31章 尊敬の風
華凛たちは天衣無縫の館の大きなカエルの口の入場ゲートまで辿り着いた。
この館の中に暴走した式神が入ったとなると不気味さが更に増して見えた。
さっきまで受付をしていた紗和はいなくなっていた。
屋内でこのレジャー施設には相応しくない戦闘音が聞こえるため、戦っているのかもしれない。
「お父さんたちが戦ってるんでしょうやっ!?」
「い、急ぎましょう…!」
華凛はまだふらつきながらも八雲たちと共にカラクリ人形コーナーを通り過ぎる。
カラクリ人形たちは無事なので、宿主のかなえは気絶しているが、カラクリ人形は壊させないという強い意思は未だ働いているようだった。
「…! いたぞ!」
忍者コーナーで紫煙家が鳥人と戦っていた。超影と抜刀は忍術を、火縄はモデルガンの両手拳銃で、紗和は式神を用いて激闘を繰り広げていた。
「お父さんたち、大丈夫でしょうや!?」
「八雲デハナイカ!?気をつけるデハナイカ!こいつ、手強いデハナイカ…!」
鳥人は四人掛かりでも、狭い場所でも問題なく飛行し、飛んでくる手裏剣もモデルガンの弾も葉っぱの式神も蹴散らしていく。手裏剣の的当て用のカラクリ人形の位置も把握していて、それを盾にもしていた。
「そいつはお母さんの邪念が積り積もってできた式神なんでしょうや!」
「な、何だとノーチラス!?」
「だとしたら、倒すのが厄介でチョーヤ…!」
それを聞いた紫煙家の皆は攻撃の手を緩めてしまった。
「何だ?一体どうしたのだ?」
「式神は倒した場合、霊力の反動が主である陰陽師に襲い掛かってくるものなんでしょうや。」
「なるほど、あれか!陰陽師の基本的なやつか!」
「あの鳥人を倒してしまったら、かなえさんの身に危険が生じる訳ですか…。」
「常に人質を取られとる状態、っちゅう訳やね…。」
鳥人は攻撃の手が弱まった隙を狙って紫煙家の人たちに羽根を飛ばしてきた。
「ぐっ…!?」
「お婆ちゃん、無理はしないでしょうや!お婆ちゃんも式神がやられたら、反動が襲い掛かって来るでしょうや!」
「かなえさんの身を案じたら、迂闊には消滅させられないし…。一体どうしたら…?」
華凛たちが鳥人の対処を悩んでいる間も鳥人は容赦なく攻撃してくる。レプリカの刀を持った超影と抜刀を暴風を巻き起こして吹っ飛ばした。
「お父さん、お爺ちゃんでしょうや!?」
超影と抜刀は壁に叩きつけられ、地面に尻もちをついた。
「…私に考えがあるでしょうや…!ここは私に任せるでしょうや…!」
「何をする気ですか、八雲先輩!?」
「…相手の式神を奪取できる禁断の秘術があるでしょうや…!それを使うでしょうや…!」
「そ、そんな術があるん!?せやけど、禁断って…。」
華凛たちは禁断というからにはその術にも何かしらの反動があるのではないか?と八雲の身を案じた。
「…お母さんのこれまで式神に溜まった憎悪が一気に私に襲い掛かって来て、精神汚染をされる恐れがあるでしょうや…。」
「そ、そんな…!?危険過ぎます!」
「それはあかんよ!八雲先輩はただでさえ、身体が弱いんやろ?そんな状態じゃ…。」
「お婆ちゃんにさせる訳にもいかず、お母さんを傷つける訳にもいかないでしょうや…!それだったら、私は自己犠牲の道を選ぶでしょうや…!」
八雲は両手に白紙の紙を持ち、準備を始める。
「待つのだ、八雲パイセン!勇者侍は犠牲が出る勝利を恥じねばならない!ビターエンドはお断り!これは私の大原則だ!」
「は、颯さん…。」
颯はスマホから激!勇者丸を実体化させ、刀モードにして右手に掴んだ。
「三分だ、パイセン!三分の間に私が奇跡を起こしてみせよう!先輩の自己犠牲など、私は認めぬからな!」
そう言うと颯は身体能力が上がった脚力で鳥人に向かっていった。
「颯…!結局、無策で突撃じゃないか…!華凛、ボクも行く!早くヘッドチェンジを!」
「それが…。もう三回使った扱いになってるの…。」
「な、何だって!?」
華凛はデバイスを確認するともうヘッドチェンジはできなくなっていた。
「シャインカメラと、『アクセスディテクティブ』…それと…。」
華凛とMr.シルバーが共に手を取ったレアフレーム『コントラインディケーション・オア・ミラクル』が使用済みになっていた。
「これが勝手に発動したみたい…!奇策のつもりでやった事が逆に足元掬われたら世話ないね、全く…!」
華凛は策士、策に溺れるとはこの事だ、と自分を恥じた。
「大丈夫だよ、華凛!例え、戦えなくても囮くらいにはなれるはずだ!」
ゴーストは霊体である事を活かし、鳥人の周りを浮遊して気を散らさせた。
