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27章 突然のジャック・ザ・リッパー…なの?

 床に倒れた超影が指差した先の部屋。そこに恐る恐る入った華凛が見た者は。


「…火縄さん!?」


 火縄が箒を手に持って佇んでいた。


「うぅ〜っ…!」

「ど、どうしたんですか、一体!?」

「華凛、待って!何だか様子が変だ!」


 火縄の変化ぶりにゴーストも思わずデバイスの中から姿を見せた。華凛も悲鳴を上げた本人である火縄がぴんぴんとしている事が気になって仕方なかった。


「うがぁっ…!」


 火縄は華凛を睨みつけ、両手に箒を持って襲い掛かって来た。


「わ、わわっ!?」


 華凛は狂気に満ちた火縄を見て恐怖し、足が竦んで動けなかった。


「華凛!」「華凛ちゃん!」


 ゴーストと素子が名前を叫んでくれたおかげで華凛は少し正気に戻り、急いで横に飛んだ。火縄の箒が壁に激突した。火縄は再び華凛に襲い掛かる。


「華凛、しょうがない!早くヘッドチェンジを!こんな時のための殺傷力低めの打撃ヘッド、あるよね?」

「…! もちろんだよ、ゴースト!探偵を意識して作った私のヘッドは伊達じゃないんだからっ!」


 華凛は頭の中にMr.シルバーがちらついた。こんな事で動揺していたら、御頭(おがしら)ミステリー研究会を続ける事なんて夢もまた夢だとMr.シルバーに笑われてしまう。そういったMr.シルバーへの対抗意識は華凛を振るい立たせるのには十分な効力だった。


「行くよ、ゴースト!ヘッドチェンジ!パートナーズバリツ!」


 華凛はカードを実体化させてデバイスに読み込ませた。

 ゴーストは白黒のベレー帽のような頭を装着し、両手に特殊なアームパーツ、両足に追加パーツを装着。宙にも二つのナックルと二つの傘を浮遊させ、格闘技を得意とした姿となった。

 バリツとはシャーロック・ホームズが得意とする日本武術の事だ。


「一緒に行くよ、華凛!」

「うん!」


 華凛は宙に浮いているナックルパーツを自分の両手にも装着した。


「へへん!颯ちゃんのデュエル・デュラハンを意識したヘッド!これで私も自身を護身できちゃうんだからっ!」


 P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストは火縄に向かって浮遊する。火縄はP(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストを箒で攻撃するがP(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストの身体をすり抜けた。


「残念!ボクは幽霊だから攻撃は効かないよ?だけど、ボクの攻撃は実体化できる!それがボクのずっこいところ!」


 P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストは攻撃がすり抜けてよろけた火縄の隙を狙い、体制を立て直す前に左腕を掴んで放り投げた。


「ヘイ!バリツ!」


 P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストは火縄を宙に放り投げた。


「イェイ、バリツ!」


 華凛は落下する前に火縄のお腹に右拳を叩き込んだ。


「ごめんなさい、火縄さん!」


 火縄が床に倒れた後、華凛は両手を合わせて謝罪した。


「う、うぅっ…!」


 火縄は気を失ったのに姿勢を全く変えずに浮き上がるように立ち上がった。


「嘘っ!?どうなってんの!?」

「華凛ちゃん、糸や!」


 近くに武器になるような物がないか探していた素子が叫んだ。


「糸…?」


 華凛は素子がくれたヒントを見つけ出すため、火縄をよく観察した。よく見たら火縄の身体は糸で繋がれていた。


「なるほど、操り人形みたいにしてる訳ね!」


 P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストは浮いている傘を一つ手に持ち、横に一閃。糸を切断した後、火縄は地面に倒れた。

 華凛は急いで駆け寄り、火縄が気を失っているのと糸がもう繋がれてないのを確認した。


「素子ちゃん!」

「わかっとるで、華凛ちゃん!」


 素子は救急箱を持って火縄に近寄った。


「…良かったわ、怪我はしていないみたいやね…。でも、華凛ちゃんのきっついボディーブローをもろうとったし、念のためお腹に湿布貼っとこ。」

「…火縄さんを糸で操った張本人…。近くに傀儡子(くぐつし)がいるとしたら…!」


 自分たちも糸で操られる必要がある。華凛はP(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストと共に周りを警戒する。


