第三話: 交差点管理人
「夢路、最近よく寝てるよね」
翌日の昼休み、響がそう言った。
「え?」
「いや、授業中とか。前はぼーっとしてるだけだったけど、最近は本格的に寝てる」
言われてみれば、確かにそうだ。明晰夢が楽しくて、現実の授業がますますつまらなく感じるようになった。
「まあ、授業がつまんないし」
「でも、先生に怒られるよ?」
「大丈夫、大丈夫」
響は心配そうな顔をしていたが、俺はあまり気にしなかった。現実よりも夢の方が大事になってきていたから。
その日の夜も、俺は交差点に向かった。
相変わらずベンチには俺しかいない。でも、不思議と寂しくはなかった。いつか誰かが来てくれるという希望があるからかもしれない。
「今日は何をしようかな」
交差点から少し離れた場所に、小さなカフェを作ってみた。コーヒーの香りが漂って、心地よいBGMが流れている。
でも、やっぱり一人だ。
「はあ……」
ため息をつきながら、俺はまたベンチに戻った。
そのとき、ふとあることを思いついた。
「そうだ!現実のSNSで交差点の宣伝をすればいいんだ!」
明晰夢を見ることができる人なら、もしかしたら俺の作った交差点に来ることができるかもしれない。少なくとも、同じ場所を意識して夢を見れば、何かが起こるかもしれない。
「でも、どうやって来てもらえばいいんだろう?」
俺は交差点に来るための条件を考え始めた。明晰夢を見れること、交差点のイメージを共有すること、特定の時間に夢を見ること……
ある程度条件が決まってきたところで、夢から覚めた。もう朝だった。
「よし、これをSNSに投稿してみよう」
俺は学校に行く準備をしながら、頭の中で投稿内容を整理した。
学校につくと、いつものように響に挨拶をした。
「おはよう、夢路!」
「おはよう」
「今日も授業中寝るのかー?」響は苦笑いを浮かべながら聞いた。
「最近夢にハマってるんだよね」
「へー」響は軽く答えるだけだった。明晰夢なんて説明しても理解してもらえないだろうし、変に思われるかもしれない。
授業が始まっても、俺の頭の中は交差点のことでいっぱいだった。
「そうだ、SNSに投稿するんだった」
俺は思い出したかのようにスマホを取り出し、交差点に行く条件を書き出そうとした。でも、指が止まる。
「待てよ、リアルのアカウントで書いたら周りに変に思われるかな?」
クラスメートや響がこんな投稿を見たら、確実に「夢路、大丈夫?」って心配される。いや、下手したらヤバい奴だと思われるかもしれない。
「よし、新しいアカウントを作ろう」
俺は新しいアカウントを作成した。アカウント名は適当に「交差点管理人」にした。
そして、慎重に文章を考えながら投稿した。
『【夢の交差点へのご案内】
明晰夢を見ることができる方へ。
夢の中に「交差点」という場所を作りました。
一つのベンチと街灯があるだけのシンプルな空間です。
もし興味があれば、夢の中で「交差点に行きたい」と強く意識してみてください。
条件:
明晰夢を見ることができる
午前2時〜4時の間に眠りについている
交差点のイメージを頭に浮かべる(ベンチと街灯)
同じ夢を共有できるかは分かりませんが、実験として試してみませんか?
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