22章 怪しい人物でしょうや
もうデパートでの目的を果たした華凛たち。せっかくデパートまで来たので他の店に寄る事になり、アイスクリームを食べたり、颯の木刀巡りや素子の薬局巡りに付き合った。
「うむ。さすが御頭デパートだ。良い木刀が見つかったぞ。」
颯はラゴウに折られた木刀の代わりを見つけられて機嫌が良かった。
「華凛ちゃん、ごめんな?うち、また薬たくさん買うところやった。」
「い、いえ…。」
華凛は颯よりも素子の方が手間が掛かった。隙あらば籠に次々と薬や湿布などの医療品を入れていくので減らすのが大変だった。
「それじゃあ、今日はもう帰ろうか。もう五時だしね。」
「せやね。」「異論なし!」
華凛たちはデパートから外に出て来た道を戻る事にした。
「華凛、そう言えばまだ手に入れた新たな力を試してないぞ?今からでもバトらないか?」
「うーん、明日でいい?今日はもう遅いしさ。それにデッキって言うのかな?今日手に入れたカードを改めて確認してゴーストとルフォーゼと相性が良さそうなヘッドを選ばないといけないし。」
「…そこの三人…。」
緑のローブを着た人物が華凛たちの前に立っていた。華凛たちは通り過ぎる。
「よし、わかった!明日、明日バトろうぞ?必ずぞ!」
「だ、大丈夫。ちゃんとしてあげるから。」
「…そこの三人…。」
緑のローブを着た人物は再び華凛たちの前に立っていた。華凛たちもまた通り過ぎる。
「そう言えばさ、一箱のレアフレームの封入率ってどれくらいなの?」
「そやねぇ〜っ…。大体…。」
「…そこの美少女三人…。」
「何だ?」
颯は急いで振り返り、返事をした。
「駄目や、颯ちゃん!返事したらあかんって!」
「そうだよ、颯ちゃん!ただでさえMr.シルバーに絡まれてるのにこれ以上変な人と関わるのは避けたいよ!」
「誰が、変な人でしょうや!」
「そんな全身ローブ着てるような人が怪しくない訳ないでしょ!さ、帰ろ!」
華凛たちは改めて去ろうとする。
「ま、待て待て!御頭ミステリー研究会!私はあなたたちに用があって来たんでしょうや!」
華凛たちは立ち止まり、ローブの人物の方を向いた。
「あなた、どうして私たちの事を…?」
「ふふっ、驚いたでしょうや?私はあなたたちの事は調べ尽くしてるんでしょうや!大神華凛、風沢颯、三宅素子でしょうや…!」
ローブの人物はスマホを取り出して確認した。
「私たちの名前まで…!?」
「貴様、そのローブの下を見せるんでしょうや!」
「颯ちゃん、語尾移っとるで!」
「ふふん、いいでしょうや…!私の姿を見て腰を抜かすんじゃないでしょうやぁっ!」
ローブの人物は力強くローブを脱ぎ捨てた。
「ぐがぁっ!?」
ローブを脱いだ途端、ゴキッという音が聞こえた。怪しい人物は両手で腰を抑えてゆっくりと地面に倒れた。大きな紙を二枚地面に落とす。
華凛たちは急な出来事で反応に困った。
「な、何…?言ってる自分が腰を抜かしたみたいだけど…?」
「…!? 新手のお笑い芸人か…!?」
「ちゃうやろ!そんな事より、ほっといたらあかん音や!二人共、この人を…!」
素子は急いで周りを確認し、ベンチを見つけて指差した。
「あのベンチや!あそこに運ぶんや!ゆっくりやで?ゆっくり運んで仰向けに寝かせるんや!」
素子の指示通り、華凛と素子は協力して怪しい人物を持ち上げる事にした。素子も一緒に持ち上げる。
「腰に負担が掛らんようにゆっくりや…!」
華凛たちは何とかベンチに怪しい人物を仰向けで寝かせる事に成功した。
容姿を改めて見ると薄い茶色のセーラー服を着た紫髪の長髪を白い紐で後ろで束ねている女性だった。
素子は急いで救急箱を開ける。
