12章 再会のシルバー
放課後、華凛たちは電車に乗って十糸の森を目指す。十糸の森は御頭駅から二駅の場所にある。
華凛たちは切符を買った後、改札口を通ってホームへと歩いているとちょうど各駅停車が到着したので乗った。
「三時近くだとまだ人は少ないね。余裕で座れるや。」
華凛が座った後、華凛の右に颯、左に素子が座った。扉が閉まり、電車は発車した。素子と颯はスマホを取り出した。
「…そう言えばさ、素子ちゃんや颯ちゃんはやってるの?デュエル・デュラハン。」
華凛は二人に聞いた事がなかったので良い機会なので尋ねてみた。
「うむ、やっているぞ。」
「うちらもゴーストちゃんみたいなの憧れるやん?」
颯と素子はデュエル・デュラハンのステータス画面を見せてくれた。颯はマントをつけて勇者っぽくもある侍風のデュラハン、素子はナース風のデュラハンだった。
「素子はなかなか対戦してくれんのだ。」
「うち、育成ゲームとして遊んでるんや。バトルする気はあらへんよ?」
「華凛はやってないのか?」
「私は…ゴーストがいるからなぁ。」
「はい、ボクがいらっしゃいますからねぇっ…。」
華凛はデバイスを取り出してゴーストが映っている画面を見た。
「二つあってもええやん。」
「そうだ、そうだ!そして、私と一緒にバトれ!」
「…うーん、考えとくよ。」
「…ディサイド・デュラハンとデュエル・デュラハンの同時持ち、か…。」
ゴーストはそう言うと何故か寂しそうにしていた。
「しかし、ゴーストが失われた未来から来たって話は私も聞いた時は驚いたね。私ぁっ、その手の創作物は見た事がなかったからな。」
華凛たち御頭ミステリー研究会は掟という程ではないが、なるべく秘密は共有するようにしているのでゴーストの事ももう話してあった。
「せやね。会話機能がある時点でデュエル・デュラハンとはちゃうんやろうな、と思っとったけど。」
「まだまだ秘密が多い子だよ、この幽霊さんは。」
「いやぁっ、照れるなぁ〜っ…!」
「褒めてないって…。」
そんな会話をしていると、十糸の森に到着した。電車から降り、徒歩十分くらいで十糸の森の入り口に到着した。平日の昼なので人気は全くない。
「何度来ても変わらないなぁっ、ここは…。」
「本当にUFO見つけられるのか?」
「とりあえず、それらしい所を当たろうやん。」
華凛たちは石の階段を上ろうとする。
「やぁ、華凛君。久しぶりだね。」
華凛の背後から突然聞き覚えのある声が聞こえた。同時にいつか感じた冷たい目線も思い出し、全身に悪寒が走った。
華凛たちは急いで後ろを向くとそこには四年前に商店街で出会った老紳士Mr.シルバーが立っていた。
「な、何や…。いつかのお爺さんやん…。びっくりしたわぁっ…。」
「久しぶりだな!四年ぶりか?」
「うむ、そうだな。しかし、さすが育ち盛りだ。四年も経つと背も伸びて立派な良いレディになってきたな、三人共。」
逆にMr.シルバーは何も変わっていなかった。服装も変わっていないし、老人にしては引き締まった肉体もそのままで全く衰えを感じさせない。
老人だからそんなに変わらないとはいえ、だとしても変わらなさ過ぎないか、と華凛は冷や汗を掻いて警戒した。
「…まぁ、一人は変わり映えしないようだがね…。ゴースト…だったかな?」
「「えっ…?」」
Mr.シルバーからゴーストの名前が出た途端、さすがに颯と素子もMr.シルバーへの見方が変わり、華凛と同じく警戒する。
「オマエ、何者だっ!?何でボクの事を知っている!?」
ゴーストもデバイスから大声を挙げてMr.シルバーに怒鳴る形で問うた。
「何、私は何でも知っているよ?バドスン・アータスのハチゴウセンの一人、『アルウス』君。」
「…!? オマエ…!」」
華凛は思わぬ形でゴーストの本名を聞かされて動揺した。
情報の発信者が怪しいMr.シルバーであったとしても、ゴーストの反応を見るに恐らく事実だろうと華凛は察した。
ただ、バドスン・アータス?ハチゴウセン?ゴーストの正体を聞かされても華凛にはさっぱりだった。
