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2章 もう存在しない未来から

「お姉ちゃん、何ともなくて良かったわねぇっ、華凛。」

「うん、本当に良かったよ。」

「心配したぞ、全く…。」


 華凛は父・(じん)と母・依唯子(いいこ)と共に車で自宅のマンションまで帰って来た。仁は七三分けのスーツ姿。依唯子はウェーブが掛かった長髪をしたシャツとロングスカートを着ている。

 肝試し大会での騒ぎの後、天音は首無し鎧兵士と出会った際に恐怖で気絶してしまった。

 その後、天音はすぐに目覚めたが、念のため病院に行った。検査結果は何ともなかったが、今夜だけは入院する事になった。


「今夜は遅くなっちゃったし、晩御飯は手早く済ましましょうか。あ、だったら帰りにどこか寄れば良かったわね…。」


 華凛がスマホで時間を確認するともう夜の八時過ぎだった。


「なら、父さんが近くのコンビニに行って来るよ。華凛、何が食べたい?」

「スパゲティ。ペペロンチーノがいいな。」

「私も麺系にしようかしら…。」


 仁は華凛と依唯子のリクエストを聞いた後、走ってコンビニへと向かった。

 華凛と依唯子は階段で三階の302号室まで上がり、鍵を開けて中に入った。


「さ、ちゃっちゃとお風呂沸かしましょう。華凛も手を洗ってうがいなさい。」

「はーい、わかってまーす。」


 華凛は依唯子の言う通りにし、うがいをしていると仁がコンビニから早くも帰って来た。

 先にスパゲティペペロンチーノとおにぎりを食べた後、お風呂に入った。


「ふぅ〜っ…。さて、急げ急げ…。」


 華凛は寝る前にやりたい事があるので髪と身体をささっと洗った後、身体をよく拭いて寝巻きに着替える。髪を乾かした後、自分の部屋に直行し、ベッドに横になってデバイスを手に取った。


