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8. Re: VSチンピラ



「どもども。ミナっちは久しぶりだね、元気にしてた? いやあ、相変わらず眉間にシワがよってるねぇ」


 はははと乾いた声を出しながら、伊澤 イタチと呼ばれた少女はこちらに向けて手を振ってくる。


「で、キミが新入部員クンかな? いやあ初めまして、ボクのことは気軽にイタチちゃんって呼んでねー」

「イタチさん、こいつっす。この間オレとやり合ったの」

「そっかぁ。ま、予想通りかな。キミたち女子ばっかだから厄介な勢力がまあた増えたのかと思ったけどね」


 目を離した隙にいつの間にかイタチの隣にチンピラが立っていた。


「知里真、あいつを知ってるのか?」

「敵よ」

「それはわかる。もっと詳しく教えてくれ」

「奇跡の会のメンバー。これでどんな相手かわかるでしょ?」

「ああ、あれが……」


 奇跡の会。

 俺が入部した日に教えられた、異能を持つ集団で形成された組織。人を殺すことで生命力を得て、異能を更に強力のものにしようとしている組織、だったか。


「この間はこの子を可愛がってくれたみたいだね?」

「そっちから仕掛けてきたそうだけど?」

「ふーん……? それならごめんね。じゃ、話は終わりってことで。今ボクらを囲んでる異能を解除してくれるかな?」


 何かを見定めるように目を細めたイタチだったが、すぐさま何事も無かったかのように飄々とした笑みを浮かべそう提案してきた。

 しかし、知里真はその提案に首を横に振り、一歩前に出る。

 

「終わってないわ。あんたたちには聞きたいことがあるの」

「ボクらは何も無いんだけどなぁ」


 睨み合う両者。

 先に仕掛けたのは知里真の方だった。


「『制限解除』」


 地面を砕き空を舞う。


「うっそぉ……」


 思わず声が出てしまったのも仕方がないだろう。彼女は五階以上の高さのある屋上に居座るイタチに殴りかかった。


「『水遁』」


 イタチは不意に懐からペットボトルを取り出し、投げ捨てる。すると中の水が動き出し容器を壊して飛び出した。

 水は飛来してくる知里真を捉え、拳を象り殴りつけた。


「ちっ……ちょっとあんた! ぼーっとしてないで手伝いなさい!」

「はいはい。……『テレポート』」


 近くの車に触れ、知里真の足下に送り出す。


「もう一回! 『制限解除』っ」


 車を踏みつけ、再び空を駆ける。

 さて、そろそろ俺も――、


「――『テレポート』」


 少し離れた位置へと移動する。


「クソが! まぁた逃がしちまった」

「幻影だって言ったろ?」


 不意打ちが決まらず悔しそうに歯を鳴らすチンピラに、懇切丁寧に教えてやる。


「てめぇの異能は幻覚じゃねぇ、転移だろ。この嘘つきが」


 さすがにこれ以上騙すのは無理があるか。さっきの車を飛ばした力を見られた以上、仕方がないが。


「そういうあんたの異能は爆破だろ? それも、手で触れないといけないって制約のある」

「なっ……んで、てめぇがその事を知ってやがる」

「教えてやらねーよ」


 手で触れなければ異能は発動しない。容易に距離を取れる俺としては都合のいい制約だ。


「ならよぉ……これは知ってんのかっ、『爆破』!」


 チンピラが触れた地面を起点として、俺がいる方向に爆発が連鎖している。


「『テレポート』!」


 俺は瞬時に転移魔法を発動し、地面に触れてない空中へと逃れる。だが、


「おいおい、そこも危険だぜぇクソ野郎!」

「何を――」


 地面が壊されたことにより舞い上がった破片が、赤く明滅した。


「『テレポー――」


 視界が暗転する。


「まっ……にあった」


 直撃は免れたようだ。

 体の節々は痛いが動けないほどではない。


「仕留めたと思ったんだがなぁ」

「あの程度で死ぬかよ、チンピラが」


 異能の効果範囲の拡張か。どこまでが範囲なのかも分からない以上、中途半端に距離をとるのも危険だ。知里真に援護を頼みたいが、あっちもあっちで手こずってやがる。


「ああもう! 近づけない!」

「なかなか粘るねー。ちゃちゃっと終わらせる予定だったんだけどなぁ」


 何度も飛び掛るものの、拳が届く前に撃ち落とされている。このままではジリ貧だな。


「なんで奇跡の会なんて胡散臭い連中とつるんでるんだ」


 取り敢えず息をつく暇が欲しい。ダメ元で声をかけてみる。


「ああ? んなもん、もっと強ぇ力が欲しいからに決まってんだろ。一人でやるより効率がいいし、異能の使い方のノウハウもある」


 てっきり何となくといった理由だろうと決めつけていたせいか、ちゃんとした考えに少しばかり驚いた。


「強い力なんて要らないだろ。そんなものより、普通の生活の方が価値があると俺は思うぞ」


 傷つく心配も、誰かが死ぬ不幸もない普通の生活。俺にとってそれは強力な力よりも価値のある特別なもので。


「何言ってんだ。こんな力を持っちまったんなら、普通の生活に戻れるわけねぇだろ」

「…………そうだな」

 

