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作者: 紫音

その男、いつも身長が伸びないか悩んでいた。悩みすぎてハゲが出来る程であった。

そのハゲを見せまいと帽子を被ると蒸れる為、更にハゲるぞと人伝に聞いたので止めた。

ハゲを隠すためにも身長が伸びないかなと更に悩むのでハゲはずっと治らずにいた。


低身長でハゲ。それで悩んでるものだからまったくもって陰気な容姿は更に陰気に見えた。


背が高くなりたい。


一心不乱に背を高くするための努力をした。

滝に打たれた。滝の勢いで毛髪が抜けるので止めた。

煮干しや牛乳を食べて飲んだ。

それだけ食べるものだから栄養失調となり入院。ベッドに寝ているだけだと適度な運動が出来なくなり血行が促進されず更にハゲた。

思い悩む日々。

しかし、そんな男を愛する女が現れた。

ハゲでもチビでも良い。頑張るその背中が私を元気づける。どうか結婚してほしい。

男は悩んだ。しかし、こんな俺でもそうして側に居てくれる。

男は決心し、その女と結婚することにした。

結婚生活はそれは充実した日々を男に与えた。

毎日飯は旨い。栄養失調から今度は栄養過多となり運動を心がけるようになった。血行が促進されあれよあれよと男の頭はふさふさになった。頑張る姿を嫁に見てほしいと滝行も行い、男は精神的にバッキバキの頼れる存在となった。嫁はそんなバッキバキの精神の男を深く愛した。

男は嫁の愛情に答えるために、良い男でありたいと強く思った。

嫁の作るご飯とは別に、煮干しや牛乳を食べて飲んだ。すると今度は身長が伸び始めた。

150台だったのが160台後半まで伸びた。男の年齢は40台。平均身長を越えるまでになった。男は更に高みを目指した。嫁の褒め称える姿が見たくて頑張った。しかし、身長はそこで止まってしまった。その代わり体重が増えた。毎日骨に良いものばかり食べるものだから骨が丈夫になっていったのだった。


ある日、男がベッドから起き立ち上がると、足がベッドを突き刺した。寝ている間に骨が足裏から飛び出したのである。しかし、丈夫な身体と骨は、痛くも何ともない。ベッドから床に着地すると、骨が床を貫通した。

ズボッズボッと歩く男の姿に、嫁は少々ドン引きした。

明くる日、骨は更に伸びていた。

2階の男の自室は穴だらけになり、更に骨は2階の床を貫通し、1階の天井を突き破って出てきた。

その現象に嫁は嫌気がさしていた。

明くる日、骨は止まることを知らなかった。起きようとすると、部屋のクローゼットの扉に足裏から飛び出た骨が突き刺さっている。足を動かせば動かすほどクローゼットの扉がギッタンバッタンと開け締めした。遂にバキバキッと音を立てて扉は足裏から飛び出た骨に突き刺さったまま壊れた。穴だらけの床を歩くには便利ではあったが、扉がくっついたままでは外出も素足でしか移動できなくなった。仕方なく扉を壊して足裏から飛び出た骨から外すことを思い付いた男は、嫁にハンマーを持ってこさせ、思い切りぶっ叩いてもらった。扉は足裏から飛び出た骨から外れた。男は少し安心したが、嫁は狂ったように扉をハンマーでぶち壊し、家を出ていった。

男はベッドで寝れなくなり、立ったまま寝ることにした。


明くる日。

更に骨は飛び出て、男は首をかしげなければ天井に頭をぶつける程になっていた。足裏から飛び出た骨を身長に直すと、ゆうに3メートルは越えていた。

まるで大きな竹馬に乗ってるようなその姿では、外出もままならない。かといって家の中に居ても、歩けば床を貫通し、膝立ちで移動しようにも、足裏から飛び出た骨がそこらの家具や壁に辺り、たちまち部屋は傷だらけになっていった。

家を捨て、男は街に繰り出した。

すると不思議なことが起こった。家の中では高い身長に悩まされたが、街ではその身長は色々な高所作業に使えると言って電信柱の電球取り替えや信号機の取り替え作業に重宝された。


明くる日。

男は足を伸ばせる砂浜でキャンプを張っていた。上半身は元のままで、足裏から飛び出た骨だけが海岸に2本並んでいた。異様な光景だった。

テントを出ようとするが、もはや普通に立つことすらままならなかった。男は堤防に手をつき、ようやく立ち上がった。その時、砂浜に突き立てられた足裏から飛び出た骨は、砂浜の奥深くに埋まってしまった。助けを求める男に近づく人々。しかし、まったく理解できない事態に困惑するだけだった。砂浜には男の足は出ている。しかし、埋まってしまったと身動きがとれない男の様子は滑稽そのものだった。

ようやく事態を理解した周りの人間は、救助隊を呼んだ。はしご車が何台も現れ男の周りを取り囲んだ。男をロープで固定し、はしご車をぐんぐん伸ばしていくと、ようやく男の足裏から飛び出た骨は地上へと上がってきた。上がった足を男は砂浜から脱出させようと近くのアスファルトの上に足裏から飛び出た骨を置く。するとアスファルトを突き破りまた埋まってしまった。

次はコンクリートの上に着地するようにと声がかけられ、再度はしご車がぐんぐん梯子を伸ばす。ようやく足裏から飛び出た骨が地上に出てきたので指示通りコンクリートの上に足裏から飛び出た骨を置く。ミシミシとコンクリートが鳴るが、何とか立ち上がることに成功した。男は10メートルをゆうに越える竹馬に乗る男のようになっていた。


明くる日。

もはや雨や雪など頭には降らない。何故なら男の頭は雲の上に位置していた。下の様子が分からないので身動きもとれずにいた。そこに1機の外国の飛行機が現れた。男は助けを求めた。しかし、飛行機は逃げるように男の目の前を過ぎていった。


明くる日。

ニューヨークの新聞の一面に、雲の上を歩く男として、男の様子が写真で掲載された。その写真には、男は確かに雲の上に乗っているように見えた。しかし、男は足裏から飛び出た骨の上に乗っているだけで、雲の上を歩いているわけではない。


明くる日。

男の様子が写し出されたのは国際宇宙ステーションのカメラからだった。

地球の上を歩く男として紹介された新聞は飛ぶように売れた。


1年後。男は地上に降りていた。

身動きはとれず、ハゲていた。

男の足裏から飛び出た骨は、地下を突き破り、火星に突き刺さっていた。


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― 新着の感想 ―
最後に「火星!?」てなった。 シュールレアリスムを超えたシュールレアリスム短編だ。
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