先生…役?
「……で、誰?」
交差点の真ん中に突如現れた男を、夢路と響は警戒した。髪は無造作で、目元には余裕の笑み。
歳は俺たちより少し上だろうか。
「まぁまぁ、そんな怖い顔しないで。俺、敵じゃないから」
男は両手を上げ、軽い口調で笑った。
「俺はノクト。君たちに夢の世界のルールを教えに来た先生役、みたいなもんだ」
夢路と響は視線を交わし、警戒を解ききれないまま座る。
「まず、夢での理想について。ここでは自分の理想を現実化できるけど、一つ弱点がある」
「弱点?」と夢路。
「うん。理想は、一人でも『それ、違うんじゃない?』って否定されると崩れる。効果範囲は約五メートル。だから戦いでは工夫が必要になる」
ノクトは地面に小さな剣を作り出し、指先で触れただけで霧散させて見せた。
「理想って、脆いんだよね。でも一人一つだけ、他人の理想で壊れないものがある。それが――夢核。自分を決定づける何かさ」
「俺たちにもあるのか?」と響。
「ある。性格や過去の体験、理想……人によって理由はバラバラ。すぐ見つかる人もいれば、なかなか見つからない人もいる」
夢路は迷った末に尋ねる。
「じゃあ、ノクトの夢核は?」
「それは……今は見せられないかな。また今度ね」
立ち上がったノクトは「さ、ついてきな」と笑う。が、ふと立ち止まり、指を鳴らした。
「そうだ、その前に。今から行くところには、俺たちみたいに夢を共有してる奴らがいる。現実の姿や名前がバレると面倒だから……あだ名を決めよう」
君名前は?
「夢路」
「ゆめじかー」
「じゃあロジで」
「俺は響」
「リフだな」
ノクトが彩に視線を向けると、彼女は微笑んで首を振った。
「私は彩のままでいい。自分の名前、好きだから」
「おっけー、わかった」
「ついでに姿も変えろ。派手でも地味でもいい、現実の姿以外ならな」
三人の姿が光に包まれ、夢特有の変化を遂げた。
「よし。じゃあ行こう。これから案内するのは――集合的無意識みたいな場所だ」
ノクトが指を鳴らし、景色が歪む。
次の瞬間、和風の家や洋館、森や城、中華風の楼閣や学校がごちゃ混ぜになった街が広がっていた。光の粒が宙を漂う幻想的な空間だ。
「なんだこの場所」響は驚きながら景色を見渡す。
「ここは、いろんな人の理想や夢の風景が混ざり合ってできた場所。だから和風の家の隣に洋館があったり、学校のすぐ横に城が建ってたりする。そして、こんな風景を作っているのがこの光の粒たちさ」
「この光の粒はなんなの?」彩が聞く。
「ここに浮かぶ光は人の意識。それぞれの理想が微妙に違う。だからここでは理想を作ろうとすると、近くの光の意識と一致せず壊れる。だから――手元ぐらいしか具現化できないんだ」
夢路は試しに少し離れた場所に剣を作ろうとしたが、瞬時に霧散した。
「……本当だ」
「だろ? じゃ、次は――」
ノクトの笑みは、少しだけ不穏だった。




