33章 深まる銀の謎と新たに得た紫雲
「華凛ちゃん、聞いとる?華凛ちゃん?」
素子に声を掛けられ、華凛は思考状態が解かれた。
「あ、ごめん…。えっと…。」
華凛たちは八雲やかなえにMr.シルバーの事を聞いた後、警察の盗難調査を終えてから紫煙家の晩御飯をご馳走になり、今は食器の片付けを手伝っていた。
かなえは今日の事件の事もあったので今は休んでもらっている。
「老紳士殿の事を考えていたのか?」
「うん…。」
八雲がMr.シルバーに感じた妙な力。それは八雲や、Mr.シルバーと話をしていたというかなえ自身もはっきりとわかった訳ではなかったが、どこか陰陽師に通じるような力をMr.シルバーに感じていたという。
「老紳士殿が陰陽師か…。確かに紙を操って戦っていたが…。」
「紙…。」
小学三年生の頃、華凛たちが商店街でMr.シルバーと初めて会った日。
本屋、式地博士が無くしそうになった封筒、お土産屋の床に散らばっていた紙。颯の言う通り、確かにMr.シルバーはよく紙と関係しているように思えた。
「Mr.シルバーは自分がモリアーティ教授を元にしていると言っていた…。ひょっとしたら、陰陽師というより、モリアーティ教授の関連する物で作られた式神みたいな存在…。」
「せやけど、八雲先輩から聞いた話やと…。」
「うん、紙や葉っぱといったものを式神にするのとは訳が違って、他の媒体で式神に…しかも継続的に存在する事ができる式神なんて現在ではかなりの大陰陽師じゃないとできないって…。」
「しかも、それやとMr.シルバーを操る陰陽師がおるって話になるやん?」
「そうなんだよねぇ〜っ…。」
華凛は腕を組んで再び考え込む。Mr.シルバーについてわかった事もあったが、逆に謎も深まってしまった。
「しかも老紳士殿はこの館のカラクリ人形が目当てでかなえさんに近寄って来たんだろう?」
Mr.シルバーと何度か接触したというかなえ。かなえ本人に話を聞いたらMr.シルバーはとあるカラクリ人形を譲って欲しいと頼んで来たが、家族とも相談した結果、断っていたらしい。
「あの老紳士殿、それで強硬手段に出た訳か…。怪盗老紳士殿め…。」
「Mr.シルバーが陰陽術に通じているとしたら、話術で巧みにかなえさんを追い詰めて、式神を暴走させたのかもしれないね…。」
「それだと結局この怪物事件の原因は老紳士殿じゃないか!偶然を装いよって!」
「せやけど、そないな事してまでMr.シルバーは欲しかったんかな?高価なカラクリ人形…。」
かなえに話を聞きに行った際、火縄に厳重に保管してあるカラクリ人形を確認してもらったが、確かに一体無くなっていたようだ。無くなったのは高価な素材で作られた鎧武者のカラクリ人形だった。
火縄はすぐに警察に連絡し、盗難事件として扱われた。
「Mr.シルバーは私用の仕事って言ってたけど…。うーむ…。」
華凛たちが手をこまねいても結局、現状ではMr.シルバーのミステリアス部分が強まるだけだった。
「華凛さんたち、帰りの車の用意ができたデハナイカ。」
時刻は八時過ぎ。超影が華凛たちを呼びに来た。華凛たちは食器を片付け終え、紫煙家から外に出た。
かなえに挨拶しようと思ったが、眠っているのでそっとしておいた。
「せやけど、昨日は事件に備えとったし、今日も結局Mr.シルバーにカラクリ人形を盗まれてしもうたけど…。この三人でパーティに参加できたのは珍しくあらへんか?」
「うむ。リモートではあったが、去年のクリスマス以来であるな。」
「我が家の食卓を喜んでもらえて嬉しいデハナイカ。」
超影の嬉しそうな背中についていくと天衣無縫の館のゲート前に止めてある車まで辿り着けた。見送りのために火縄と抜刀、紗和が立っていた。
「あれ?八雲先輩は?」
「それが用があるって行ってどこかに行ってしまったデスーカ。」
「そうですか…。もう八時過ぎですし、八雲先輩には明日学校で改めて挨拶しましょう。」
「皆さん、昨日と今日は本当にありがとうございましたデハナイカ。」
華凛たちは火縄たちに軽くお辞儀をし、車に乗り込もうとする。
「ま、待って下さいでしょうや!」
「や、八雲先輩?」
八雲が息を切らしながら何かを持って走って来た。
「ご、ごめんなさいでしょうや…!探し物をしていたら、遅くなったでしょうや…!去年、先生にもらった後、どこに閉まったかわからなかったでしょうや…!」
「探し物…?」
八雲は息を整え、両手で一枚の紙を手渡して来た。
「入部届け、お願いしますでしょうや…!」
「…えっ?にゅ、入部届け?」
華凛が入部届けを受け取り、颯と素子も一緒に見た。確かに綺麗な文字で入部届けが書かれていた。
「わ、私…!ぎっしり腰の件も、怪物の件も華凛さんたちには大きな借りができてしまったでしょうや…!それで何か恩返しをできないかと思ったでしょうや…!」
「それが、入部届け…。」
八雲は赤面し、もじもじしながら恥ずかしそうにしている。
「わ、私、来年高校受験だから、あまり一緒には活動できないでしょうや…!でも、私は華凛さんたちと…友達でしょうや…!華凛さんたちの部活を立ち上げたいっていう想いを手助けしたいでしょうや、それに…華凛さんたちとなら、もっとたくさん色んな事に関われて、自分を変えられて…。何より、一緒にいたいって思うんでしょうや…!」
「八雲先輩…。」
「だ、駄目…でしょうや?」
八雲は不安そうな顔をした。
「…そんな事全然ないです!むしろ、大っ歓迎です!」
華凛たちの笑みに釣られて、八雲も不安そうな顔から一気に笑顔に変化した。
「まぁ、私らはまだ正式な部活ではないから、入部届けを出す必要はないんだかな。」
「野暮な事言うたら駄目やよ、颯ちゃん?八雲先輩の感謝感激の気持ちがこの入部届けにはぎょうさん詰まっとるで!」
「ふむ、その通りだな!」
「八雲先輩、あなたの想いが込められた入部届け、私たちが大事に預かります!そして、ようこそ!御頭ミステリー研究会へ!」
華凛は右手を八雲の前に出した。
「はい、よろしくお願いしますでしょうや!」
八雲は華凛の右手を両手で握り返した。
「私も!」
「うちも、うちも!」
颯と素子も華凛と八雲の手に両手を乗せた。
「何とめでたいデハナイカァ〜っ…!」
「八雲が帰宅部からクラスチェンジしたデスーカ!」
「明日もパーティノーチラス!」
「もうこうなったら、毎日がパーティのノリでチョーヤ!」
「ほ、程々に…。」
滝のように涙を流す超影たちに華凛は突っ込みを入れた。
華凛たちは超影と共に車に乗り込み、車は発車した。
満面の笑みで手を振る八雲が華凛たちには印象的に見えた。




