第六話: 予想外の来訪者
「えー!夢路が交差点管理人だったの?」響は目を丸くした。「全然気づかなかった!」
「まあ、そんなつもりじゃなかったんだけど……」俺は照れくさそうに言った。
「でも、ここ本当に静かだね」響は辺りを見回しながら言った。「もっと賑やかなのかと思ってた」
「まあ、まだ始めたばかりだからね」
俺たちは他愛もない話をしていた。現実での学校のこと、最近見た映画のこと。普通の友達同士の会話だった。
そのとき、街灯の光の中に人影が現れた。
「彩!」
俺は思わず声を上げた。数日ぶりに現れた彩に、心臓が跳ね上がった。
「え?知り合い?」響は驚いた顔をした。
彩は相変わらずクールな表情で、ゆっくりと近づいてきた。
俺は嬉しさを隠せなかった。
でも、その時だった。
別の方向から、また人影が現れた。今度は黒いフードを被った男だった。
俺と響は警戒した。これまで交差点に来たのは、俺たちのような普通の人間だけだったからだ。でも、この男からは何か不穏な雰囲気が漂っていた。
「見つけたぞ、夢渡りの民」
男はつぶやいた。
「夢渡りの民?」
俺と響は顔を見合わせた。何のことかわからない。
俺たちがボーっとしていると、突然男が襲いかかってきた。
「うわっ!」
俺は驚いたが、すぐに我に返った。ここは夢の中だ。理想も思い通りになるはずだ。
俺は手を伸ばして、大きな盾を作り出した。男の攻撃を防ごうとする。
しかし――
盾は一瞬で崩れ去った。
「え?」
男の拳が俺の頬を捉えた。激痛が走る。
「うああああ!」
俺は地面に叩きつけられた。夢の中なのに、こんなに痛いなんて。
「夢路!」響は驚いて俺に駆け寄ろうとしたが、明晰夢を使い始めたばかりで何もできなかった。
彩も力の使い方を知らないのか、ただ見ることしかできなかった。
「何なんだ、こいつ……」
俺は頬を押さえながら男を見上げた。
「ここにはもう来るな」
謎の男はそう言うと、背を向けて立ち去ろうとした。
「おい!待て!」
俺は立ち上がり、夢の力で剣を造って男に襲いかかろうとした。
しかし、剣に裂け目のようなものができ一瞬で崩れ去った。
男は振り返ることもなく、交差点から消えていった。
「クソ……」
俺は拳を握りしめた。夢の中なのに、なぜ自分の力が通用しないんだ?
「夢路、大丈夫?」響が心配そうに駆け寄ってきた。
「ああ、なんとか……」
俺は頬の痛みを確かめながら答えた。夢なのに、こんなにリアルな痛みを感じるなんて。
彩も静かに近づいてきた。
「あの男、何者?」
「わからない……」俺は首を振った。「でも、明らかに俺たちとは違う。夢の中なのに、俺の力が全然通用しなかった」
三人は無言でその場に立ち尽くした。
交差点に漂う空気が、一変してしまっていた。
いつの間にか朝が来たようだ。
目が覚めると、殴られた頬は全く痛みを感じていなかった。夢の中での痛みは現実には反映されないらしい。
俺は安堵した。あの激痛がずっと続くのかと思って心配していたからだ。
でも、安堵と同時に別の不安が頭をよぎった。
今朝見た夢の中の響が本物かどうか確認しなければいけない。
俺は謎の男との戦闘を悔いながら、学校へ向かった。もっとうまく戦えたはずなのに、なぜ自分の力が通用しなかったんだろう。
「おはよう!」
教室に入ると、いつも通り響が明るく挨拶をしてきた。
俺は今朝の夢の響は響の夢の中の人物なのかを聞こうとした。その矢先――
「夢路、頬大丈夫か?」
響がそう聞いてきた。
俺は驚いた。
夢の中で俺が殴られたのを覚えているということは、今朝の夢の響は現実の響だったということだ。
そうなると、同時に彩も現実の人であることが確定した。
そして、あの謎の男も……
「響……」俺は震え声で言った。「昨日の夢、覚えてる?」
「うん、もちろん」響は心配そうな顔をした。「あの黒い男、何だったんだろうね。夢路の力が全然通用しなくて、すごく怖かった」
現実だった。すべて現実だったんだ。
俺の頭の中は混乱でいっぱいになった。