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16章 アルアスの告白

「颯ちゃん、大丈夫…?」

「ふっ、何のこれしき…!ちょっと疲れただけだ…!」

「ちょっとここで休んでから、今日は帰ろか?色々あって、もう夕方やし…。」


 颯はデュエル・デュラハンを実体化した際の身体強化にまだ慣れていないため、疲労していた。

 華凛は颯に肩を貸し、近くにあった階段に座らせた。


「すまんな、二人共…。手間を掛けさせて…。」

「ううん、そんな事ないよ。颯ちゃんが真っ先に成果を出してくれたおかげでMr.シルバーに一矢報いる事ができたんだし…。颯ちゃんはかっこよかったし、私たちの勇者様だよ。」

「おぉっ…!?私の事を勇者と認めてくれたのは華凛、お主が初めてだ…!おぉっ、心の友よ…!ついでに侍もつけて欲しい…!」


 颯は両目をうるうるさせ、華凛に抱きついて来た。


「は、颯ちゃん、そんな大袈裟な…!?」

「だってぇっ、素子は一度も私を勇者侍扱いしてくれんのだぁ〜っ…!」

「そやね。せやけど、今日の颯ちゃんはかっこよかったで?それは認めたる。」

「まさかのデレかっ!?素子もはぐっ!」


 颯は今度は素子に抱きつこうとするが素子は両手を颯の肩に乗せ、無理矢理座り直らせた。


「はしゃいだらあかん。疲労しとるんやし、大人しく座っとき。怪我はなさそうやから、救急箱の出番はなさそうやね。」


 素子は一応、颯の身体に異常が起きてないか確認した。


「しかし、何だったんやろうなぁっ、あのお爺さん?」

「うん、謎が明らかになったようで深まったようでもある…。謎多き老人だよ、Mr.シルバー…。それと謎って言ったら…。」


 華凛はデバイスを取り出し、画面に映るゴーストを見た。


「…あははっ、参ったね!あのネタバレお爺さん。ボクの本名とか色々喋ってくれちゃってさ…!」

「…いいんだよ、ゴースト。気にしなくて。」

「…? ボクの事、まだゴーストって呼んでくれるの…?」


 ゴーストは不思議そうに華凛を見る。


「私たちにとって、ゴーストはゴーストだし。アルアスってのは捨てた名前なんでしょ?そりゃっ、私の性格上どうしてもゴーストの正体を詮索したりはするけどさ…。でも、いくら私が推理好きでも人の過去を掘り返してゴーストを傷つけたりはしないよ。ね、二人共?」


 颯と素子は華凛の意見に賛同し、頷いた。


「三人共、ありがとう…。気持ちはありがたいけど…でもさ、もう話さないといけない事はいくつかあるな…。聞いてくれるかい?」

「何?ゴースト?」


 ゴーストはデバイスの中から出てきて華凛たちに姿を見せた。


「…実はボクはバドスン・アータスって言う惑星組織に所属していた、キミたちで言うところの宇宙人なんだ…。ボクはハチゴウセンと呼ばれる幹部クラスの一人、アルアス。」

「う、宇宙人…?」


 華凛と素子は宇宙人という単語が出てきて面喰らってしまった。


「おぉっ…!?宇宙規模の組織なのかっ!?それでそれで!?」


 颯だけ目を輝かせてゴーストを尊敬の眼差しで見ている。


「バドスン・アータスは地球をデュラハン・ハート…華凛に預けていた石の事ね。」


 華凛たちはもう形を変えていて、ストラップとなって颯のスマホについている石を見た。


「地球をその石の採掘星に変えようとしているのがバドスン・アータスの目的…。もうこの地球の近くに来ていて、来月の五月八日に本格的に行動を開始する…。」

「えっと…それじゃあ、ゴーストって未来から来たんだよね?つまり、この世界には今、ゴーストは二人いるって事?」


 未来から来たゴーストと現代にいるアルアス。華凛は簡単なタイムパラドックスをゴーストに聞いてみた。


「…いや、それはないよ。」

「えっ?でも…。」

()()()()()()()()()()()()…。華凛、キミと出会う前に…。」

「…えっ?」


 華凛たちはゴーストの言っている言葉がよくわからなかった。


「…ボクのせいで前の未来は滅びた…。だから、歴史を確実に変えるためにボクはジブン自身を殺害したんだ…。その影響なのかな?ボクがこんな幽霊みたいになったのは…。そこはよくわかんないんだけど…。」


 ゴーストは自分の両手をひらひらさせた。


「えっ?どういう事なん?」

「わからんのか、素子?つまり、ゴーストは自分を殺した事で未来には繋がらなくなった…。だから、もうこの世にはいない人扱いとなり、幽霊になったのかもしれん…という事だ。」

「そ、そうなん…?」


 意外な事に颯から補足説明が入った。恐らくアニメや漫画などでタイムトラベル物に詳しいのかもしれない、と華凛は思った。


「だから、この世界では歴史はその部分だけ既に変わってる…。多分、シチゴウセンになってるんじゃないかな、この世界だと…。」

「そんな…。いくら別存在の自分だからって、何も殺す事は…。」

「こんな愚か者、いたらいけないんだ…。消し去るべきだったんだよ…。」

「しかし、どういう事だ?ゴーストは地球を滅ぼしに来た宇宙人の一人なのだろう?なのに、未来が滅びた事を何故嘆いた?」


 颯のSF知識は頼もしく、ゴーストに次々と気になる部分を聞いてくれた。何だか頼もしい、と華凛は感じる。


「それは…。」

「…『道人』…。」


 今日、華凛が教室に向かう最中にゴーストが思わず名前を呼んだ存在『道人』。華凛はその名を口に出した。颯と素子が一斉に華凛を見る。


「どうしたん、華凛ちゃん?道人って、『空野道人』君の事?となりのクラスの。」

「そう、その道人だよ。道人は不思議な子でね…。敵対しているはずのボクの事をすごく気に掛けてくれた…。道人の側には色んな人やデュラハンが不思議と集っていって…。ボクもバドスン・アータスを裏切っちゃって、カレのディサイド・デュラハンになっちゃった…!」


