特別編 デュラハン・メリー・クリスマス!
2024年12月25日。小学6年生の華凛は授業を終え、下校していた。
「いやぁっ、やっと下校時刻だ!めでたいねぇっ!メリー・クリスマスだねぇっ、華凛!」
「テンション高いねぇ~っ、ゴースト…。」
華凛は周りを確認したが、人気の少ない狭い街路だったのでランドセルからデバイスを取り出し、画面に映ったゴーストを見た。
「だって、年に一度の冬の祭りだよ?はしゃがなきゃ損、損!」
「年に一度って言ってもさ、ゴーストはもうクリスマスを経験したのはこれで四度目でしょ?」
ゴーストとは小学三年生の夏の終わり頃に出会った。家族にはゴーストの事を秘密にはしているが、自室で何度かゴーストとは遊んだりもした。
「また去年みたいに今年も二人でババ抜きやろうよ!」
「二人じゃババ抜き成り立たないんだけどなぁ~っ…。しかも、相手の手札見え見えでさ…。実質私一人でやってたものなんだけど…。」
デバイスにはババ抜きモードなどあるはずもなく、実質華凛が二つ分の手札で一人でババ抜きをしていた。
「真剣衰弱とかならさ、私たち二人でもできるんだよ?」
「それもやりたい!でも、ババ抜きもやりたい!」
「よっぱどお気に召したんだね、二人ババ抜き…。」
「うん、とにかくボクは華凛と遊びたいんだ!ウキウキ!」
楽しそうなゴーストの気を害するのも何だか気が引けたので華凛は今日も二人ババ抜きをやる覚悟を決めた。できれば、それまでに別の遊びを考案したいものだ、と華凛は思う。
「華凛にとっては小学生最後のクリスマスなんだからさ、どうせならぱぁ~っ!とやりたくない?」
「うん…そりゃぁっ、そうなんだけどさ…。」
華凛は後ろを向いて六年間使い続けたボロい赤いランドセルを見た。
「颯や素子も遊びに来られたらいいのにね。」
「素子ちゃんも颯ちゃんもクリスマスは家族と過ごす主義なんだよね…。」
颯と素子と出会ってから何度か一緒にクリスマスパーティをしないか誘ったのだが、御頭ミステリー研究会が三人揃ってのパーティはなかなか機会がなかった。
「やっぱり別の小学校っていうのは距離があって難しいね、うん。」
「でも、来年からは三人共、同じ御頭中学校に通うんでしょ?それからは…その、一緒に遊べたりするかもしれないじゃない?」
ゴーストが一瞬言い淀んだのが気になったが、華凛は話を続ける事にした。
「うん、来年からはね。ただ、三人とも同じクラスになれたらいいんだけどね。クラスが違うのって、結構距離感あるからさ。」
華凛の目の前に商店街が見えて来た。クリスマスツリーや、サンタやトナカイの人形とバルーンが飾られている。人通りは少なそうなのでデバイスを隠す必要はなさそうだった。
「そういえば、クリスマスプレゼントの中身はもう開けた?二つもあってさ、羨ましいねぇっ!」
今日の朝、枕元にプレゼントが二つ置かれていた。恐らく父母が用意したものと、姉の天音が用意したものだと思われる。天音がプレゼントを用意してくれたのは今年が初めてだった。
「私、もう小学6年生だからさ…。来年中学だし、そろそろサンタさんの真似とか辞め時だと思うんだけどね…。」
「何を仰る、華凛さん!サンタさんは実在するんだよ?海外に住んでるでしょ?それにサンタさんは個人ではなく、プレゼントを与えたいという強い意志の集合体!その人のサンタさんを演じたいという強い想いがあれば、誰でも皆、正真正銘のサンタさんなのさ!」
「あ、相変わらずサンタさんについて熱弁するね、ゴースト…。」
ゴーストと会ってから毎年、熱いサンタ理論を聞かされている気が華凛にはした。
「ボクは信じてる!きっとサンタさんのデュラハンだって存在するはずさ!」
「首無しサンタさんとか何それ、怖い…。もし、出会ったら怖さの方が勝るわ…。」
華凛が商店街を抜けると人込みが多くなって来た。
「ごめん、ゴースト。後は家に帰ってからね。」
「は~い。」
華凛はランドセルにデバイスを仕舞って歩道橋を歩く。もうマンションは目と鼻の先だ。
何だかんだでプレゼントの中身が気になるので華凛は速足になり、マンションに辿り着いた。
三階の302号室の扉の前でインターホンを鳴らす。
「はい、どちら様?」
「お母さん、私。」
「お帰りなさい、華凛。」
衣唯子が返事をし、扉を開ける。室内に入ると衣唯子はもうクリスマスの料理の準備をしていた。
チキンの良い匂いと解凍準備中のケーキがすぐに目に入った。
「私、手伝おうか?お父さんとお姉ちゃんはまだ帰って来ないでしょ?」
「いいわよ、もうほとんどできてるから。華凛は冬休みの宿題でもやっておきなさい。」
「は~い。」
