11章 UFOを探しに
愛歌が自分の教室へと戻った後、華凛は改めて渡されたチケットを見る。
「…えっと、すごいのもらっちゃったね。」
「うむ、善行は積むものだな。」
「華凛ちゃん、とりあえず貴重品やし!救急箱に入れとこ!」
「う、うん…?まぁ、いいか…。頑丈そうだし…。」
薬局絡みの金銭問題以外の管理に関してはしっかり者の素子なら大丈夫だろうと華凛はチケットを預けた。素子は救急箱の中に収める。
「さて、もらったはいいものの…。デュラハン・パークの遊園地かぁ〜っ…。どうしても遊びに行く感じになっちゃうし、御頭ミステリー研究会としての活動は難しいかなぁ〜っ…。」
「ふふん、ところがそんな事はないで、華凛ちゃん。デュラハン・パークにも秘密がぎょうさんあるで?」
素子が眼鏡と伸ばし棒を救急箱から取り出して装着した。
「えっ?本当?」
「まず式地博士自体が謎そのものや!短期間で人工島を二つ増やしたり、デュエル・デュラハンを作り上げて一躍大ブームを起こしたり、その科学力は人並み外れたところがあるやろ?」
「なるほど…。でもさ、私たちがもらったのは遊園地エリア限定のチケットだし、式地さんも多忙みたいだから会って話すのは難しそう。」
「た、確かに…。」
素子は華凛の意見を聞いて左手を顎に当てて考える。
「それに一般人でも会社エリアの食堂までは入れるけど、実験エリアや開発エリアは入れないしね…。」
「それに遊園地エリアに行くんだったら朝から晩までギリギリまで遊びたいしな。」
颯は椅子をひっくり返し、背もたれに顎と曲げた両腕を乗せて座り直した。
「ふふん、じゃあ、次のネタや。式地博士が何であの場所にわざわざ人工島を作って暮らしてると思います?」
「それは…。」
確かにそれはわからなかった。四年前に会った際も別に人嫌いのようには見えなかった。
「これは噂なんやけど、あの島は何かと縁起が良い場所に作られておるんや。霊的…と言うんやろか?開発関連の事がうまく行きますように、だとか邪なるものが近寄らないように、みたいな願いが込められた場所に式地博士はわざわざ島を作ったらしいで?おかげであそこはセキュリティが固いんや。」
「へぇっ、そうなんだ…。なるほど、セキュリティの固さの秘密…。それは調べ甲斐があるかも…。」
華凛は今の素子の話を聞いてスイッチが入った。
「うん、わかった。いいと思う。それじゃあ、行こうか。」
「おし、リーダーのお墨付きが出たな。張り切って行こうぞ!」
「せやね。」
「…ちょっと、待って。リーダーって?」
「「ん。」」
颯と素子は一斉に華凛を指差した。華凛も反射的に自分を指差す。
「研究会を作ろうって、言い出したのは華凛だろ?当然だと思うが。」
「わ、私リーダーだったの?颯ちゃんとかいかにもリーダーやりたそうだけど…。」
「私は如何なる時でも風のように自由でありたいからな…。」
「何故詩的っぽい…?それにリーダーだったら、素子ちゃんの方がしっかりしてるし…。」
「うちもパスや。うちは割と暴走するし。華凛ちゃん、視野が広いし、リーダー向いてると思うで?」
「そういう事だ。頼むぞ、部長。」
「部長も私なんだ…。」
「頼んだで、令和のシャーロック・ホームズさん?」
何かリーダーを押し付けられた感があるが令和のシャーロック・ホームズの肩書きは単純な褒め言葉だとしても華凛の胸を強く打つ。
「わ、わかったよ!こうなったらリーダーも部長も私に全部任せなさい!」
右手を胸に当てて強気に出た華凛に対して颯と素子は笑顔で拍手を送った。
「じゃあ、話をまとめるよ?今日は4月14日の月曜日だから…。二人共、4月19日の土曜日は空いてる?」
「無論。」「問題ないで?」
「OK。じゃあ、その日の朝から遊園地に行こう!」
「「おぉ〜っ!」」
話はまとまった瞬間、昼休み終了のチャイムが鳴った。華凛たちは席に戻り、また先生の自己紹介がメインの五時間目が始まり、あっという間に終わった。
今日は五時間目までなのでホームルームの後、下校となる。
颯と素子は華凛のいる席に集まった。
「じゃあ、給食の時に言った通り、部活立ち上げの話するね。私、思ったんだ。このまま土曜日の遊園地行きまで何もしないってのも勿体無いな、って。」
「せやね。その間にも活動して、部活勧誘のネタ探しを揃えておくのもありやと思う。」
「うむ。じゃあ、今からどこか行くか?」
「うん。 …とは言うものの、今から即興で探検できる場所というのもなかなか難しいね…。」
華凛はさて、どうしたものか?とその場で悩む。
「ほなら、十糸の森なんてどうや?近いし。」
「十糸の森か…。」
この四年の間に十糸の森へは何度か足を運んでいたが、特にミステリアスなものとは遭遇できず、大体駄菓子屋に寄るついでみたいになってしまっていた。今回もそうなりそうではある。
「何度も行った既存の場所やん…と侮るなかれよ、華凛ちゃん。あの場所には近年不思議な事が何度か起きとるんや。それは何かと言うとな、去年UFOを見た、って人がおるんや。」
「えっ?UFO?」
華凛は初耳だったので驚いた。
「うん、かと言って目撃者は一人だけやからあまり広まらんかったんやけど、うちの情報網で掴んだんや。夜中に光る物体が降りて来たのを見たって人がおるんや。でも、探しに来ても何も発見出来なかったらしいんや。他にもUFO目撃例の後に出現した『放浪する謎の銀髪の少女』や『彷徨う首無し忍者』、『超巨大カブトムシ』の目撃例があるで。」
「UFO目撃の後にそんなに謎の存在が出現を…?何か関連性がありそうだね…。」
「…あの三人、そんな噂になってたのか…。」
鞄の中からゴーストの独り言が聞こえた。今は放課後の教室なのでゴーストが喋っても問題なさそうだったのでデバイスを鞄から取り出した。
「何か言った、ゴースト?」
「う、ううん。何でもないよ、華凛…。」
ゴーストの反応が何だか気になった。十糸の森はゴーストと初めて出会った場所でもある。もしかしたら、今挙げられた三つの存在はゴーストと関係があるのかもしれない。
「じゃあ、もし私たちがその三人を見つけて噂の解明ができたら部活勧誘のネタにはなりそうかな?」
「そんなすぐに遭遇できるもんとは思えないけどな。」
「もう、颯ちゃん。この街のそんな不可思議な謎を追求するためにこの研究会を作ったんやろ?」
素子は軽く颯の胸に右手の甲を当てた。
「うん、その通り!十糸の森に関する三つのミステリー、私たちが受け持ちます!いざ、十糸の森へレッツ・ラ・ゴー!」
「「おぉ〜っ!」」
意気投合した三人は教室を後にし、早速十糸の森へと向かった。
華凛は校門を抜けて走っている最中、どこかで見覚えのある白い物体が通り過ぎた気がした。




