第二話: 夢への扉
一か月が過ぎた。
毎日、明晰夢を見るための練習を続けた。夢日記をつけて、リアリティチェックを習慣にして、瞑想も試した。最初は全然うまくいかなくて、普通の夢すら覚えていない日が続いた。
でも、諦めなかった。現実が退屈すぎて、明晰夢への憧れが日に日に強くなっていったからだ。
そして、ついにその日が来た。
「あれ……これ、夢だ」
夢の中で俺は学校の廊下に立っていた。でも何かがおかしい。廊下が異常に長くて、教室のドアが無限に続いている。現実にはありえない光景。
「やった!明晰夢だ!」
興奮して、俺は走り出した。そして勢いよく窓から飛び出す。
「うおおおお!」
空を飛んでいる。風を感じながら、雲の上を駆け抜ける。こんな感覚、現実では絶対に味わえない。
「街も作ってみよう!」
手を伸ばすと、何もない空間に建物が現れた。俺の理想の街。高いビル、きれいな川、緑豊かな公園。すべてが思い通りに――
「あっ」
目が覚めた。
「くそ、もう終わり?」
時計を見ると、まだ夜中の二時過ぎだった。興奮しすぎて目が覚めちゃったのか。
でも、嬉しかった。ついに明晰夢を見ることができたんだ。
「夢だと自覚すると起きちゃうのか……もう少し訓練が必要だな」
そう呟きながら、俺は再び眠りについた。
それからさらに一か月。
俺の明晰夢のスキルは格段に上がった。夢の中にとどまる時間も長くなったし、いろんなことができるようになった。
空を飛ぶのはお手の物。好きな場所を創り出すのも簡単。憧れていた芸能人と話すことだってできる。ゲームの世界に入り込んで、主人公になることもある。
現実では味わえない刺激的な毎日が、夢の中で待っている。
でも……
「なんか、一人だとつまらないな」
最近、そう思うようになった。
最初は理想を実現できて楽しかった。でも、思い通りに行きすぎるのも面白くない。すべてが自分の思考の産物だから、予想外の出来事が起こらないんだ。
サプライズがない。ドキドキがない。
「他の人と一緒に夢を見れたらいいのに」
でも、それは無理だ。夢は個人的なものだから。
……待てよ。
「他の人と出会える場所を、夢の中に作ったらどうだろう?」
突然、アイデアが浮かんだ。
もちろん、実際に他の人が来るわけじゃない。でも、そんな場所があると想像するだけで、何かが変わるかもしれない。
「よし、やってみよう」
その夜、俺は明晰夢の中で一つのベンチを作った。シンプルな木製のベンチ。周りには街灯が一つだけ。他には何もない、静かな空間。
「ここの名前は何にしよう?」
考えながら、俺はベンチに座った。
「他者と他者が出会う場所……交差点」
そうだ。人と人が出会う場所。いろんな人生が交わる場所。
「ここの名前は『交差点』にしよう」
俺は空に向かって宣言した。
「いつか誰かが来てくれるかもしれない」
そんな淡い期待を抱きながら、俺は夢の交差点で朝を待った。