「華凛、もしかしたらこれは囮かもしれない…!例の怪物は時間的にお腹を空かしているんだろう?」

「…! 確かに、お土産屋コーナーが危ない!でも、素子と火縄さんを放置する訳には…!」


 華凛たちはまだ怪物の正体がわかっていない。下手したら複数犯の可能性もある。この場に素子と火縄を残すのは危険な気もして、次の行動になかなか出られなかった。


「こ、この場は私に任せてくれデハナイカ…。ふっ、してやれた私が言っても説得力はないデハナイカ…。」


 ふらついた超影が歩いてきた。


「で、でも…。」

「でやあぁぁぁぁぁーっ!魔神一閃!」

「…!? 颯ちゃん!?」


 お土産屋コーナーから颯の大声が聞こえて来た。お土産屋コーナーに何かが起きているのは間違いない。


「じゃあ、すいません!この場は頼みます、おじさん!」

「気を付けるんやで、華凛ちゃん!」

「素子ちゃんもね!行くよ、ゴースト!」


 華凛とP(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストは共に頷いた後、お土産屋コーナーへと走る。


「えぇい、この布お化けめぇっ!」


 お土産屋コーナーに戻って来ると黒いローブを着た謎の人物がナイフを右手に持ってぴょんぴょん飛び跳ねながら、木刀を振っている颯や手裏剣を投げる抜刀と戦っていた。

 ローブを着た謎の人物は次々とお土産屋コーナーの食料を手に取っては空になった袋を捨てていく。


「こいつ、何てすばしっこい…!」

「…鬱陶しいなぁ。」


 黒いローブの人物は無数の糸を両手から出し、颯と抜刀の両手両足を縛り付けた。


「な、何だっ!?か、身体が勝手に…!?」

「颯ちゃん!?」

 

 黒いローブの人物は華凛の存在に気づき、颯と抜刀を操ってみせた。


「これ使うと両手が塞がるから、ご飯を食べられないんだけどなぁっ…。」


 そう言いながら黒いローブの人物は右足でお土産屋コーナーの煎餅を蹴り上げて宙に浮かせた後、回し蹴りをして煎餅を袋から開封。落下する前に次々と口に入れていく。


「嘘つけ!余裕で食べられてるじゃないか!しかも、私の目の前で私の好物である煎餅を食べるとはぁ~っ…!」

「うるさいねぇっ、お姉さん。あんまりうるさいと気を失わせちゃうよぉっ?あっ、それとも正気なまま恥ずかしいポーズを取らせちゃおうかなぁっ?」

「私の友達を人形扱いしないで!」


 華凛は右手を勢いよく横に振り、無駄だとわかってもここから出ていけ、という意図を伝えた。


「あなた、女の人だよね?どうしてこんな事をするの!?」

「所詮この世は弱肉強食。私はただ、弱い者から食料を奪ってるだけだよ、面白いお姉さん?」


 華凛はローブの女性の最後の言い回しに聞き覚えがあった。


「もう君の手口はお見通しさ!」


 P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストは両手に傘を持ち、振り回して颯と抜刀を縛っている糸を切断した。


「もう、せっかくの囮作戦が台無しじゃない…。お姉さんがそんなデュラハンを従えてるとは思わなかったよ。」

「ゴーストは従えてるんじゃない!私の大事な友達だよ!」

「奇麗事じゃお腹は膨れないなぁ~っ…!人間関係なんて、私の操る糸と同じ。利用関係に過ぎないよ。うまい事相手を動かして自分の思うように動かし、己の利益へと誘う…。人は皆、私みたいな傀儡子(くぐつし)なのさ。」

「そんな事はないでしょうや!」


 八雲は叫んでローブの女性を否定した。


「あらあら、八雲お嬢様。よく言えましたねぇ。あなたなんでしょ?この人たちを雇ったのは?それでは依頼をした者同士、利用関係に違いないではありませんか。」

「華凛さんたちは違うでしょうや!華凛さんたちは無償で私の悩みを聞いてくれて、自分の都合も顧みずに依頼を引き受けてくれたでしょうや!私のぎっくり腰にも一生懸命に対応してくれたでしょうや…!これ以上、私の『友達』を侮辱する事は許さないでしょうや!」

