34章 必然的に一枚足りないチケット
「よし、快眠快眠っと!」
起床した華凛は勢いよく上半身を起こし、ベッドからすぐに立ち上がった。
「おはよう、華凛。」
「おはよう、ゴースト!」
華凛は着替えを持ってすぐに服を脱いでシャワーを浴びた。鼻歌を歌いながら熱い湯を浴びた後、すぐに着替えて髪をセットして、朝食が置いてあるテーブルに向かう。
「おはよう、母さん!」
「おはよう、華凛。ふふっ、昨日帰って来てから何だか機嫌がいいわね。」
「まぁ~ねぇ~。」
華凛はご飯とみそ汁、しゃけ、卵焼きを口に入れていく。機嫌が良いからか、不思議と普段と味が違うように思えた。食べ終えた後、食器を片付けて鞄を持って玄関に立つ。
「それじゃあ、お母さん!行ってきまぁ~す!」
「はい、いってらっしゃい。」
華凛は何だか走りたい気分だったので小走りで学校に向かう。
「ん?」
華凛は通学路を走っていた最中に立ち止まった。
「どうしたの、華凛?」
「いや、何だか視線を感じて…。」
「何?Mr.シルバーかな?」
「よしてよ、せっかく機嫌良いのに…。」
華凛は再び走り出し、あっという間に教室に着けた。
「おっす、華凛!」
「おはよう、華凛ちゃん。」
「おはようでしょうや。」
「うん!みんな、おはよう!」
早速ミステリー研究会に入部してくれた八雲が椅子に座っていたので華凛は更に喜びが増し、自分も席に座った。
「華凛、ご機嫌なところ悪いのだがな…。」
「うん、どうしたの?」
颯が珍しく暗そうな表情をしている。
「明日やん?うちらがデュラハン・パークの遊園地に行くん…。」
「そうだね、明日だね。」
「私はチケットがないから行けないんでしょうや…。」
華凛はそれを聞いて固まった。そう、式地博士がお礼にくれたチケットは全部で三枚。入部したばかりの八雲の分はない事に今気づいた。
「…何てこったぁ~っ…!」
華凛は両肘を机に置いて両手で頭を抱えた。入部したばかりとは言え、遊園地行きを一人だけハブく形になってしまう事とその事を失念していた自分の愚かさなどのマイナス感情が一気に華凛に襲い掛かる。
「そうだ、新しくもう一人分買うのは…。」
「プレミアムチケットやし、うちらのお小遣いやと無理や…。」
「そ、そうだよねぇ~っ…。」
華凛はつい勢いで不可能に近い事を言ってしまった。華凛は目を泳がせる。
「ど、どうする?となりのクラスの城之園さんに超ダメ元でもう一人分追加のチケットを頼んでみるか…?」
「いや、城之園さんはあくまで博士の代わりにチケットを私たちに渡しに来てくれた子だから…。それに何だか、申し訳ないし…。」
華凛は颯の提案を否定した後、自己嫌悪に陥る。
「…こればっかりは仕方ないでしょうや。私の事は気にせずに三人で楽しんで来て下さいでしょうや。」
「いや、せっかくメンバーが四人に増えたのに…。それなのに、いきなり初めの交流で八雲先輩をハブくなんて…私、嫌です!」
「華凛さんでしょうや…。」
「うちも同じ気持ちや!」
「うむ、それにそんな形になったら、私らだって純粋に楽しめない。それは御免被るな。」
「素子様、颯さんでしょうや…。」
八雲は目をうるうるし始めた。
「おい、深也。何か良い案はないか?」
「何で俺に聞くんだ…?」
颯が急に机に足を置いて座っている深也に助け船を出した。
「…まぁ、話は横で聞いてたけどよ。そんなんなら、別に無理して行かなくていいんじゃねぇか?確かにプレミアムチケットは勿体ねぇかもしれねぇが、確実にもやもやする気分で行く事になるんなら、行かねぇ方がいいと俺は思うぜ。」
