き、食器を依唯子に渡しに行った。


「ご馳走様でした。」

「…様でした。」

「はい、お粗末様。」

「お母さん、ちょっとミストを連れて外に行って来るね。すぐ戻るからさ。」

「わかったわ。気をつけて行くのよ?」

「はーい。」


 華凛は玄関に行き、鍵を開けてミストと共に外に出た。鍵を閉め直し、ミストと共に階段を降りる。


「ミストの今後のご飯も悩みどころだな…。基本紙でいいとは言え、何だかそれで済ますのは人道を踏み外してる感がある…。よし、とりあえず今日のところは晩御飯は一緒に食べよっか。」

「えっ?いいの?」

「何なら、今日は泊めてあげる。ただし、お母さんたちにはバレないようにね。」

「ありがとう!大丈夫、私潜むのは得意なんだから!」


 ミストは咄嗟に華凛の手を握って来た。ミストの手は暖かかった。

 前にMr.シルバーの手に触れた時、彼の手は冷たかった。

 もし、Mr.シルバーがミストと同じ式神なのだとしたら、温もりに差があるのは何なのか気になった。


「どうしたの?」

「…ううん、何でもない!潜むのが得意か…。ジャック・ザ・リッパー・ジャッジメント・アナザー・ジャスティス・トロピカル・デンジャラス且つビューティフル・パペットマスター・エターナル・シャイニング・ダークネス・バトルボンバーなら、お安い御用って感じ?」

「すごい、華凛!私のあだ名、一言一句覚えてる!」

「ふふん♪私、記憶力には自信ありますから! …ふふっ、姉からの視点って、こんな感じなのかな…?」


 華凛はふいに天音の事が頭に思い浮かんだ。いつか天音と行った十糸(といと)の森の肝試し大会。

 幼い華凛を連れた天音の気持ちが少しわかったかもしれない。


「どうしたの、華凛?」

「…ううん、何でもない!さぁ、いざ行かん!八雲先輩の元へー!」


 華凛は喜び勇んでミストの手を引っ張って走り出す。


「ちょ、ちょっと華凛!あんまり手を引っ張ると私の手が取れちゃう!」

「なっ!?それは洒落にならん!?」

「…ふふっ、嘘♪私、そんなにやわじゃないよ?」


 確かに身体が紙でできてる訳じゃないとミストの口から聞いたのを華凛は思い出した。


「もぉ〜っ…!式神に関しちゃまだ適応できてないし、わからない事だらけなんだから、勘弁してよねぇ〜っ…!」

「ふふっ、ごめんごめん!」


 こうして、華凛はまるで自分に妹ができたような弾んだ気持ちで八雲に会いに行った。

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