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第6話 王の豪運、そして、無欲の勝利

「#フレア画伯」――。

前回の配信で、己の芸術(という名の落書き)がファンの魂に刻まれたことに満足し、悦に入っていたフレアの元に、新たなリクエストが殺到していた。


『魔王様の神引きが見たい!』

『そろそろガチャ配信が見たいです!』


「ふん、良かろう」


フレアはふんぞり返って頷いた。

「我が芸術の深淵(しんえん)を理解した褒美だ。今日は特別に、我が幸運を貴様らに分け与えてやろうではないか!」


ファンサービスという名目で、フレアは満を持してガチャ配信を開始した。



「王たる我に引けぬものなし!我が欲するものは、世界の方から我にひれ伏し、やってくるのだ!」


配信が始まるやいなや、フレアは自らの勝利を疑わない、壮大な宣言を繰り広げる。


『†漆黒(しっこく)の考察者†:魔王様の御前では、確率など無意味…!』

『フラグびんびんで草』


最初の10連ガチャを引くと、画面が淡い光に包まれる。

「なんだ、この矮小(わいしょう)なる光は!出直してこい!」


フレアが吐き捨てた通り、結果は惨敗。

出てきたのは最低レアの雑魚キャラばかりだった。


「ふん、小手調べはこれまでだ。次こそは、我が威光(いこう)に恐れをなした本物の強者が現れるであろう!」


フレアは気を取り直し、再び10連ガチャを引く。

しかし、またしても画面を包んだのは、希望の欠片もない、くすんだ光だった。


現れた10体のキャラクターを睨みつけていたフレアは、やがて何かに気づき、不審そうに眉をひそめる。

「……待て。貴様ら」


フレアが指さした先には、粗末な棍棒を握りしめた、同じ顔のゴブリン兵士が5体、ずらりと並んでいた。

「なぜ同じ顔の者が5人もいるのだ?まさか分身の術か?」


フレアは一瞬考え込むような素振りを見せたが、すぐに不敵な笑みを浮かべると、高らかに宣言した。

「……ふん、なるほどな。貴様ら、よほど我が軍に仕えたいと見える」

「同じ顔、同じ魂でありながら、五つの肉体を持って馳せ参じるとは、その忠義、見事である!」


フレアは、慈悲深い声色を作って、続ける。

「よかろう!その忠義に免じ、貴様ら五人を『ゴブリン五兄弟』として、我が軍の特殊部隊に任じてやろう!励むがよい!」


ゲームシステム上の「キャラ被り」を、忠義の篤い五つ子として解釈し、勝手に部隊名を付けて任命してしまう。

そのあまりにも王様すぎる発想に、コメント欄は困惑と爆笑の渦に叩き込まれた。


『ゴブリン五兄弟www』

『特殊部隊爆誕www』

『そういうことじゃねえwww』

『でも魔王様の器、でっけえ…』

『限界突破のチャンス!』


その中の一つ、「限界突破」という言葉に、フレアはカチンと反応した。

「――限界だと?」


彼女は、心底侮辱されたという表情で、視聴者たちを画面越しに睨みつける。

「この我の兵に、限界などという言葉は存在せぬ!」

「そもそも、我が元に集うと決めた時点で、兵はみな無限の可能性を秘めているのだ!それを貴様ら、我が軍を侮辱するか!」


ゲームシステムへの的確なツッコミを、自軍への侮辱と解釈して本気で激怒する魔王。

ヴェルゼスが「(あるじ)よ、民草も悪気はないのでございます…それは『げーむ』の『しすてむ』なので…」と必死にフォローするが、フレアの怒りはしばらく収まらなかった。


そして、その後も結果は変わらない。

何度引いても、画面に虹色の光が灯ることはなかった。


ついに、フレアが最後の手段――課金に手を伸ばそうとした、その時。

机の引き出しから取り出された一枚のカードに、ヴェルゼスは血の気が引いた。


(あれは禁断の魔具…『くれじっとかーど』!我が軍の財政が!)


「主よ、おやめくだされ!破綻してしまいますぞ!」


その悲痛な叫びに、フレアはハッと我に返った。

そして、何かを悟ったように、不敵な笑みを浮かべる。


「……そうか。我は、根本を間違えていた」


『え?』

『どうした魔王様?』


フレアは、まるで世界の真理(しんり)に到達したかのように、尊大(そんだい)に宣言した。

「王とは、自らが幸運である必要はない」

「我が(しもべ)が幸運であり、その幸運を我に献上させればよいのだ。それこそが、王の器!」


そのあまりにも王様すぎる理論に、コメント欄は困惑と戦慄(せんりつ)に包まれた。



「――よかろう、ベルゼ!今宵は特別だ。このガチャを引く栄誉を、貴様に授ける!」


フレアはそう言うと、ヴェルゼス(ハムスター)をマウスの上にちょこんと乗せた。


『えええええ!?』

『代理ガチャwww』

『そんなのアリかよwww』


ヴェルゼスは「え、我でございますか…?」と困惑しながらも、主の命令には逆らえない。


「引け、ベルゼ!貴様の幸運、我に見せてみよ!」


促され、ヴェルゼスは小さな前足で、おそるおそるマウスの左クリックボタンを押し込んだ。

――カチッ。


なけなしの石で、最後の1回が回される。

その瞬間だった。


今まで見たこともない、眩い虹色の光が画面を包み込む。

そして、狙っていた最高レアの限定キャラクターが、美しいボイスと共に画面に降臨した。


しばしの沈黙。

コメント欄が、爆発的な勢いで流れ始める。


『マジかよ!?』

『腹心、強運すぎるwww』

『本当に引きやがった…!』


フレアは、その結果を見て満足げに、そしてさも当然であるかのように言い放った。

「ふん、見事だベルゼ。貴様の幸運、確かに我が受け取った。褒めてつかわす」


彼女は、自分が引けなかったことへの悔しさなど微塵も見せず、「臣下の幸運は、すなわち我が幸運である」という絶対的な王の理論で、完璧に勝利宣言をしたのだ。

その圧倒的な器の大きさと、斜め上の思考回路に、視聴者はもはや心酔するしかなかった。


『そういうことか…!』

『自分の運が悪いなら、運のいい部下に引かせればいい…天才の発想だ…』

『これが王の豪運…格が違いすぎる…』


この日、(かがり)フレアは、臣下の幸運さえも自らの威光に変えてしまうという、真の「王」の器を示し、その伝説に新たな1ページを刻んだのだった。

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