35章 世間知らずな復讐少女
Mr.シルバーと遭遇したりと何だか騒がしい下校となったが、その後は颯や素子、八雲と楽しく会話をしながら下校ができた。
今の華凛は三人と別れ、自宅のマンションを目指している。
「いよいよ明日だね、華凛。」
デバイスからゴーストの声が聞こえた。華凛は約一名を除いて、周りに他に人がいないかを確認してデバイスを右手に持って歩く。
「うん、本来はみんなで遊びに行くはずの遊園地だったけど、Mr.シルバーめ…。」
「大丈夫、華凛たちならさっさと試練を乗り越えられるよ。その後、めいいっぱい遊べばいいじゃない。」
「うん、そうだね!よぉし、Mr.シルバーめ!絶対に私たちの事を認めさせてやるんだからっ!」
華凛は後ろからついて来ているMs.ホワイトミストを無視して今まで歩いて来たが、自宅が近づいて来たので仕方なく、立ち止まって話す事にした。
Ms.ホワイトミストは両手を後頭部に当てて歩いていたが、華凛が立ち止まったので同時に立ち止まる。
「…あのさ、何で私について来てる訳?」
「えっ?何って、復讐したいから。」
こんなきょとんとした顔で復讐を誓う人を華凛は初めて見たかもしれない。
「復讐って、人様の家に勝手に上がり込んで無銭飲食してたあなたが悪いんでしょうがっ!逆恨みよ、逆恨み!」
「怒りっぽいねぇっ、お姉さん。ほら、笑って、笑って。」
「華凛、挑発に乗っちゃ駄目だよ?」
「…わかってる。ありがとう、ゴースト。」
華凛はMs.ホワイトミストに復讐を諦めてもらうために家に帰る前に会話を試みる事にした。
「えっと、あなたスリもするんだよね?」
「うん、まぁね。ほら。」
Ms.ホワイトミストは華凛が持っていたはずのデバイスをいつの間にか取り上げていて、右手に持って見せた。華凛は急いで取り返す。
「全く、もぉっ!この犯罪予備軍は性懲りもなく…!あなた、いつからこんな事を?」
「うん、ご飯が美味しいって初めて知ったのはあの館に入ってからかな。今までは紙を食べてたから。」
Ms.ホワイトミストは妙ちくりんな返答をして来たので華凛は固まった。
「…は?紙?」
「うん、紙。ほら。」
Ms.ホワイトミストは取り出した紙を自分の胸に入れてみせた。
「ね?」
「いや、ね?って!」
今見せられた行為のおかげでMs.ホワイトミストが人間ではない事が華凛には十分わかった。
華凛は自分の顎に右手を当てて思考する。
「あなた…人間じゃないの?」
「うん、そうだよ。前に言ったでしょ?ジャック・ザ・リッパー・ジャッジメント・アナザー・ジャスティス・トロピカル・デンジャラス且つビューティフル・パペットマスター・エターナル・シャイニング・ダークネス・バトルボンバーだって。」
「いや、知らないから。というか、その肩書きちゃんと間違えずに言えるの地味にすごいね…。」
「えへへっ、褒められた!お姉さんも私の通り名覚えてて偉い、偉い!よしよし。」
Ms.ホワイトミストはご機嫌で華凛の頭を撫でて来て、華凛は糸目になった。
「ねぇ、華凛。この子…。」
「うん、参ったな…。ちょっとこの子の事気になって来ちゃった…。」
「ふふっ、お姉さん。私のミステリアスな魅力に興味が…。」
「ないよ。」
華凛は即答した後、また思考する。
「…わかった。あなたと話がしたくなったから、家に来ていいよ。」
「やった、私の復讐を容認してくれるの?」
「話聞くだけ!」
華凛はMs.ホワイトミストに背を向けて自宅を目指す。Ms.ホワイトミストは鼻歌混じりで華凛の後ろをついて行く。
「ここがお姉さんの家か。どの部屋?」
「三階。」
華凛が指差すとMs.ホワイトミストは身軽に飛び跳ねて壁を蹴って三階の手摺りに座った。
「どうしたの?お姉さんも早く来なよ。」
「私にそんな超人的な動きは無理!」
華凛は階段を駆け上がり、三階まで辿り着いた。
「いい?お母さんと今から会うけど、私の友達として振る舞ってよね?」
