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17章 いざ、駄菓子屋!

 帰る前に十糸(といと)の森の近くにある駄菓子屋に寄る事にした華凛たち。少し歩き、駄菓子屋のある小さな町に向かっていた。

 向かっている駄菓子屋は創業七十年の老舗。岡島味太と岡島市子という老夫婦が経営していて、華凛たちは過去に十糸(といと)の森に来た際に何度か来ている。


「久しぶりだな、ここの駄菓子屋に来るの。去年振りか。」

「そやね。今日はもう遅いし、はよ買って帰ろか。」

「うん、何か今日は色々あり過ぎて…。ちょっと気分転換しないとね…。」


 Mr.シルバーとの思わぬ再会のせいで大分時間が掛かってしまった。華凛たちはやや急ぎ足で歩き、駄菓子屋に辿り着いた。


「…いらっしゃいませ。」


 いきなりエプロンをつけた見慣れない銀髪の女の子が出迎えて来て、華凛たちは驚いた。


「あ、あれ?あの、お爺さんお婆さんは…?」


 銀髪の少女は無言で店の奥を指差した。店の奥で確かに老夫婦らしき人影が見える。


「こ、この店はいつからワールドワイドになったのだ?何だ、この外国人少女店員は…?」

「こら、颯ちゃん、失礼やろ?ご、ごめんな、うちの颯ちゃんが…。」


 銀髪の少女は首を横に振った後、椅子に腰掛けた。何だか無表情な子だ、という印象を華凛は感じた。


「おっ、お客さんかと思ったら颯ちゃんたちか!久しぶり!」

「おっす、じっちゃん。元気だったか?」

「おぉ、元気も元気よ!悪いな、ちょっとカミさんと晩御飯の支度をしててな…!」


 颯と味太は右、左とハイタッチした後、最後に両手でハイタッチした。


「あの、お爺さん。あの子は…?」


 華凛は銀髪の女の子について味太に尋ねた。


「あぁ、潤奈ちゃんかい?あの子はちょっとした縁があって、こうやってたまに店番を頼んでもらってるんだよ。うちの看板娘みたいなもんさ。」


 颯が手を振ると潤奈も無表情で手をふり返した。


「ちょっと無口な子だけど、すごく良い子だから。華凛ちゃんたちも仲良くしてやってくれ。年も近そうだし。」

「はい、わかりました。」


 華凛たちは店内に入り、座っている潤奈に改めて挨拶する事にした。


「あの、初めまして!私、華凛!」

「素子です。」

「颯である。」

「…どうも。」


 潤奈は三人の挨拶に頷いた。どこか気恥ずかしそうにしていて、人見知りする子のようだった。


「あの、もしかして…潤奈さんって十糸(といと)の森に行った事が…?」

「…うん、あるよ。私の家、森の近くだから…。」

「って事はもしかして華凛ちゃん、この子は…。」

「うん、噂の主かも…。」


 華凛たちが調べに来た銀髪の幽霊少女は潤奈の事ではないか、と華凛と素子は察した。

 潤奈は華凛と素子の反応を見て首を傾げた。


「あぁっ、ごめんごめん!こっちの話!よし、じゃあ早速!駄菓子をたくさん買おう!」

「おう!サービスするよ、華凛ちゃんたち!おっ、そうだ。颯ちゃん、木刀も何本かあるけど、見ていくか?」

「おぉ、そうか。では、握りを確かめに行くとするか。」

「何で駄菓子屋に木刀が…?」


 華凛の疑問には誰も答えず、味太と颯は店の奥へと向かう。

 颯は靴をきちんと揃えてから中に入る。颯はそういうところは意外と礼儀正しいのだ。

 残った華凛と素子は籠を手に取り、買う駄菓子を探し始める。老舗だけあって品揃えは抜群で、これだけの駄菓子が並ぶ姿を見るとつい心が浮つく。


「仕方ない子や。颯ちゃんの分も買ってあげんとな。」


 素子は追加で籠を二つ持った。それを見た潤奈は立ち上がり、素子に近寄って来た。


「…籠、二つも持つの大変そうだね。私、一つ持つよ。」

「え、ええんか?ごめんなぁっ、気遣わせて。」

  

