10章 四年越しのお礼
今日から入学して初めての授業。と言ってもほとんどが担当教師の自己紹介で終わるので授業らしい授業はなく、給食の時間となった。ちなみに深也はあれから戻って来ない。
「ふむ、給食って言っても小学校の頃とあんまり変わんないな…。」
「そやね。うちらも同じ感想や、華凛ちゃん。」
「ふふん、深也め!戻って来ないなら、奴の分の給食も平らげてくれるわ…!」
「そりゃ、残念だったな。俺はいるぜ。」
深也はアルミ食器に乗せた自分の分の給食を運んで来ていた。
「くっ…!おのれ、深也…!」
「…ま、この教室じゃ食わねぇけどな。」
そう言うと深也は給食を持って教室から出て行った。周りの生徒たちも不良王がいなくなってほっとしていた。
「周りの目を気にしてくれたのかな…?」
「ふん、単に給食費が勿体ないだけであろう。」
「颯ちゃん、お願いやから仲良くな?さ、一緒に食べよか。」
華凛たちは机を移動し、三人の机をくっ付かせた。
「「「いただきまぁ〜す!」」」
日直による給食の挨拶でみんな、一斉に食べ始めた。給食の内容はご飯とワカメの味噌煮、マグロの唐揚げ、ひじきの煮物、パックのお茶だった。
「…何か、私たちじろじろ見られてない?」
主に男子生徒たちが華凛たちをちらちら見ながらご飯を食べていた。
女子生徒は戸惑っている人や、機嫌が悪そうな人がちらほらいた。
「ふふん!仕方あるまい、華凛!何せ我らは美少女三人組なのだからな!」
華凛は私も?と右手で自分を指差した。
「素子ちゃんはさ、確かにだけど…。」
箸の先を口に入れている素子は食べている最中もキラキラ輝いていた。これは注目を浴びても無理はないという可愛さだった。
「颯ちゃんも変わり者だけど…。」
颯は素行に問題があり、露出度がやや高いのとツインテールで喋らなければ美形に見える。
「…私が?」
「何だ、自己評価低いな、華凛。華凛は確かに私らと比べたら地味かもしれんが、十分可愛いと思うぞ?」
「か、可愛いけど、じ、地味って…。褒められてるのか、貶されてるのか…。」
華凛は颯の言葉を聞いて微妙な反応をした。
「ご、ごめんな、華凛ちゃん。颯ちゃん、悪気はないんよ。うちは華凛ちゃん、可愛いと思うで?ほら、サイドテール、可愛いやん?」
「そ、そうかな?」
素子にそう言われると何だか悪い気がしなかった華凛はマグロの唐揚げを一口食べた。
「私らは前の小学校でも人気者だったさ。何、美人は三日で飽きる…というだろう?その内落ち着くであろう。」
小学生の頃から人気者の目で見られていた颯がそう言うなら、そうなのであろうと華凛は納得し、話題を変える事にした。
「あのさ、給食食べ終えたらさ、昼休みに部活立ち上げの対策会やろうよ。後、今日は五時間目で終わりだし、放課後にも。」
「うむ、構わないぞ。」
「うん、ええよ。やっぱり、同じ学校になった恩恵は大きいわぁ。」
颯と素子と早速、御頭ミステリー研究会としての活動が積極的にできる。華凛はその嬉しさで周りの眼差しが気にならなくなり、食が進んだ。
三人で世間話をしながら楽しく食べた後、給食の片付け作業に入った。
「あ、ごめん、遠藤さん。まだ一人帰って来てない生徒がいるから、ちょっと待ってて。颯ちゃんと素子ちゃんもちょっと待っててね!」
「あっ、華凛ちゃん!」
華凛は給食の片付け係の一人である遠藤さんにそう言うと廊下を小走りし、階段を駆け上がった。
「あの手の不良君が一人で食べそうな場所って言ったらやっぱり…。」
華凛が独り言を言っているとちょうど深也が食べ終えたアルミ食器を持って階段を降りて来た。
「よし、Solve the case!」
「あん?」
華凛は思わず深也を右手で指差してしまったので慌てて手を下ろした。
「お前、あのツインテの近くにいた…。」
「そう、華凛。海原君…だったよね?私が片付けておくよ、その食器。」
「い、いいのか…?」
「いいの、いいの!また颯ちゃんに絡まれたらさ、お互い不機嫌になっちゃうでしょ?」
「お、おう…。…悪ぃな、何か…。」
深也は申し訳なさそうにアルミ食器を華凛に渡した。
「良いって、良いって!今ので私のSolve the caseは更に磨きが掛かったからね!」
