26章 新たな友情を結んで
「ふむ、いかんね…。施設の視察のはずがつい楽しんでしまった…。」
お土産屋コーナーを見ていた華凛は次第にテンションが落ち着きはじめ、本来の目的を疎かにしてカラクリ屋敷を楽しんでしまっていた事を反省した。
「お客さんとしては正しいでしょうや。お父さんたちも令和ホームズたちを楽しませるつもりで芸を披露したんでしょうや。」
「まぁ、そうなんですけど…。そして、今はお土産探しに勤しんでいると言う…。」
華凛たちは自分たちを楽しませてくれた紫煙ファミリーのために感謝の気持ちを込めてお土産を買おうとしていた。
「とりあえず、忍者と式神と天衣無縫君のキーホルダーを買おうかな…。」
「毎度ありでしょうや。」
八雲がレジに向かい、華凛の支払いを担当してくれた。二千円丁度だった。
華凛は支払いを済ませたが、素子と颯はまだ品選びをしていた。
他にも若いカップルとコートの叔父さんのお客さんがいた。
「ちょうどいいから博物館要素も楽しむかな…。」
このお土産屋コーナーにはミニ博物館コーナーもある。華凛はショーケースのミニチュアなどを眺めた。
忍者やカラクリ、十糸姫の伝説の資料、天衣無縫君の制作経緯、流離の荒武者・矢尻臼などの資料が飾られていた。
「わぁっ、よくできてるなぁ〜っ…!カラクリ屋敷のミニチュアかぁ〜っ…!」
「それはお兄ちゃんが作ったんでしょうや。」
レジに人が来ないので八雲が華凛に近寄って来た。
「へぇっ、お兄さん器用なんですね!」
「お兄ちゃんはこの家が和風テイストな事に反抗して、段々と洋風なものを好んでいくようになったんでしょうや。お父さんたちはそれを邪道というでしょうや、お兄ちゃんなりにこの館を盛り上げていきたい、という心の表れなんでしょうや。」
「八雲先輩、お兄さん想いなんですね…。」
華凛にそう言われて八雲は頬を染めてもじもじし始めた。
「私にもお姉ちゃんがいるんですけどね。歳が離れてて、お姉ちゃんが受験生だったりとかで…。私がちっちゃい頃はあんまり関われなくて、結果姉妹なのにどこか距離があるんですよね…。」
華凛は天音の事を思い出し、ショーケースのガラスを人差し指で少し擦った。
「そうなんでしょうや?でも、不仲という訳じゃないんでしょうや?」
「はい、そうですけど…。」
「だったら、大丈夫でしょうや。仲が悪い訳じゃないんだったら、その内きっと仲良くなれるでしょうや。令和ホームズは突っ込みが鋭いでしょうや。その鋭さと度胸なら、きっとお姉さんにも真っ直ぐ向き合えるでしょうや。」
華凛は八雲の言葉を聞いて少し感銘を受け、右手で高まる胸を抑えた。
「八雲先輩…。何だか、失礼かもしれないけど…すごく人生の先輩っぽいです…!」
「わ、私も自分で驚いているでしょうや…!私が後輩にこんなアドバイスするなんてでしょうや…!」
八雲も両手で頬を当てて恥ずかしそうにしていた。
「八雲先輩!私、決めました!御頭ミステリー研究会が部活になったら、記事にこの天衣無縫の館の素晴らしさを書こうと思います!このカラクリ屋敷の事をもっと色んな人に知ってもらいたいから!」
「令和ホームズ…。」
「名前で呼んでいいんですよ、八雲先輩。」
「えっ?でしょうや…?」
華凛がそう言うと八雲は更に恥ずかしがる。
「さぁ、遠慮しないで!」
「…お、大神さん…でしょうや…。」
「名前でいいですから!」
「…か、華凛…さん…。」
「はい、八雲先輩!」
華凛が笑みを見せると八雲も釣られて笑みを浮かべた。
「ずるいぞ、華凛!パイセン、私も今度から颯と呼ぶのだ!」
「うちも素子でええんやで?」
お土産探しを終えた颯と素子も近寄って来た。
「は、はい…。颯さん、素子…様…。」
「ふふっ、うちだけ様付けなん?」
華凛たちはハ雲の様子を見て一緒に笑い合った。
「見ているでノーチラス、超影…!ハ雲があんなに楽しそうにしてノーチラス…!長生きしていて良かったノーチラス…!」
「くぅ〜っ…!こんな事なら、赤飯じゃなくて特上寿司にしておけば良かったデハナイカ…!」
遠くで超影と抜刀が滝のような涙を流し、楽しそうな華凛たちを眺めていた。
華凛たちは会計を済ました後、館内からゆったりとしたBGMが流れ始めた。