「…もう喋っても大丈夫だよ、ゴースト。ごめんね、ずっと喋れなくて退屈だったでしょ?」

「いいや、そんな事ないさ!慣れっこ慣れっこ!」


 ゴーストはデバイスの画面の中で上半身を動かした。


「そっか、ゴーストはずっと寺の中にいた…いや、違うか。白霊の寺の幽霊の正体があなたなら、寺の外に出てるか。」

「おや、ご名答。鋭いじゃないか。そうだよ、ボクは寺の近くを浮遊してた。ま、あんまり寺から離れられなかったけどね。」


 華凛はせっかく出会えたゴーストともっと話がしたいため、壁に背を当てて座ってゴーストの映ったデバイスを見る。


「このデバイスからはあんまり離れられないって事か…。ねぇ、あなたって男?ボクって言ってるけど…。」

「違うよ、ボクは女性型デュラハン。今時一人称がボクの女の子なんて珍しくもないでしょ。」

「そうなの?」

「そうなの。」

「そうなの…。」


 華凛は天井を見て次の質問を考えた。


「ねぇ、あなたって元々はあの寺の霊じゃないんじゃない?」

「へぇっ、どうしてそう思うんだい?」

「あなたって西洋風の騎士…って言うのかな?和風には見えないし…。寺の外見と合わないでしょ。」

「…ふーん…。キミ、小学三年生なんだよね?凄いね、最近の小学生は…。割と良い着眼点を持ってるよ。感心、感心!」


 ゴーストは画面内で楽しそうに浮遊して動きまくった。


「その通りさ。ボクは通りすがりの犬か猫だかのせいであの寺に偶然置かれる事になってね。参ってたのさ。助かったよ、キミたちが来てくれて。」

「それは何より。それとさ、あなたってあの時、今の年数の事を聞いて来たよね?」

「聞いたね。」

「あなたは後四年待って、まだ言えないんだ、って言ってた。あなたって、もしかして未来から来た…とか?」

「…よく覚えてたね、ボクが慌ててた時の言葉を…。しかも、未知の存在が二人も出てきたあの状況で何たるクール…。大したもんだ。うーん、そうだなぁっ…。」


 ゴーストは画面内でしばらく考え込んだ。


「…うん、華凛の言う通りさ。詳しくは言えないけど、ボクは未来から来た。ただの未来じゃない。もう存在しない未来から…。」

「存在しない未来って…?じゃあ、ゴーストはもう自分が帰れる未来はないって事なの?迷子さんなの?」

「そうだよ、ボクは帰る場所のない迷子さん。でも、いいんだ。…ボクがいない方が良かったんだ、あんな事になるくらいなら…。」


 ゴーストは華凛から目を逸らし、右を向いた。


「…ふむ。じゃあ、ゴーストは捨て猫ならぬ、捨てデュラハン?」

「捨てデュラハンって…。ボクは別に捨てられた訳じゃないよ。ボクはジブンからカレの元を離れたのさ…。」

「そっか…。『彼』、ね…。」


 華凛はベッドに寝転がり、デバイスをべッドに置いた後に両手で顎を支えながら軽く両足でバタ足した。


「うーん、何か訳ありなんだね…。いいよ、うちに好きなだけいなよ。さすがのお母さんも拾ってきた犬や猫には文句言うけど、お化けのデュラハンには文句言わないでしょ。スマホみたいなもんだし、これ。まぁ、すぐには言えないけどさ…。」


 華凛は右手の指で画面を突っついた。そうしてると急にスマホから着信音がして華凛はびっくりした。


「だ、誰だろ、こんな時間に…。」


 華凛はスマホを操作し、トークアプリを起動した。


「あ、颯ちゃんか。早速メッセージ書いて来たんだ。」


 白霊の寺で出会った颯と素子。別れ際に二人とトークアプリの友達登録やメール、電話番号を交換した。


「へぇっ、良いねぇっ。できたばかりの友達と早速スマホでやり取り?青春だねぇ。」

「何さ、青春って?えっと、何々…『はやて、水産!きこうのすいみんをぼうがいしにまいった!』…。唯一漢字で書いた推参が誤字ってる…。」

「最近の小学生は難しい言葉知ってるねぇ〜っ。漢字は間違えてても大したもんさ。ボクはその向上心を買いたいね。」

「ゴーストさんは人を褒めるのがお好きなようで。あ、更新来た。今度は素子ちゃん。」


 華凛はスマホをいじって更新された新規メッセージを確認した。


「『ごめんな、かりんちゃん。きゅうにメッセージ送って…。はやてちゃん、むえんりょやから…。めいわくだったらごめんな』…だって。」

「おっ、良いねぇ〜っ…!二人共、キャラ立ってきたねぇ〜っ…!いいよ、いいよ!この一件無意味なような会話で確かに生まれつつある女の子同士の友情!まさにガールズトーク、ってねぇぃっ!」

「何だか舞い上がってるねぇぃっ…。テンション高いねぇっ、ゴースト…。」


 そんな楽しげなゴーストを横目にしばらくトークアプリで颯と素子と話を続けた。


「『明日、よかったらあそばへんか?ちょうど日曜日で仲を深めたいし』…だって。」

「へぇっ、いいじゃないか。楽しんで来なよ。」

「来なよ、って…。何で留守番前提?ゴーストも一緒に決まってるでしょ?もう友達なんだから。」

「友達…?ボクが…?」

「うん、当たり前じゃない。何か変?」

「いや、まだ今日会ったばかりだし…。ボク、得体の知れないデュラハンだし…。」


 さっきまでのテンションの高さが嘘みたいに急にゴーストは潮らしくなった。


「今日会ったばかりって言ったら颯ちゃんや素子ちゃんもでしょ?それに気味悪がってたら、そもそも家までデバイスを持って来ないよ。ゴーストはもう私たちの友達。はい、復唱。」


 華凛はデバイスの画面に向かってきっちり揃えた右手の指先を向ける。


「ボ、ボクは…華凛の、友達…。」

「うん、そう。友達。」


 それを聞いた途端、ゴーストは再びテンションが上がったのか、デバイスの画面内を飛び回る。


「やったぁっ!ボク、嬉しいよ…!過去に来る事になってもボクの友達ができるなんて…!」

「大袈裟だなぁっ、ゴーストは…。さては今まで友達いなかったとか?」


 華凛はジト目でゴーストが映る画面を右手で指差した。


「そ、そんな事ないさ!ジークヴァルとか、スランとか…いたし…。」


 華凛は少しカマを掛けてみた所もあった。効果はあって、ゴーストの口から仲間らしき名前が飛び出してきた。


「…なるほど。ま、いいけどね。さて、素子ちゃんと颯ちゃんに返事、っと…。」


 華凛は返事を書いた後、細かな待ち合わせの調整をする。そうしていたら、段々と眠くなってきた。

 そろそろ寝るという事を書いた後、歯磨きをしに洗面所に向かって帰ってきた後、部屋の明かりを消して華凛は寝た。

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