 ゴーストは恥ずかしそうにし、両手の人差し指を何度かつんつんした。


「じゃあ、このデバイスは元々は…?」

「そう、道人のだよ。でも、気にしなくていいよ、華凛。ボクはもう二度と、道人のディサイド・デュラハンにはならないから…。」


 ゴーストはそう言うと日が沈み、暗くなり掛けている空を寂しそうに見た。

 その姿を見て、華凛はゴーストの過去を聞くのは止したくなってきた。颯と素子も同じ気持ちのようだった。


「ボクは自分を殺した後、さてどうするかと彷徨って、流れに流れて白霊の寺に来た。そして…華凛、キミと出会った。しかも何の因果か、キミとディサイドしちゃってね。」


 華凛はきょとんとした顔で自分を指差す。


「ボクは未来に起こる事を知ってる…。でもさ、華凛はボクに会った途端、御頭(おがしら)ミステリー研究会を作るって言い出した…。Mr.シルバーも言ってただろう?何で未来の事を知ってるのに華凛たちを危ない橋を渡らせようとしてるんだ、って…。」

「うん…。」


 ゴーストはそう言うと胸の顔から涙を流し出した。


「ボク、嬉しかったんだ…!ジブンの人生をジブンから捨てた後にまた人との…華凛や颯、素子と繋がりが出来て…!こんなどうしようもないボクとの出会いを華凛は価値ある事として扱ってくれて…!だから、研究会の結成を、止められなかった…!ごめん、ごめんよ、巻き込んで…!」

「ゴースト…。」


 華凛たちはゴーストを見て微笑んだ。


「今日だって、ボクは止めるべきだったんだ…!ひょっとしたら、華凛たちが言う巨大カブトムシ…ラクベスに遭遇するかもしれなかったのに…!ボクはまた、パートナーを危険な目に遭わせようとしたかもしれないんだ…!ボクは馬鹿だ、どうしようもない無能だ…!」

「…ゴースト、デバイスの中に入って。」

「えっ…?」


 華凛は右手に持ったデバイスをゴーストの前に出した。


「華凛、何言って…?」

「いいから、早く!」


 ゴーストは渋々華凛の言う通りにし、デバイスの中に戻った。


「…ゴーストは幽霊だから、抱きしめて慰めてあげる事はできないけどさ…。デバイス越しなら…気休めかもしれないけど、できるから…。」

「…あっ…。」


 華凛は目を瞑り、デバイスを両手に持って右頬を当てた。右手の人差し指で画面に映るゴーストを撫でる。


「…私も昔、悲しい時はお母さんにこうしてもらったから…。辛かったね、ゴースト…。」

「…うぇっ…えっ…か、華りぃ〜ん…!」


 華凛はしばらくデバイスに右頬をつけたままにした。


「華凛ちゃん、うちもうちも。」

「うむ、友情の証だ!」


 華凛は二人の声を聞き、デバイスから右頬を遠ざけた。素子と颯も指でデバイスの画面を撫でる。


「約束するよ、ゴースト!私、あなたが危険だと言う場所には近寄らない!後、今度はあなたを幸せにしてあげる!私、こう見えてタフなんだから!」

「華凛、ボクはキミの何でも知りたいと思う探究心が好きだ…!キミのその好奇心のおかげでボクたちは出会えたのだから…!だから、真実を追い求める気持ちを捨てないで…!大丈夫、危ない目に遭ってもボクが今度こそ守ってみせるから…!」


 二人の言葉を聞いた颯と素子は互いに目を合わせた後、思わず笑ってしまった。


「華凛ちゃんは危ない所には行かない言うとるのに、ゴーストちゃんは危ない目に遭ったら守ってあげる、って噛みおうてないやん!」

「すれ違った約束だな。しかし、暖かいすれ違いだ。そこがいいかもしれん。」

「素子ちゃん、颯ちゃん…。」


 華凛は二人を見た後、改めてデバイスに映るゴーストを見た。


「と、とにかく!改めてよろしくね、私のゴースト!」

「うん、ボクの華凛!」


 華凛とゴーストは互いに笑い合い、素子と颯も釣られて笑い出した。


「さ、もう暗くなってしもうたし、今日はもう帰ろか。」

「待った!せっかく十糸(といと)の森まで来たのだから、駄菓子屋に寄ろうではないか!私の勇者侍覚醒記念で!」

「よし、私たちとゴーストとの改めての友情!新たな気持ちで、打倒Mr.シルバーを誓って!御頭(おがしら)ミステリー研究会は駄菓子屋目指して、レッツ・ラ・ゴー、スト!」


 華凛たちは新たにした想いを胸に駄菓子屋に向かった。


「新たな一歩が駄菓子屋って…。ま、いっか。もしかしたら、会えるかもね。『銀髪の幽霊少女』にさ。」

「…? 何か言った、ゴースト?」

「ううん、何でもない!さぁ、新たな出会いを求めてゴー、スト!」

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