第一話: 退屈な現実と忘れられた夢
朝の光が窓から差し込んで、俺の顔を容赦なく照らしている。スマホのアラームはとっくに止めたはずなのに、なぜかまだ鳴り続けているような気がして、枕の下を探る。
「……あー、だりぃ」
俺の名前は線崎夢路。夢路って書いて「ゆめじ」と読む。親がどんな思いでこんな名前をつけたのかは知らないけど、正直言って気に入ってない。だって俺、夢なんてないし。
高校一年生になって半年。毎日が同じことの繰り返しだ。起きて、学校行って、授業受けて、家帰って、スマホいじって、寝る。趣味?そんなものない。部活?面倒くさい。将来の夢?あるわけない。
でも、今朝は何かが違った。
「なんだろう、この感じ……」
胸の奥に、もやもやした感情がある。昨日の夜、夢を見たような気がするんだ。すごく印象的な夢を。でも、何も思い出せない。楽しかったのか、怖かったのか、悲しかったのか……何もかもが霧の向こう側だ。
ただ一つ確かなのは、その夢がすごく大切な何かだったような気がするということ。
「まあ、どうでもいいか」
そう言いながらも、頭の片隅に引っかかったまま、俺は学校の準備を始めた。
「おはよう、夢路!」
教室に入ると、隣の席から明るい声が飛んできた。幼馴染の反野響。こいつは俺とは正反対で、いつもニコニコしている。誰とでも仲良くなれる天才だ。
「おはよう、響」
「なんか今日、顔色悪くない?ちゃんと寝た?」
「寝たよ。むしろよく寝すぎたくらい」
「ふーん」響は首をかしげる。「でも何か変だよ。いつもよりぼーっとしてる」
さすが幼馴染。俺のことをよく見てる。でも、この胸のもやもやを説明できるわけがない。
「気のせいじゃない?」
「まあ、そうかもね」響は肩をすくめると、いつものように人懐っこい笑顔を浮かべた。「あ、そうそう。今度の文化祭の件なんだけど……」
響の話を聞きながら、俺は窓の外を眺めた。空は青くて、雲が流れている。普通の日常の風景。でも、なぜか物足りない。
この退屈な毎日に、何か変化が欲しい。
そんなことを考えていた。
学校から帰ると、いつものようにベッドに寝転んでスマホを取り出した。SNSを開いて、タイムラインをぼんやりと眺める。友達の投稿、芸能人のニュース、面白動画……どれも心に響かない。
「はあ……つまんね」
でも、指は勝手に画面をスクロールし続ける。もはや習慣だ。
そのとき、ふと今朝の夢のことが頭をよぎった。
「そういえば、夢って何なんだろう?」
興味本位で検索してみる。「夢 とは」。
検索結果がずらりと表示された。科学的な説明、スピリチュアルな解釈、心理学的な分析……いろいろあるんだな。
「レム睡眠中に見る……脳の記憶整理……願望の表れ……」
読んでいるうちに、一つのワードが目に留まった。
「明晰夢」
なんだこれ?クリックしてみる。
『明晰夢とは、夢を見ていることを自覚しながら見る夢のことである。明晰夢の状態では、夢の内容を意識的にコントロールすることができるとされている』
「えっ?」
俺は身を起こした。
『明晰夢をマスターすれば、夢の中で空を飛んだり、好きな場所に行ったり、会いたい人に会ったりすることができる。現実では不可能なことも、夢の中なら何でも可能だ』
「そんなの……最高じゃん!」
思わず声に出してしまった。現実が退屈なら、夢の中で楽しめばいい。なんで今まで気づかなかったんだろう。
俺は夢中になって明晰夢について調べ始めた。やり方、コツ、注意点……すべてを頭に叩き込んだ。
「よし、やってみよう」
その日から、俺の挑戦が始まった。