「時刻は六時になりました。本館は営業終了時間となります。本日もご入店、ありがとうございました。」
「あ、もう六時だったんだ…。」
華凛たちはあまりの楽しさに時間感覚を忘れてしまっていた。
「さて、どうするよ…?」
「七時過ぎなんやろ?例の怪物が出て来るんやとしたら…。」
「そうだね…。まだ時間には早いし、早めに夕食を食べた後、ここに戻って来よう。」
華凛たちは共に頷き、退館した。超影と抜刀が館内に誰もいないのを確認した後、紗和が扉に厳重に鍵を掛けた。
「七時になったら、裏口から入ろうデハナイカ。その時はお願いしますデハナイカ、勇者侍殿たち。」
「うむ、任せられた!我が菊一文字が疼きよるわ…!」
颯は木刀を手に抜刀の構えを取る。
「ほう、あなたは沖田総司と縁がある者デハナイカ…!」
「颯ちゃんの言う事をあまり間に受けちゃ駄目ですよ、おじさん…。」
華凛たちは館を後にし、八雲たちが普段住んでいる家まで歩いた。二階建ての赤い屋根の家だった。
「お邪魔しまぁーす。」
華凛たちは靴を脱ぎ、揃えてから中に入った。大きめのテーブルに料理がたくさん置いてあった。大人数だからか結構豪勢だった。
「さぁさ、皆さん。遠慮せずに食べて下さいね。」
かなえがそう言うと華凛たちは頭を軽く下げ、畳の上に座った。
「「「いただきます!」」」
「でしょうや。」「デハナイカ!」「デスーカ!」「ノーチラス!」「チョーヤ。」
様々な語尾が飛び交う中、食事はスタートした。華凛たちはハ雲ファミリーと楽しく会話しながら、赤飯や味噌汁、春巻き、唐揚げなどを食していく。
「うむ!美味だ!やっぱり私、この家の子になろうかな?」
「あまり家族を悲しませるんやないで、颯ちゃん?」
「あの、華凛さん…。私、この煮物をおすすめしたいでしょうや。」
「はい、どうも。 …うん、美味しい!」
「それは良かったでしょうや。」
あまりこの楽しさに浸っているとまた時間を忘れてしまうかもしれない。それでは何のためにハ雲家に来たのかわからなくなってしまうため、華凛は慌てつつも味わって用意された夕食を食べた。
時刻は六時四十五分。華凛、颯、素子、ハ雲、超影、抜刀、火縄は館に戻り、館に戻って来た。裏口から入り、電気をつけて館内に入る。
「怪物の行動は主に施設の破壊と食糧…。食べ物があるのはこのお土産屋コーナーだけですか?」
「そうデハナイカ。だから、ここで待ち伏せしているのデハナイカ…。」
「しかし、奴は我ら忍者相手に引けを取らない程の素早さの持ち主ノーチラス…。こちらの隙をついて、的確に行動するノーチラス…。」
「知性が高い生物か…。」
華凛たちはとりあえず、床に座った。
「まず俺と父さんが見回りをするデスーカ。皆さんはここで待機していて下さいデスーカ。」
そう言うと超影と火縄は見回りに行った。
「しかし、これだけ人がいると逆に警戒されて来ない恐れもあるな。」
「それはそれでええやん。被害がないんなら、それに越した事はないで。」
「素子ちゃんの言う通りだね。」
華凛は時刻を確認すると七時十五分だった。もう怪物が現れてもおかしくはない。
華凛たちは静かに待つ。その時だった。
「う、うわあぁぁぁぁぁーっ!?デスーカ!?」
「…!? 火縄さん!?」
突然、火縄の悲鳴が聞こえて来た。華凛たちはすぐに立ち上がった。
「待って!みんなで向かったら、このお土産屋コーナーが手薄になる!」
「そやね。でも、火縄さんたちが怪我しとるかもしれんから、うちは行くで?」
そう言うと素子は鞄から救急箱を取り出した。
「わかった。じゃあ、私と素子ちゃんで行こう!颯ちゃんと八雲先輩、抜刀さんはここで待ってて!」
そう言うと華凛と素子はお土産コーナーを後にし、急いで火縄と超影を捜し回った。
「…! いた!超影さん!」
超影は改装中エリアの床に倒れていた。叫び声の主である火縄の姿は見当たらなかった。
「大丈夫ですか、超影さん!?」
「うっ、デハナイカ…。」
超影が右手を震わせながら奥の部屋を指差した。
「…! あそこに怪物がいるんですかっ!?」
「あっ!待って、華凛ちゃん!」
華凛が恐る恐る奥の部屋に入ると見覚えのある人物が立っていた。
「…!? あなたは…!?」