華凛は大人しく返事をしたが、冬休みの宿題はする気はなかった。もう終業式が近いので冬休みの宿題自体は授業によっては渡されているのだが、まだやらなくていいだろう、と華凛は思っていた。
衣唯子は恐らく、華凛がプレゼントを開けた後の反応を待っていると華凛は推理した。喜ぶ反応を待っている衣唯子を見て、これはプレゼントには期待してもいいかもしれない、と華凛は思った。
華凛はウキウキしながた自室に入り、ランドセルを机に置いた。
「さぁ、華凛華凛!プレゼント、早く開けよ?ね?ね?」
「ゴースト、私よりも中身気にしてるねぇっ…。」
プレゼントはベッドの上に置いたままだった。大きい箱と小さい箱がある。
「ふむ…。昔話の玉手箱的にも、純粋に箱の質量的にも小さい方を選ぶのが王道展開なんだろうけど…多分、こっちの小さいのはお姉ちゃんが用意したプレゼントだと私は推理する…。…お姉ちゃん、私の趣味嗜好とか存じてるんだろうか…?」
「何を言ってるのさ、華凛。プレゼントってのは中身が大事なんじゃないさ。気持ちだよ、気持ち。」
「ま、そうなんだけどさ…。じゃあ、お姉ちゃんの方から…と見せかけてお父さんお母さんの方から!」
華凛は丁寧に包みを取っていくともうプレゼントは姿を現した。
「おっし、期待通り!テレビの前で欲しいアピールをし続けた甲斐があったよ!やったぜぇぃっ!」
プレゼントの中身は『ハッピー!☆名探偵!キューティクル』のBlu-ray BOXだった。
「ちょっとちょっとぉっ!?小学生へのプレゼントでBlu-ray BOXとか半端なく凄くないですかぁっ!?」
「ふふん♪小学生最後のクリスマスプレゼントだから奮発してくると思ってねぇぃっ!アピール大・成・功!」
華凛は思わず勝利のピースサインをした。
「最近の小学生は自室にBlu-rayプレーヤーも持ってて、すごいねぇっ!それどころか、華凛の部屋にはレーザーディスクやβビデオまで!物持ち良すぎでしょっ!」
「いや、多分私は最近の小学生には含まれないんじゃないかな…?後、割と再生機に詳しいね、ゴースト!」
華凛はご機嫌で主にミステリー物のディスクコレクションで構成される自分の棚にBlu-ray boxを内包し、拝んだ。
「さて、やはりハードルが上がってしまったか…。」
華凛は残された天音のプレゼントの包みを恐る恐る綺麗に開けていく。
「…あ、これ…。」
小箱を開けると中身はミステリー漫画『深き霧のゴーレムと名探偵』の全五巻セットだった。
「…これ、面白かったのに打ち切られちゃって…。その上、絶版で電子書籍化もされてなくて欲しかったけど、諦めてたやつだ…。私のためにわざわざ探してくれたのかな、お姉ちゃん…?」
「やったじゃない、華凛。やっぱりプレゼントは気持ちだよ、気持ち。ちゃんとお姉さんにお礼言わないとね。」
「…うん、そうだね。大事にしよう。」
華凛は暖かな気持ちを抱いて本棚に一旦置いた。その時、スマホから着信があった。
「な、何?素子ちゃん?からのテレビ電話?」
華凛は慌ててスマホを机に置いて容姿を申し訳程度に整え、応答した。
「あ、華凛ちゃん?今、暇なん?」
サンタの格好をした素子が華凛の目に飛び込んで来た。青い髪と合わさって赤いサンタ衣装がよく似合っていた。
「うん、暇だけど…。」
「なら、ちょうどえぇわ。デバイスを机に置いてくれへん?」
華凛はスマホの隣にデバイスを置いた。その時、デバイスから颯の着信があった。
「は、颯ちゃんからも?」
華凛は慌ててデバイスを操作し、応答した。
「おっす、華凛!」
颯もサンタ衣装を着ていた。何故か背中に木刀を背負っている。
「今年は私ら、夕食前に暇ができたのだ!」
「華凛ちゃんがスマホとデバイス、どっちも持ってるのを活かしてみた訳や。これなら四人共、夕食の時間までは思いっきり遊ぶ事ができるやろ?」
「素子ちゃん、颯ちゃん…!あ、でも、これだとゴーストが…。」
「ボクなら大丈夫。デバイスから外に出ればいいだけさ。」
そう言うとゴーストはデバイスの中から出てきて華凛の横に浮いた。
華凛はサンタ衣装は持ってないが、帽子はあるので二人に合わせて被った。
「よぉ~し、何だか今年のクリスマスは良い感じ!それじゃあ、御頭ミステリー研究会の在宅版クリスマスパーティ、私たちでめいいっぱい楽しみます!せ〜の…!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
華凛たちは離れ離れでも、初めて四人でクリスマスパーティをする事ができた。
ゴーストも通信越しでもかなり面倒ではあるが、四人でババ抜きができて嬉しそうだった。