 素子は持っている籠を一つ、潤奈に渡した。潤奈は両手で籠の持ち手部分を持って駄菓子を探している素子について行く。


「…これ、新商品だっておじさん、言ってた。おすすめだと思うよ。」

「そ、そうなん?じゃあ、買おかな?十円やし、たくさんこうたろ…!」


 素子はおすすめされた駄菓子を自分と潤奈が持っている籠に入れて行く。潤奈は人見知りなようで意外と商売上手な子のように見えた。


「あの、潤奈さんは外国の人なの?」


 華凛は潤奈のミステリアスさが性分で気になってしまい、聞いてみた。


「…うん、そうかな。」

「綺麗な銀髪やもんね。地毛なんやろ?」

「…うん。」

「学校はこの辺?」

「…まぁ、そうかな。」


 聞いても話が続かなかった。何だか聞かれて困っているようにも見えたのであまり聞かない方がいいのかな、と華凛には思えた。


「よっ!華凛、素子、今戻ったぞ!」


 颯は味太と共に戻って来た。靴を履き、華凛の近くまで来た。


「あれ?木刀は?」

「ふふん、どれも良い刀ではあった…。良い木を使っていた…。だが、しかし!日が悪かった!何せ、私は今日愛刀と出会ってしまったのだから…!」


 颯は両手を絡めて目をキラキラさせる。


「…愛刀?」

「あぁ、ごめんな、潤奈ちゃん。こういう子なんや。」

「だが、我が愛刀をも凌ぐまだ見ぬ木刀もあるやもしれん!精進せいよ、じっちゃん!」

「おう!また探しとくよ、颯ちゃん!」


 颯と味太は互いにサムズアップし合う。


「ごめんな、おじさん。うちの颯ちゃんに構ってもろうて…。」

「何、張り合いが合っていいよ。俺の趣味の一つみたいなもんさ。」

「おおきにな。あ、颯ちゃんの分も駄菓子選んどいたで?」

「ふむ、どれ…。」


 颯は潤奈から籠を受け取って見た。


「さすが素子。私の好物の煎餅は抑えてあるな。だが、しかし。まだチョコボールとウエハースと渦巻きキャンディーときなこ餅とラムネと金平糖とどら焼きとミニカップ麺とクラッカーと…。」

「いや、多いよ!?どれだけ図々しいの!」

「悪気はないんや、華凛ちゃん…。颯ちゃんは大の甘党やから…。」


 こうして颯も駄菓子選びに合流。颯は勝負師の目に変わり、駄菓子を次々と手に取っては丁寧に置き直していく。


「当たりよ…!駄菓子に秘められた当たりクジよ…!勇者である私の想いに応え、その姿を現せ…!超えろ、値段の壁を!そして、分岐を!我らに最高のハッピーエンディングを見せたまえ…!」

「…あの子は一体何を…?」


 潤奈は不思議そうに何かの呪文を唱えている颯を見た。


「駄菓子の当たりを引いて、少しでも得をして一喜一憂したいだけの子だから、気にしないで…。」

「でも、こうやって駄菓子を探すひと時も駄菓子屋の楽しみ方の一つやし、颯ちゃんのああいうノリもムードメーカーみたいでええやん?」


 そんなこんなで駄菓子選びを終えた華凛たちは味太にレジを打ってもらい、会計を終えた。

 買った後、すぐに颯は当たりを確認したが、何も当たらなかった。

 スマホで時刻を確認したらもう六時近かった。三人で袋を持って駄菓子屋を出る事にする。


「それじゃあ、おじさん!潤奈さん!また、来るね!」

「おぉ、またいつでも来な!華凛ちゃんたち!」


 潤奈は味太のとなりで手を振っていた。


「結局、収穫としては駄菓子を買いに来たみたいな感じになっちゃったね…。」

「部員集めになりそうなネタ…にはならへんよねぇっ、Mr.シルバー周りは…。」

「うむ、無理だな。あ、だが、私の武勇伝が…。いや、私は人知れず戦う、見返りを求めぬ勇者侍よ…。」


 颯は自分の周りに星を多数出現させ、かっこつけた。


「でもさ、銀髪の幽霊少女のミステリーは解けたじゃない?」


 しばらくだんまりだったゴーストがデバイスの中から語りかけて来た。


「まぁ、この辺りの町に外人さんはあまりいないだろうから…。潤奈さんが見間違われたのかもしれないね。」

「そうだよ、きっと。華凛たちは何だかんだでミステリーを一つ解き明かしたんだ。ボクが保証する。十分なSolve the caseさ。」

「…そっか。うん、そうだね。」


 Mr.シルバーと一悶着あった後、もしかしたら気落ちしてそのまま帰っていた未来もあったかもしれない。そうしたら、銀髪の幽霊少女の謎、潤奈とは出会えなかったかもしれない。

 些細な事ではあるけれど、ほんの小さな謎の解明だったとしても華凛の『探求の先にある価値』は得られた気がした。


「よぉ〜し!明日からまた再スタート!打倒Mr.シルバーを目指してダッシュだ、御頭(おがしら)ミステリー研究会!」


 華凛は立ち止まり、月に向かって左手に持ったデバイスを上に上げた。


「何や、急に華凛ちゃん?でも、ええやん!おーっ!」

「護衛は本日、勇者覚醒した私に任せるがよい!」


 素子と颯も華凛の思いに応えるため、袋を持っていない空いている拳を上に上げた。

 三人は共に笑い合い、電車の駅へと向かった。

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