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第11話 真の光、そして、宣戦布告

純白の壁紙に、ミニマルな家具。

塵一つない、完璧に整頓された一室。


聖告のアリアもとい白鐘アリアは配信を終え、そっとヘッドホンを外した。

モニターには、「ありがとう」「救われました」というコメントが並んでいる。

その一つ一つに丁寧に「いいね」を返していく作業は、彼女にとって心を落ち着かせるための、大切な儀式だった。


「…こちらこそ、ありがとうございました」


誰に言うでもなく呟き、彼女は深く息を吐く。

目を閉じると、遠い過去、後悔の記憶が不意に脳裏をよぎる。

何か大切なものを守れなかった、という感覚。


アリアは小さく頭を振り、その不快な感傷を追い払った。

(過去は振り返らない。今、目の前の人を癒すことだけを考える)


そう自分に言い聞かせ、彼女はランキングサイトへと画面を切り替えた。

「敵情視察」――マネージャーから勧められた、競合Vtuberの分析。

ランキングをスクロールする指が、ある一点で止まった。


【魔王フレア:歌ってみた『赫焉(かくえん)の凱歌』】


魔王、という禍々しい単語と、急上昇を示す赤い矢印。

興味本位で再生ボタンを押した瞬間、アリアの背筋に、氷のようなものが走った。


――魂が、歌っている。


それは、少女の声と、荘厳な王の声が重なり合った、神々しくも冒涜的な二重音声デュエット

荒々しく、不遜で、あまりにも混沌とした魂の輝き。


アリアは、本能が警鐘を鳴らすのを感じた。

(違う…! こんな力は、間違っている…!)


それは、前世で幾度となく対峙した、秩序を破壊する者の音。

全てを飲み込み、塗りつぶす、圧倒的な混沌の響き。


「この存在は…私の、いえ、この世界の癒しの秩序を、乱す…!」


気づけば、彼女はフレアのチャンネルページを開き、「配信中」の赤い文字をクリックしていた。



「――ふん、今日のところはこれくらいにしておいてやろう。我の金言(きんげん)、魂に刻みつけておくがよい!」


フレアがいつものように雑談配信を締めくくろうとした、その時だった。

画面に、ひときわ異彩を放つ、高額のスーパーチャットが表示された。


その額もさることながら、フレアの瞳が捉えたのは、その送り主の名前だった。


【聖告のアリア】


その文字を見た瞬間、フレアの魂の奥底で、何かがギリッと軋むような音がした。

画面越しに伝わってくる、圧倒的なまでの『光』の圧。

それは、彼女が最も忌み嫌う、全てを一方的に塗りつぶし、異論を許さない、独善的な輝き。

魂が本能的に拒絶反応を示している。


「……この女」


フレアが忌々しげに呟きながら、メッセージに目を落とす。


【魔王を名乗る方。その力は、人々を傷つけ、惑わすためのものではありません。どうか、その道を悔い改め、(まこと)の光に目覚めてください】


「――やはりか」


フレアの口元から、笑みが消える。

代わりに宿ったのは、絶対君主としての、冷たい怒りだった。

魂から感じ取った印象と、押し付けがましい言葉が、彼女の逆鱗に触れたのだ。


「――何様だ、貴様」


地を這うような低い声に、コメント欄の空気が凍りつく。


「我が覇道に、口を挟むというか。我の民を『惑わす』と断じるか。よかろう。そこまで言うのなら、見せてみよ」


フレアは、画面の向こうにいるアリアの魂を、真っ直ぐに見据えるように言い放った。


「貴様の言う、その『光』とやらをな!!」


それは、あまりにも劇的な、魔王から聖女への宣戦布告だった。



ボロアパートの一室。

机の隅で、ヴェルゼスは主君と聖女の衝突を、固唾をのんで見守っていた。


(やはり、こうなったか…!)


光と闇、秩序と混沌。

二つの対極な魂が、この狭いデジタル世界で出会ってしまった。

それは、必然の衝突。


だが、ヴェルゼスの警戒は、それだけではなかった。

聖告のアリア。

彼女の所属は、あの大手事務所『セブンスセオリー』。

そして、その事務所を率いる若きCEOは、今、この業界で最も注目されている男。


(あるじ)よ、これは罠やもしれませぬ!』


ヴェルゼスが即座に警告を送る。

だが、すでに燃え上がった魔王に、その声は届かない。


彼は、これから始まるであろう嵐を予感し、小さな体を震わせた。


(来たか…。(あるじ)とは決して相容れぬ、世界の対極に立つ者との衝突)


忠臣の瞳には、画面に映る聖女といきり立つ主君、そして今後の未来を見据えていた。

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