「さっきから何だ?その…ソウ、ブ…とか何とかってやつは?」
「私の拘り…ってね!あんまり屋上で食べてると先生に怒られるよ?」
「お前、何で俺が屋上で食ってるって…?」
「不良君の王道!テンプレートの一つ、ってね!じゃあね!本当に先生には気をつけなよ?」
「…変わった奴。」
華凛はそう言うと階段を降り、急いで教室に戻る。
「ごめんね、遠藤さん。お待たせ、はい。」
華凛は遠藤さんにアルミ食器を渡し終え、颯と素子が座っている場所へ行こうとする。
「あの、大神さん…っている?」
「ん?私?」
背後から急に声を掛けられた。華凛が振り向いて確認すると今朝、道人という生徒と一緒にいた黒いシャツに青い上着とスカートを履いたピンク髪の女の子だった。
「あなたは…?」
「あたし、城之園愛歌。あなたのお姉さんにはよくお世話になってるんだ。」
華凛には聞き覚えがある名前だった。今朝、天音が話していた子だった。向こうから話し掛けて来るとは思わなかったので華凛は少し戸惑った。
「三宅さんと風沢さん…もいる?」
「あ、うん。あそこに。」
華凛は二人を指差した。素子と颯も不思議がっている。
「なら、ちょうど良かった!教室、入るね。」
「あ、うん。どうぞ…。」
華凛は愛歌と共に椅子に座っている素子と颯の元まで歩いて立ち止まった。
「大神さんには今、自己紹介したけど、改めて。あたし、城之園愛歌。となりのクラスだけど、よろしくね。」
「うん、ご丁寧に。こちらこそ、よろしゅうなぁ。」
「うむ、すごい派手なピンク髪だな…。それは地毛か?」
「颯ちゃん、何ちゅう失礼な!ごめんなぁっ、うちの颯ちゃんが。」
「ってか、颯の赤紫髪も結構派手だし。」
「そうか?」
颯は自分のツインテールを両手で持ってふわふわさせた。
「それで私たちに何か用が?」
「あ、うん。本題に入るんだけどね。あなたたちさ、昔、困ってた式地博士を助けてくれたんでしょ?」
愛歌は四年前に商店街で落とし物をして困っていた式地の話をして来た。
「え?そうだけど…。何であなたがその話を?」
「あたし、式地博士とも知り合いなんだ。」
「そうなん?愛歌ちゃん、結構すごいお人なん?」
「別にあたしはすごくなんかないよ。あなたたちと同じで縁があって、たまたま出会ったってだけだよ。それでね、博士は多忙であなたたちになかなか会えずにいたからさ、お礼が出来なかった事を気にしてたんだ。」
愛歌はそう言うとポケットからチケットを三枚渡してきた。
「これは…?」
「デュラハン・パークの期間限定一日無料優良プレミアム招待券だよ。本当は大神さん…お姉さんの方ね。が、渡すはずだったんだけど…博士から受け取り忘れててね。だから、渡し役にあたしが白羽の矢が立ったって訳。」
「ははっ、お姉ちゃん、そういうとこ抜けてるからな…。」
「って、いうかマジかっ!?デュラハン・パークの一日無料優良プレミアム招待券!?」
颯は椅子から立ち上がり、愛歌が持っている三枚のチケットをまじまじと見た。
デュラハン・パークとは式地博士が住んでいる四つの島、その内の遊園地エリアにあるテーマパークの事だ。
「華凛ちゃんが大事な落とし物見つけてくれたからとはいえ、これは成し遂げた事に対して見合ってない破格のお礼なんちゃいますのん?」
「ううん、そんな事ないよ。あなたたちが封筒を見つけてくれた事はとっても大事な事…。博士もずっと気にしてたんだよ?」
愛歌は自分の胸に右手を当てて華凛たちに笑みを浮かべた。
「だから、遠慮せずに受け取って欲しいんだ。」
「…そっか、わかった。じゃあ、ありがたく受け取らせてもらうね。」
華凛は愛歌の表情を見て遠慮するのはやめ、気兼ねなく受け取った。
「ふふっ、良かった!じゃあ、あたし、教室に戻るから。お姉さんによろしくね?」
そう言うと愛歌は手を振って教室へと戻って行った。
○三宅素子 12歳
血液型O型
誕生日 5月12日 牡牛座
身長 157cm 体重 秘密や
趣味 救急箱 薬局巡り 人の面倒を見る事 二時間以上前行動
好きな食べ物 うどん 半熟たまご
苦手な食べ物 ところてん