「ぎっしり腰にはこれや…!とっておきの湿布があるで…!これ、よく効くんや…!ちょっと身体を傾けさせてもらうで?痛かったら、堪忍な…!」
素子は怪しい女性の上着を少し捲って湿布を貼ってあげた。
「痛み止めも飲んだ方がええな…!華凛ちゃんはタクシー呼んで!颯ちゃんは薬を飲む用の水を買って来るんや!」
「わ、わかった!」「よし!」
華凛はスマホを取り出し、颯は近くの自動販売機まで走る。
「ま、待って!私は依ら…!」
「ぎっしり腰舐めたらあかん!こんな時に敵も味方もあらへんやろ?自分が楽やと思った姿勢を取って安静にし!深呼吸もするとええで?そしたら、筋肉がほぐれるんや!今、華凛ちゃんがタクシー呼んでるから大人しく待ちや!」
「は、はい…。」
「買って来たぞ、水…!」
颯は走って来て素子に水を渡した。
「救急箱にストロー入れ取って良かった…!さ、これなら寝ながらでも飲めるやろ?」
「う、うむ…。」
「カプセル型の痛み止めや、これなら苦くはないで?焦らず、ゆっくり飲み。」
素子は薬を怪しい人物の口に入れた後、颯はペットボトルの水にストローを入れて飲ませてあげた。
「電話したよ!五分くらいで来るって!」
「す、すまない…。ヨガ体験コーナーで無理をしたようだ…。」
「ヨガ?」
「…そう言えば、ヒーローショーの後がヨガ体験コーナーだったような…?」
華凛はスタッフたちがヒーローショーの後、慌ててそう言った事を思い出した。
「それで腰に負担が掛かったんやな…。大丈夫!うちの救急箱に入っとる薬たちは自慢の一品や!安心してええで?」
「…な、何だかかたじけないでしょうや…。」
そうしているとタクシーが到着した。少し年老いた運転手だった。
「運転手さん、この子ぎっしり腰になってしもうたんや!せやから、安全に家まで送ってくれな?」
「そ、そりゃ大変だ!わかった!」
華凛たちは運転手と協力し、腰に負担が掛からないように怪しい女性を車内に寝かせてあげた。
「タクシー代、持っとるか?何なら、うちが払っても…。別について行って…。」
「い、いや、そこまでされると申し訳ないでしょうや…!?大丈夫、後は自分でできるでしょうや…!」
「そや?そやったら、これ渡しとくわ。」
素子は怪しい女性に使った湿布と痛み止めの薬をあげた。
「家に帰った後もこれ使ってな。あくまで応急処置やから、ちゃんと病院行くんやで?」
「は、はい…。あの運転手さん、『天衣無縫の館』までお願いしますでしょうや…!」
「あぁ、あのカラクリ屋敷ね。」
「…ありがとうでしょうや…私のナイチンゲール…。」
行き場所がわかった運転手はタクシーの扉を閉め、発車した。怪しい女性は車内で腕だけ伸ばして手を振っていた。
「安静にするんやでぇ〜っ?」
素子は両手を口に当ててタクシーに向かって叫んだ。
「ふぅっ、一時はどうなる事かと思ったで…!」
素子は爽やかな笑顔で額の汗を拭った。
「…それで何だったのだ、あ奴は?」
「さぁ…?変な語尾をつける奴だったでしょうや…?」
気になるキーワードはカラクリ屋敷『天衣無縫の館』、怪しい女性が持っていた二枚の紙だった。
「あ、紙。」
華凛は地面に落ちたままの二枚の紙を拾った。何の変哲もないただの白い紙だった。
「ただの紙だ…。うーん…あの人、私たちの事知ってたみたいだし…。後、制服着てたけど、薄い茶色のセーラー服の学校なんてこの辺りにあったかな…?」
「またミステリアスな人が増えたね、華凛…。」
しばらく沈黙していたゴーストがデバイスから話し掛けて来た。
結局怪しい女性は何者だったのかよくわからないまま、華凛たちは自宅へと帰った。