「おっと、失礼。ネタバレをしてしまったかな?すまないね。だが、おかげで華凛君がバドスン・アータスを知った時の反応が楽しみになったよ。」
「まさか…オマエ、ボクと同じ未来から…!?」
「Mr.シルバー、一体何の用で私の前に現れたんですかっ!?」
華凛は一歩前に出てMr.シルバーを睨んだ。
「何、君たちの身を案じて忠告に来たのさ。むしろ、感謝して欲しいものだね、華凛君。」
「案じる…?忠告…?」
華凛たちはMr.シルバーの言う事がよく分からずにいた。
「…この先には進まない方がいい。君たちは軽はずみな気持ちで危険な道を歩もうとしている…。銀髪の少女や首無し忍者は害はないだろうが、巨大カブトムシと会うのは危険だよ。命がいくつあっても足りない。君もそう思うだろう、アルウス君?」
「その名前で呼ぶのはやめろ!ボクはその名を捨てたんだ!」
「ふむ、そうか…。元主人を思っての行動…。その忠誠心は買いたいところだが、君一人がいなくなったくらいでどうにかなる事態じゃなかったと思うがね。」
「コイツ、どこまでボクの事を…!?」
「ゴ、ゴースト…?」
こんなに動揺し、イライラしているゴーストを華凛は初めて見た。華凛としてもMr.シルバーの口からどんどんゴーストの正体に関する情報が伝えられて話についていけない。
「…まぁ、いい。華凛君、君は見込みがある子だ。これから起こる出来事に首を突っ込んで命を失わせるには実に惜しい子だよ。研究会としての活動は式地博士の時のような人助けに留めておくか、または悪い事は言わない。研究会をすぐに解散するんだ。」
「解、散…?」
華凛はMr.シルバーの言葉と、放たれる冷たい眼光に寒気を感じた。
「やいやい!黙って聞いてりゃぁっ、いきなり解散しろだとっ!?冗談じゃないぞ、老紳士殿!」
「せや!せっかく同じ学校になれたのにもう解散なんてできる訳ないですやん!」
颯と素子も前に出て、Mr.シルバーに強く抗議する。
「危険なんだよ、本当に。私は君たちの身を案じて言っているんだ。戦いに関して素人の君たちがDULLAHAN WARに…いや、その前の戦島で命を落としかねないよ。アルウス君もアルウス君だ。何故、ミステリー研究会の結成を良しとした?これから五月になったら起きる事態は君だって知っているだろうに…。」
「そ、それは…。」
ゴーストはMr.シルバーにそう言われると反論しなかった。
華凛はMr.シルバーに言いたい放題言われている事にも憤りを感じていたが、ゴーストが秘密にしている事をべらべらと話すMr.シルバーにも怒っていた。
「やい、老紳士殿!つまり、私らがその危険とやらに対抗できる術を得られれば文句はないのだな?」
「は、颯ちゃん?」
颯は自信満々に右手でMr.シルバーを指差した。
「ほう?そう来たか…。確かにその通りだ、ふむ…。」
意外にもMr.シルバーは颯の現実的ではない言い返しをまともに受けて考え込んだ。
「よし、いいだろう。なら、試させてもらおうか。」
Mr.シルバーは右手の指を鳴らした後、突然周りに鳩を三羽出現させた。華凛たちに飛んできた鳩が三人それぞれに色が異なった三本の糸を渡してきた。赤が颯、青が素子。そして、華凛が紫だった。
「な、何これ…?糸…?」
「それは『十糸姫の糸』。私が持っていた持ち主の見つからなかった三本の糸さ。」
「糸…!? コイツ、やっぱりボクと同じ…!?」
ゴーストがまたデバイスの中から驚いた。
「糸って…?ひょっとして、あの十糸姫の伝説に出てくるあの糸なん…?」
「ご名答、素子君。その通りだ。その糸は特別な能力を持った糸でね…。そこで君たちに課題を与える。何、私が用意するちょっとした講義だと思ってくれたまえ…。その中で君たちが糸の力を覚醒させられたら認めてあげようじゃないか、君たち御頭ミステリー研究会の存在をね…。」
Mr.シルバーがそう言うと同時に何かがシルバーの近くに土煙を上げて着地し、胸についた顔の目を赤く光らせた。