「八雲先輩…。」


 八雲は両手から二枚の紙を取り出し、ローブの女性に向かって投げた。


「式神ですか。温いですね。」


 ローブの女性はふわっと浮き上がり、二体の式神を糸で粉々にした。


「くっ、私の式神たちがでしょうや…!」

「二段構え!」


 P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストが背後からローブの女性に近寄り、バリツを仕掛けた。

 ローブの女性はローブを翻し、P(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストから距離を取った。


「さ、三段構え~っ!」


 華凛はローブの女性の着地地点まで走り、腕につけたナックルパーツで殴り掛かった。ローブの女性は天井に糸を巻き付け、着地せずに宙に浮いた。


「四段構えじゃ!」


 抜刀は手裏剣をいくつも投げた。ローブの女性は即座に糸を解いて地面に着地する形で避けた。


「必殺!五段構え!」


 颯は激!勇者丸を実体化し、ソニックブームをローブの女性に向かって飛ばした。


「…!? あなたも妙な術を…!?」


 ローブの女性はかろうじて避けたが、ローブはソニックブームで飛ばされてしまい、その姿を現した。


「…!? あなた、さっきの…!?」


 黒いローブの中身は華凛に対してスリを行った白髪ツインテールの少女だった。


「あ~あ、バレちゃった…。もうここを餌場にするのは難しいかな…。しょうがない、新天地を目指すか…。」

「あなた、一体…?」

「何?お姉さん?私の美貌に興味が…?」

「ないよ。」


 華凛は即答した。


「それは残念…。でも、そう言われると逆に私の事を是非とも知ってもらいたくなる…!それが私のサガでサガ!いいでしょう、名乗りましょう!私の名は『Ms.ホワイトミスト』!またの名をジャック・ザ・リッパー・ジャッジメント・アナザー・ジャスティス・トロピカル・デンジャラス且つビューティフル・パペットマスター・エターナル・シャイニング・ダークネス・バトルボンバーよ!!!」


 …この子はローブが取れたら急激に知性が落ちたのだろうか?と華凛は心の中で突っ込んだ。それと同時にP(パートナーズ)B(バリツ)ゴーストと共に冷ややかな目でMs.ホワイトミストを見た。


「ははぁ~ん?さてはお前、なかなかのギャグキャラだな?」


 颯は人の事を言えないと思う、と華凛は心の中で突っ込む。


「お黙りなさい、そこの赤紫ツインテ!あなた、何だか私とキャラ被ってませんか?即刻そのツインテールをやめなさい!」

「私はこの髪型をちっちゃい頃から慣れ親しんでいるのだ!変える訳がなかろうが!」

「私だって、ちっちゃい頃からしてますし!アイデンティティですし!」

「小っちゃい頃って、お前は今でも小さいではないか!」

「私のお母様はナイスバディで将来安泰なんですぅ~っ…!その内大きくなるんですぅ~っ…!」


 何て低レベルな言い争いなんだ…。華凛は急にやる気をなくして来た。


「お土産屋コーナーで食事をしていたら、栄養が偏るでしょうや。そんな生活を送っていたら、あなたの理想のお母様にも近寄れないでしょうや。」

「うっ…!?」


 Ms.ホワイトミストは胸を右手で抑えてしゃがんだ。意外と容赦のない鋭い言葉を投げるな、八雲先輩は…と華凛は思った。


「隙ありぃっ!」


 颯は激!勇者丸を両手で持ってMs.ホワイトミストに斬り掛かった。


「完璧な私に隙などありません!」

「でも、その割にはローブは取られたでしょうや。」


 Ms.ホワイトミストはまた胸にグサっと八雲の言葉が刺さったが、何とか颯の斬撃を避けてみせた。


「私の糸とナイフであなたのツインテをジャック・ザ・リッパーしても構わないのですが…。これでは私の旗色が悪い…。ここは退散するとしましょう…。それじゃあ、チャオチャオ!」

「待って!あなた、ひょっとしてMr.シルバーと関係があるの?」

「ふふっ…さて、どうでしょうね?またね、面白いお姉さん?」


 そう言うとMs.ホワイトミストは一瞬で姿を消した。


「…何だかまたミステリアスなのが増えたね、華凛。」

「疲れるよ、ゴースト…。」


 華凛はその場で力が抜けて地面に座った。

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