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第47話 プラネタリウムはソファ席?




そんな事態に見舞われているうち、時刻はプラネタリウムの予約時間になっていた。

時間の少し前、会場にたどり着く。

そこで起きたのは、全く予期していなかった展開だ。会場内に入り、予約していた席にたどり着いたところで俺は唖然とする。


「……なんだよ。ソファ寝転び席って、初めて聞いたわ、そんなの」


周囲には、普通の席もあった。

しかし、青葉が予約を取っていた席は雲の形をした特殊なソファ席だ。


そのサイズはかなり大きくて、しかも枕も付いているのだから、ソファというより、もはやベッドだ。

数席限定の特殊なシートらしく、周りを見渡せば、カップルたちがこぞって、同じ席を利用している。


……運がいいんだか、悪いんだか。

今日はどうやら、とにかくカップルに縁がある日らしい、困ったことに。


「あはは、なったものはしょうがない。それに今はいつ会うかもわからないから、カップルのふりしなきゃだしね。私も予約の時、よく見ておけばよかったなぁ」


俺が戸惑うのとは反対に、青葉はすでに受け入れていた。

足先をこすり合わせて、靴を脱ぐと、「ん」と短い声をあげつつ、ソファの上へとのぼる。


四つん這いの後ろ姿をまじまじと見るのは、なんだか背徳的だ。

俺は俯き目を逸らそうとするのだが、今度は、薄くなった靴下の先なんかに目がいってしまうのだから困った。


俺は目を瞑り、一つため息をつく。


「ほら、おいで」


声を掛けられて目を開ければ、そこには四つん這いのまま、俺の手を引こうとする青葉の姿だ。

可愛い、そして、なんとなく危ない。


とくに胸元。今にも零れだしそうな雰囲気すらあって、薄暗い会場のなかでも、男どもからの視線を集めている気がする、たぶん。


横のソファ席にいたカップルなんて、


「今、あのショートの子見てたでしょ。他の人見るなんて最低」

「は、ちょ、違うって」


こんな喧嘩をしはじめる始末だ。

これがまた上手い具合に、見えそうで見えないのだ。


美少女はその存在だけで、人間関係のバランスを崩してしまうらしい。うん、怖いね。


とにかく一刻も早く、この体勢をやめさせなければ、ならない。

あまりにも刺激が強すぎる。


俺は青葉の手を借りずに、急ぎソファへとのぼった。


「もう手握ったんだから、これくらい取ってくれてもよかったのに」

「……いいから、大人しく寝転んどけって」


俺はそう言いながらにして、身体を横たえる。

枕を首の下まで手繰り寄せて、まだ星の投影されない、ただ暗い天井をただただ見あげることとした。


同じ場所で寝ている。そんなことは考えないようにしよう。

俺はそう決めて、意識して呼吸を落ち着けようとする。身体から力を抜いて、ただここにいればいい。

そうして、上映が始まれば、星に意識を向ければ済むはずだ。

だから今だけ乗り越えればいい。


「ねぇ」


……そんなささやかな努力はしかし、実を結ばなかった。


耳元で話しかけられて、俺はつい過剰に反応してしまう。

自分でも分かるくらいぎこちない動きで青葉の方を見れば、彼女はこちらを向いて、その玉のような瞳で俺を見てくる。


今日はすでに色々と暴走している青葉のことだ。

今度はなにを言い出すのだろう、俺は少し警戒して、その瞳から情報を探ろうとする。


その輝きは暗いなかでも褪せていなかった。

なんなら、いっそう輝きが強くなってすら見える。


俺がそれに気取られること少し、彼女は目をぱちぱちと瞬き、そののち天井を見上げた。


「なにか見えるの? 真剣に見てたけど。もしかして、もうはじまってる? 私の目が悪いの?」

「いや、そうじゃないと思う」


やっぱり青葉は青葉だ。

暴走するとかしないとか関係なく、とにかく天然でこれなのかもしれない。


そう思えば少しだけ、気が楽になった。

といってもまぁ、顔を合わせて喋るのはどうしてもできなかったのだが。


だから、極力目を合わさないようにして会話をする。

そのうちにやっとプログラムが始まって俺はほっと息をついた。


その内容は、春の夜空に見える星の話……だけではなく、「恋愛」がテーマに設定されていたらしく、それぞれの星々にまつわる過去の偉人らによる愛や恋の物語が語られる。


要するに、カップル向けの内容だったのだ。

正直に言えば、気まずいことこのうえない。


青葉はどう思っているのだろう。

俺はちらりと横目に、彼女の方を窺う。


すると、どうだ。

完全に眠り込んでいるではないか。それも身体を丸めて、浅い息をすやすやと立てている。

あれだけ楽しみにしていたことを思えば、起こさないわけにもいかない。肩口を軽く揺すってみるけれど、むにゃむにゃ言うだけだ。


「おほしさま~」


ついでに、こんな子供じみた寝言も。


俺は起こすのを諦めて、手を止める。


もしかすると、青葉は疲れ切っていたのかもしれない。

ここへ来るまでずっと、恋人のフリをしてきたのだ。

俺だって大概、疲労感に襲われていた。


少しくらい眠ってもいいかもしれない。

そう思ったら、眠気は一気に襲い掛かってきた。


次にはっと気づいたときには、さっきまでは投影された星以外は真っ暗だった空間が明るくなっている。


「うわ、見て。あの二人。大胆じゃね?」


……しかも、だ。

なんだか下半身が熱いと思ったら、寝相のよくない青葉は俺の腰にしがみつくような体勢になっている。

そのせい、会場を後にしていく客からは好奇の目が向けられていた。


「あんた、また見てたでしょ」

「ちょ、違うんだって」


そして、また喧嘩の種ともなっていた。

俺は慌てて飛び起きて、青葉の肩を今度は強く揺する。


「ん、なに?」


すると、やっと目を覚ました彼女は目元を手でこすったのち、ぱちぱちと瞼をまたたかせる。

明るくなっていることに驚いたのだろう、がばり上半身を起こすと顔を青ざめさせた。


「……もしかして、これ」

「終わったみたいだな、わりと前に」

「うそぉ! 十二星座の紹介までは起きてたのに」

「それ、めっちゃ序盤だぞー、ちなみに」

「あぁ、もったいないことしたぁ~!」


青葉は心底残念そうに頭を抱える。

その体勢のまま、ちらりと横目をこちらに流してきた。


「このままもう一回見ちゃおっか」

「……ダメに決まってるだろ」



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