なんてことないデスゲーム
何かの何かで、テーマは殺してやるで物語を書いてくださいと言われたため、やってみました。
目が覚めると|英二《えいじは、とある公園にいた。
公園といっても遊具や人の気配はない。
あるのは月光と自身が寝そべっていた芝のみ。
どれくらい寝ていたのだろう。
体中が凝り固まっていたため、大きく伸びをして骨を鳴らす。
「ふぅ……、どこだよここ」
辺りを見回していると、突如としてポケットから着信音が鳴りだした。
英二は広い芝の上で、鳴り響く着信音を急いで止める。
けたたましい音は広場を取り囲む木々や、風に乗ってどこかへと消えてしまった。
英二は再びスマホへ視線を落とす。
――相手の懸賞金250万円。
少し視線を外しながら考える。
懸賞金?なんのことだ?捕まえるのか?それとも……。
首を大きく横に振ってから立ち上がる英二。
スマホをポケットに直して、また辺りを見回す。
するとさっきまでいなかったはずの女の子が遠くに立っていた。
骨ばった瘦せぎすの少女。
触角のようにほんの少しだけ飛び出たツインテール、ピンクのインナーカラー。パンツと白いキャミソールの少女は、着の身着のままやってきたようだ。
そして右手にはナイフ。
英二は固くなった唾をのむ。
つい後退ると、踵に何かが当たった。
ナイフだ。
急いでナイフを手に取り、英二は悪い予感が当たったのだと確信した。
殺されるなら、殺してやる!
「ま、待ってください!私、戦いたくないんです!」
少女の様子はさっきまで歴戦の猛者のように歩いていたが、一変し両手を挙げて降参する。
英二は自分もナイフを持っていることが、わかったからであると想定した。
「わ、わかった!俺は待つ!だからそれ以上近づくな!」
すでに彼女との距離は約一畳分くらいだろう。
そういうと、彼女は足をぴたりと止めた。
「よし、なら次はナイフを地面に置け!俺も置く!」
英二は低姿勢になって女の子の様子を伺う。しかし少女は立ち尽くして首を小さくかしげるだけだった。
「いやです。護身用です。襲われるかもしれないじゃないですか」
と断言した。その言葉は震えていて、まるでおびえているかのようだった。しかし、その立ち姿は落ち着きすぎている。
「そ、それなら俺も置けない!俺だって襲われるかもしれないじゃないか!」
「……」
「なぜ黙る!?」
少女はポケットからスマホを取り出した。
髪の色から想定できるような、マスコットの「どうやってポケットに入れていたんだ!?」と思うようなスマホケース。
操作を行うと、少女はにべもなく画面を見せてきた。
そこには「相手の懸賞金300万円」と書いてある。
「見たところおじさん、二十そこそこですよね?貯金なんて50万の人ばっかりなのに、こんな大金……何人殺したんですか?」
何を言っているのだろう。そう戸惑うのが普通なのだろう。
「お、俺は誰も殺してなんかいねぇ!てか、こ、殺したら上がるのか?」
しかし英二はこの時冴えていた。
きっと少女は、今の状況について理解をしている。
英二は慌てて自身のスマホを取り出した。そこには250万の数字。
その画面を見せながら、訴える。
「お、お前は何人殺したんだ!?」
少女はぽかんとした表情をしたのち、クスクスと笑い始めた。
「おじさん。スマホの充電切れちゃってますよ。」
画面を確認すると充電マークの表記。
そう言った後、彼女はその場で座り込んでしまった。
芝生に腰を落ち着けて、空を見上げ始める。
「なんか、拍子抜けしちゃいました。おじさん、ほんとに初めてなんですね」
「ああ!?だ、だから何が!?」
「この数は、殺した相手の懸賞金が上乗せされた、いわば総資産額なんです」
「つまり、250万のお前は4人くらいは殺してるってことかよ!?」
英二は力強くナイフを握りなおす。
「聞いて、私18歳なんです。最初の相手がおばあちゃんで、140万。二人目が彼氏、105万。あとはバイト代の5万円……。彼氏は私のために棄権してくれたんです。おばあちゃんにいたっては、ルールも知らずに私の前で首を……」
「棄権って、できるのか!?」
「お勧めしないです……。そもそも何もわからない今の状態。そんなことして、どうなるか……、想像もできないんですから」
じっと空を見つめ、説明する少女。英二は少しずつ同情し、ナイフの握る手を緩めた。
「そっか……」
英二は心を許しきれなかった。
けれど刃を向けてしまった罪悪感から、畳一枚の距離を保ちその場に座る。
これまで女性経験のなかった|英二《えいじには、下着姿の儚げな少女にはめっぽう弱かったのだろう。
「俺の300万は……」
自分が所持するお金は、証券口座含めても200万ほど。
「生命保険か?あれはたしか、」
スマホをつけようと取り出した瞬間、改めて充電切れになってしまった。
暗くなった画面には自分の顔と、背後にはナイフを持った少女の姿。
そこからは覚えていない。
運よくナイフへ気付き回避できた英二は、ひたすらにナイフを振るった。
目の前には腹が切り裂かれた少女。あと充電がないのに550万をしめすスマホだけ。
血は土に吸われたのか、意外と広がらなかった。
結果として充電忘れで助かった英二は皮肉っぽく笑った。
ほかの作品で、エタっているのもありますが、そのうち再開させるかも?
しないか