「ヘッドチェンジ!稲妻ぁっ!」
颯は激!勇者丸に雷刃ヘッドをつけて、刀身に電流を纏わせた刀に変えた。刀を鳥人の両手の爪と何度も激突させる。激突の末、颯の刀が弾かれ隙を見せてしまった。
「颯ちゃん!」
「何のぉっ!」
颯は床の的当て用のカラクリ人形を出現させ、盾代わりにして鳥人の爪を防いだ。その間に態勢を立て直し、再び斬りかかる。
「我らも加勢するぞ、勇者侍殿!」
「うむ、感謝するぞ!」
尻もちをついていた超影と抜刀が加勢し、再び大人数で鳥人の対処に当たる。
「やはり、私がやるしかないでしょうや…!」
八雲は二枚の白紙を宙に浮かせる。
「あかんて!誰かが犠牲になるやり方なんて、うちも御免被るで!」
素子は浮かんだ白紙を回収して八雲に返した。
「素子様、しかしでしょうや…。」
「絶対にさせへん…!誰も、誰も傷つけさせへん…!みんな無傷で事件を解決させるんや!絶対にぃっ!」
素子がそう言うと救急箱の隙間の中から発光した青い糸が出現した。同時に石も飛んできて、素子の左手に握られた。
「何なん?糸が?石が?」
「お、陰陽師コーナーにあった石でしょうや…。」
「あっ、これって颯ちゃんの時の…。」
素子の前に十糸姫が出現し、微笑み掛けてきた。
「と、十糸姫デスーカ!?」
「し、信じられんデハナイカ!?本物デハナイカ!?」
「あ、ありがたや…!ありがたやでチョーヤ…!」
紫煙ファミリーも突然現れた十糸姫の幻影に驚いていた。十糸姫は姿を消し、糸と石がストラップとなって素子のスマホに装着された。スマホの中から白衣の恰好をしたデュラハンが出現した。
「私はリスペクトゲール!素子、あなたと会えて私は嬉しい!」
「う、うちのリスペクトゲールちゃんが現実に…!?と、とにかく頼んだで!」
「はい、婦長!お話はスマホ内から聞いておりました!これより治療を開始します!」
リスペクトゲールは巨大な注射器を出現させ、突撃。鳥人の背中に注射器を刺した。
「ひえっ!?」「痛そうデスーカ…!」
颯と紫煙家の人たちはその様子を見て思わず顔を青ざめた。
「痛くないですよぉっ?すぐに済みますからね?」
リスペクトゲールは注射器の押し子を引いてドス黒い霊力を注射器に溜めていく。鳥人は身体を維持できずに消滅し、人形の紙に戻って地面に落ちた。
「何とっ!?私らが大苦戦した式神をいとも簡単に…!?」
「素子、まだ悪しき憎悪が込められた霊力はそのままです。この注射器に入れられるのは一分間だけ。早くヘッドチェンジによる対処を。」
「わ、わかったで!」
注射器の中の霊力は人の形になろうとしていた。素子は慌ててスマホを操作してヘッドを選択する。
「こ、これでええか?ヘッドチェンジ!ピュリフィケーションケア!」
リスペクトゲールはピンク色の白衣をイメージした頭と上着を着て、ピュリフィケーションケアリスペクトゲールとなった。
「適切なヘッド選択、グッドです!素子!」
ピュリフィケーションケアリスペクトゲールは小瓶を出現させ、巨大な注射器の中に入れた。中に入ったドス黒い霊力は白い霊力に変わっていく。
「ピュリフィケーション、完了!婦長、患者さんはどちらですか?この霊力を返さねば!」
「こ、こっちや!うちについて来るんや!」
走る素子についていくピュリフィケーションケアリスペクトゲール。華凛たちも後を追いかけた。
デュエル・デュラハンは三分間しか実体化できないので急ぎ、何とか紫煙家の壁に背を当てて眠っているかなえの所まで辿り着けた。
「こちらが患者さんですか。どうにか間に合いましたね…!」
ピュリフィケーションケアリスペクトゲールは巨大注射器の押し子を押して、かなえに向かって発射した。
「綺麗や…。」
「ちなみにストレス解消効果のおまけ付きです。」
「アフターケアも忘れへんやん…。」
素子は自分が作ったデュエル・デュラハンに感激し、尊敬の眼差しを向けた。
鮮やかな光の粒の霊力がかなえの身体へと戻っていく。眠っているかなえも笑みを浮かべている。
「おっし、これでSolve the case!やで!」
素子は右目でウインクし、八雲を指差した。
「やはり、あなたは私のナイチンゲールでしょうや…!素子様ぁ~っ…!」
「あわわっ、八雲先輩!そんないきなり堪忍なぁ~っ…!」
八雲は歓喜の余り、素子に抱き着いた。
「ははっ、素子に私の決め台詞取られちゃった…。」
「気にするな、華凛。私も素子に奇跡の発現を取られたわ。」
「だね…。」
華凛と颯たちはしばらく八雲に抱き着かれて困っている素子を眺めていた。