「やっぱそうなるよねぇ~っ…。ありがとう、海原君。よし、それも念頭に置くとしても、諦めずに他に代案も考えてみよう。」
こうして華凛たちはみんなで何とかならないか考えを出し合ったが、結局思い浮かばずに放課後になってしまった。
八雲が華凛たちと一緒に帰るために教室にやって来た。
「華凛さんたち、一緒に帰ろうでしょうや。」
「え?でも、八雲先輩の家は私たちと別方向…?」
「せっかくできた友達でしょうや。例え遠回りする形になったとしても一緒に帰りたいでしょうや。」
「八雲先輩…!やっぱり、八雲先輩をハブくなんてありえない!それは間違いなく私たちの総意だ!」
「せやせや!」「うむ!」
華凛たちは遊園地行きを諦める心構えで下駄箱に向かい、校門を出た。
「お困りのようだね、華凛君たち。」
「うわっ、老紳士殿だ…。」
電柱柱に腕を組んでMr.シルバーが寄っ掛かっていた。華凛が反応するよりも早く颯が反応した。
「ははっ、そう嫌がるものではない。どれ、そこのレディにプレゼント・フォー・ユーだ。」
Mr.シルバーは右手の指を三回鳴らすと遊園地エリアのプレミアムチケットを一枚出し、八雲に渡した。
「えっ!?プレミアムチケット!?」
「えっ?い、いいんでしょうや?」
華凛たちはMr.シルバーの信じられない行動に動揺する。
「何でなん?何で、こないな敵に塩を送るよーな事をうちらに…?」
華凛たちはMr.シルバーに疑いの目を向ける。
「言っただろう?私は華凛君たちの敵ではないと。それに華凛君たちには全員揃っての、ベストコンディションで私の試練を受けてもらいたいからね。追加の挑戦状みたいなものさ。別に君たちの娯楽を援助する形ではないよ。」
「そっか、Mr.シルバーの挑戦があるんだった…。元々素直に遊びに行ける場所じゃなかったね、遊園地エリアには…。」
「そう落ち込むな、華凛君。私に勝てるのだったら早く勝ってみせて、晴れやかな気持ちで改めて遊園地エリアを楽しめばいいじゃないか。ま、私も簡単に負ける気はないがね。」
「何だか面白そうな話、聞かせてもらった!」
いきなりこの場にいない、けれども聞き覚えのある声が聞こえて来た。華凛たちの近くにMs.ホワイトミストが着地した。
「あっ!?いつかの生意気ロリツインテールではないか!」
「あ、あなた…!?な、何でここに…?」
「お前たちは私のスペシャルディナータイムを妨害した者たち…。監視して復讐の機会を見計らっていたのだが、面白い話を聞かせてもらった!おい、そこの老人!私にもそのプレミアムチケットを寄越せ!私も行きたい!」
「…ま、いいだろう。」
Mr.シルバーはまた右手からプレミアムチケットを出してMs.ホワイトミストに渡した。
「いや、何でもう一枚あるの!?」
「まさか偽造やないやろうね、このチケット!?」
華凛と素子は同時に突っ込んだ。
「ははっ、安心しなさい。それは予備のチケットだ。君たちにそんな犯罪の片棒はまだ担がせないさ。」
「まだ、ってのが気になるでしょうや…。」
「先輩の言う通り…。」
華凛たちは改めて八雲が持っているプレミアムチケットを見る。
「ふん、私にこのハイパーエターナルデリシャスオリジナリティーメガプレミアムチケットを恵んでくれた事、後に後悔させてあげるわ!」
「何か恵んでもらった割には強気だね、この子!そして、また名前盛ってる!」
「元々、食い逃げ犯みたいなもんやし…。」
「ははっ、賑やかでよろしい。それでは明日を楽しみにしているよ、御頭ミステリー研究会の諸君!」
そう言うとMr.シルバーはマントで自分を包んだ後、華凛たちの前から姿を消した。