 もう二度と手にすることの無い夢の中の存在だった。


「それによ、この力を持ってるくせに平穏な日常に戻りたいってのも薄情な話だろうがよ」

「……ん? ちょっと待て。それってどういう――」


 違和感。俺とこいつとではどこか、前提条件にズレがあるように感じる。それを問い質そうと口を開いたが、


「ねぇねぇ! 犬飼クン! ちょーっとこっち手伝ってくんない? この子、結構しぶとくってさぁ!」

「あんたいつまでそんなやつ相手にしてんの! さっさと終わらせなさい!」


 救助要請によりかき消されてしまった。


「うっせぇなぁ。つーわけだ、クソ野郎。精々死なないよう歯ァ食いしばれよ」


 地面が爆破し、またしてもその爆破は俺に向かって続いている。だが、この攻撃は本命では無い。さすがのあいつでも、同じ攻撃で仕留められるとは思っていないだろう。

 ならば――、


「あ、おい! 逃げやがった!」


 俺はやつに背中を向け、全速力で走り出す。

 転移魔法は使わない。使わずに、背後から来る爆発から逃れるように駆ける。そして、ギリギリのところで建物の中に逃げ込んだ。――屋上にイタチがいる建物に。


 この建物を壊す訳にはいかないことは理解しているらしく、俺がここに逃げ込むと同時に爆発が止んだ。


「ここに逃げたらオレが異能を使えねぇとでも思ってんのか?」

「『テレポート』」


 転移魔法でチンピラの懐に潜り込み、みぞおちに向けて拳を突き立てる。


「がぁっ。……てめぇ! 『爆破』っっ」


 やつは歯を食いしばり、接近してきた俺に向けて腕を振るうと爆発を巻き起こした。


「はんっ! 爆破の規模の調整ぐらいできるんだよ! ――あ?」


 やつの顔が訝しむように歪んだ瞬間、拳が叩き込まれる。


「が……っ」


 顔を殴られ怯んだ一瞬、再び拳を振り下ろす。何度も何度も繰り返す。痛みが麻痺してきた頃になって、俺を引き離そうと腕が伸びてくる。それを触れられる前に叩き折る。チンピラが意識を失うまで、殴るのを辞めない。


 服に血が飛び散った頃になって手を止める。

 これで十分だろう。死んではいないはずだが、戦闘不能にはなった。


「あとは――」



 ☆ ☆ ☆



「『テレポート』」


 気配を消したつもりだったが、勘づかれたようで移動した途端に彼女は振り返ってきた。


「やっほ。どうやら犬飼クンは負けたみたいだねー」

「ああ。下の階で伸びてるぞ」

「そっそっかありがと。『水遁』」


 ペットボトルを新たに自身の前に放り投げると、その中の水も動き出し今まで操っていた水と合流する。


「ふふんっ。この異能、操れる量に制限は無いんだ」

「みたいだな」


 だが、


「稲福! 任せたわよ!」


 二対一になった時点で勝敗は決まっている。


「『テレポート』」


 イタチの姿が視界から消える。その代わりに、イタチが立っていた場所にはロッカーが出現した。それと同時に空中で蠢いていた水が力を失い崩れ落ちていく。


 今のところ、何の制限のない異能を見たことがない。これまでの立ち回りを思い出し、視界の中にある水しか操れないのではないかと予想し、視界を奪った。

 そして、その予想は見事に的中したらしい。あとは彼女が終わらせてくれる。


「『制っ限……解除』ぉ!!」


 身を屈ませて弾丸のように飛んできた彼女は、勢いをそのままにロッカーを貫いた。

 ……これ死んだのでは。

 ロッカーは吹き飛び、屋上から地面に落ちていった。


「ちっ、防がれた!」

「え、吹き飛んでいったが……」

「何言ってんのよ、あんた。あれぐらいであいつがやられるわけないじゃない」


 なんだその信頼感は。

 奇襲を警戒して周囲を見回すが、彼女が襲ってくる気配は無い。


「とりあえずどうなっているか見てみるわ」

「そうね」


 確認しようと屋上の端に向かう俺についてくる知里真。念の為見ないように制止すべきかと迷ったが、俺の口から何か言葉が出てくるようなことは無かった。


「……ん? ロッカーの中、パッと見たところ空だな」

「あ、あれ。何か出てきたわよ」


 そう言って指を指した先はロッカーではなくこの建物の裏口。そこから、何かを引っ張りながら出てくる人影があった。


「……あ、見つかっちゃった」

「ちょっとあんた! 逃げる気!?」

「いやー、ちょっち分が悪そうだからねぇ。それよりもさ、キミのとこの新入部員どうなってるのさ。さすがのボクもドン引きなんだけど」

「うわっ」


 引きずっていたのはあのチンピラだったらしい。遠目からも見える青く腫れ上がった顔を見て、知里真は口を引き攣らせた。


「え、なにあれ……、やり過ぎじゃない?」

「殺す気でやり合ったならああなるだろ。死なない程度には手加減はしたぞ」

「いや、殺す気ではやってないはずだけど。というかあれで手加減したんだ。えぇ……」

「……ちょっと待て。何か、俺とあんたとの間で致命的な認識のズレを感じるのだが……」


 違和感を問い詰めようとしたその時、空間に歪みが生じた。そうして壊れた地面が、地面に転がっているロッカーがすべて元通りに戻っていく。チンピラも気を失っているが、怪我は何もなかったかのように消えていく。


「今回はここまでだね。じゃ、またね。次はキミたちがボクらの仲間として顔を合わせられる事を祈っておくよ」


 ひらひらと手を振りながら、人混みの中へと消えていく少女。男一人引きずっていることから、追いかけようと思えば簡単に追跡できるはずだが、俺たちはそれを選択しなかった。


「バレないように下に降りるわよ。それと、部長とスイの安否も確認しなきゃだし」

「……そうだな」


 知里真はともかく、俺は転移魔法を使えば誰かに見つかる心配もない。

 そんなことを考えながら、彼女の隣に並んで歩く。


「そういえば、」

「ん、なによ」

「あんた、俺の名前覚えていたんだな」

「は? 馬鹿にしてんの。あたし、執念深いタイプだから。あんたの名前はしっかり覚えているわ」

「そうしてくれ」

「……言われるまでもないわよ」


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