「お母さん?友達?って何?」
会話をしていく事でどんどんMs.ホワイトミストの度を超えた世間知らずぶりが露呈していく。
「えっと…お母さんは私を産んでくれた人の事。あなたも誰かに…産んでもらったんじゃないの?」
華凛はもう何となく察していたが、気を遣って『作ってもらった』と言うのは避けた。
「…さぁ?そういう言葉は確かに私の中になくはないけど、よくわかんない。じゃあ、友達ってのは?」
「うーん…。シンプルだけど、いざ説明するとなると難しい…。えっと、共に苦楽を分かち合えて一緒にいて楽しい、大事な人…とか?」
「私はお姉さんの友達?大事な人…?」
Ms.ホワイトミストの仕草を見て、華凛は『あくまで母の前ではそういう話に』というのが何だか躊躇われた。
「そ、そう!私とあなたは友達!だから、大人しくしててよね?」
「…何だか不思議と悪い気はしない。わかった、私は今日からお姉さんの友達だ!」
華凛は何だか気恥ずかしくなっていた所で玄関の扉が開いた。
依唯子が姿を見せたので華凛は慌てる。
「華凛?さっきから誰と話してるの?」
「あ、えっと…。」
「私はお姉さんの友達です。」
Ms.ホワイトミストが依唯子に説明する形になった。
「あら、華凛が家に友達を連れて来るなんて珍しいわね。しかも年下の子?さぁ、上がって上がって。」
何とか依唯子に怪しまれない形で華凛はMs.ホワイトミストを家の中に入れる事ができた。
「あなた、お名前は?」
「…ミスト。」
「そう、ミストちゃん。外国の子なのね。華凛、ケーキ持っていてあげるから部屋で待ってなさい。」
「は、はーい。」
華凛は軽く手洗いとうがいをして自室に待たせてあるMs.ホワイトミストの所へすぐに戻る。
Ms.ホワイトミストは座って華凛の部屋をきょろきょろ見ていた。
「お姉さんの部屋は本がたくさんあって美味しそう…。」
「た、食べないでね。私の大事なコレクションなんだから…。」
Ms.ホワイトミストは立ち上がって本棚をじっと見る。
「シャーロック・ホームズ…。私の元となったジャック・ザ・リッパーの本もここにありそう…。」
「元…?その言い回し方…。」
華凛は前にMr.シルバーが自分がモリアーティ教授を元にしている、と言っていた事を思い出す。
Mr.シルバーとMs.ホワイトミストは面識はないようだが、何かしらの関係があるのは間違いない、と華凛には思えた。
依唯子がケーキとオレンジジュースを持って来たので華凛は慌てて受け取った。
「あ、ありがとう、お母さん。」
「ミストちゃん、ごゆっくり。」
「ありがとう、お姉さんのお母さん。」
依唯子が去った後、華凛はベッドに座る。Ms.ホワイトミストも隣に座った。
「あなた、友達とお母さんって言葉は知らないのにお姉さんって言葉は知ってるの?」
「うん。街中で『ねぇねぇ、そこの道行く可愛いお姉さぁ〜ん。』って聞いた事があって。」
「そ、それは何だか心配になる学習の仕方…。」
華凛は頬を染めて下を向き、Ms.ホワイトミストは不思議そうに華凛を見る。
「じゃあ、あなたの妙に長い肩書きは?」
「食べた紙から学んだんだ。ふふん、かっこいいでしょ?」
「そうだね…。えっと、まずMs.ホワイトミストから何を聞くべきか…。」
華凛はMs.ホワイトミストに聞きたい事は山ほどあったが、いざ会話となるとすぐに思いつかなかった。
「ねぇ、ミストでいいよ。本当はフルネーム大歓迎だけど、何だかお姉さん呼びづらそうだし。」
「そ、そう?わかった。じゃあ、私の事も華凛でいいよ。」
「ボクはゴースト。よろしく。」
華凛はゴーストが映るデバイスを右手に持って見た。
「…わかった。よろしく、華凛。ゴースト。ふふっ、何だか不思議な感じ…。」
Ms.ホワイトミスト改め、ミストは笑みを浮かべて自分の胸に手を当てた。
「じゃあ、聞かせてもらえる?あなたが何者なのかを…。」
「私は…。」




