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第67話 わたしに魅了された? と、JKは。



正直、中学高校の頃、この手のタイプは得意じゃなかったのだ。

なんというか、つい気後れしてしまう。


ひかりとは、真逆のタイプと言ってもいい。

ひかりのそれが無意識に行われている自然なものだとすれば、こちらは作りあげられた人工のものとでも言おうか。


どうすれば人の気を引けるかを学んで実践している、みたいな。

身に着けているものだけではなく、振る舞いからもなんとなく、そんなふうに感じてしまう。


「これ! ほんと、どうしようもなくてさぁ。200点中80点。やばいですよね」


彼女が取り出してきたのは、実力テストの問題用紙だ。

それを何ページかめくり、くるくる指を回してさすのは、大問丸ごと一個だ。


その問はすでに、解かれた形跡がある。

要所要所の単語に、日本語訳が書き記されており、下線なども引かれている。


それだけで、なにが言いたいかは分かった。


「問題解くのが間に合わない……って、そういう感じか?」

「そうなの、もうイミフなの。これ十五分で解く問題じゃなくない? 無理無理」


と、彼女は言いながら、次のページをめくる。

そこに記されていた設問のページは、半分くらいが白い。


これは、俺も受験勉強のはじめにうち当たった壁だ。

対処法を伝えることはできる。


俺はノートに「This is a pen」と書き記した。


「どういう意味だ?」

「え、なに急に。これはペンです、でしょ。馬鹿にしてます?」

「してない。でもさ、わざわざ訳さなくても、意味分かっただろ?」

「まぁたしかに、そうだけど」

「それと同じように、いちいち訳さなくても理解できるように練習するんだよ」


俺はそこで、問題用紙の表紙を見せる。


「試験の注意事項、ちょっと読んでみてくれ」


と言えば、数秒後にはもう、


「読んだけど?」


彼女はこう言う。

それからすぐ、「あ」と声を上げた。


「わたし今、なんていうか飛ばし読みしてたかも。もしかして、そういうこと? これを英語でもやればいい? 次の文章って、だいたいこんなこと書いてるかなって予測して読むみたいな」

「……あぁ、イメージはそうだな」


その理解の速さには正直、驚かされた。

説明せずとも勝手に俺の意図を汲みとったのだ。


テストの点数は、4割と決してよくはないが、どうやら地頭はかなりいいらしい。

彼女はさっそくそれを実践しようと、大問へと戻り、そこに記されていた日本語訳を全て消す。


はじめは雑談しに来たのかという爆弾トークだったが、このあたりを言わずともやるあたり、学習意欲はあるらしい。

彼女は自主的に読み始めて少し、「うわ」という一言を漏らす。


「なにかあったか?」

「いや、野上さん頭良すぎでしょと思って。ほんとにわりと早く読めるから。でもまー、単語がまるで分からないと無理だけど……これなんだっけ」


と、彼女が指した単語は『fascinating』だ。


「魅力的な、って意味だな」

「なるほど……。まぁつまり私のことかー」


まったく脈絡のない唐突なボケ、もしくは自慢であった。

これには、どう反応すればいいか分からなくなる。


後から、「そういうこと!」とか言って、発言に乗っておけばよかったと思うが、遅れてからでは言い出せない。


「えーっと……『ファスナー締めると、魅力的』って覚えてたな」


そこで、苦し紛れに俺なりの単語の覚え方を口にしてみたのだが、これが失敗だったらしい。


目をぱちぱち瞬かせて、千種は首を傾げる。


「どういうこと? なんでファスナー?」

「あーいや、その……。なんとなく、そう読めるだろ、この単語。変な語呂作って、勝手に覚えてたんだ」

「はぁ、なるほど?」


説明してもなお、理解されることはなかった。

……そういえばこの単語の覚え方も、変わっていると友人に言われていたものだっけ。


さっき笑われたばかりだ。ここもそうなるかと思ったのだけれど、


「あ、待って。わりと、ありかも。『ファスナー締める』は魅力的!」


千種は筆箱のファスナーを開けたり閉めたりして音を立てつつ、言う。


「意味は分からないけど、だからこそ頭に残るかも。こうやって、なんか変な語呂作ったらもう忘れない気がする。やるじゃん、野上さん。ううん、野上先生って呼んだほうがいいかな?」


それからほんの軽く、俺の方を振り向き、こちらに微笑んでみせた。

まさか褒められるとは思っていなかったから、俺はばっちり面食らう。


「お、なになに。わたしにfascinatingされました?」


そこへ、こんなことを言い出すから否定しようと口を開きかけた時のことだ。


机の上にぬっと、影が落ちてきた。

なにかと思って後ろを振り返ってみると、びっくり。


そこには、鬼の化身――ではなくて。

目一杯に目角を尖らせ、しかめ面を作ったひかりが、覗き込んできていたのだ。



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