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14. VS ファンタジー



 日が落ちかける時間帯。俺はこの街のどこかにある倉庫にいた。


「――おいガキ。どっから出てきた?」


 眼鏡をかけたスーツ姿の男の眼光が俺に突き刺さる。


「返答によっちゃぁ――っ」


 男の言葉を無視して、俺は相手を殴り飛ばす。手加減はそれほどしていない。普通の人間だったら大怪我で動けなくなっているはずだ。


「――星ノ宮さん!」


 すぐ側で倒れていた星ノ宮さんのもとへ駆け寄る。

 よかった。無事だ。念の為、彼女自身をテレポート先に設定していた甲斐があった。とにかく彼女を連れてどこかに逃げないと――、


 ――殺気。


「ウラァァァっ!」


 星ノ宮さんを抱きかかえて横に跳ぶ。同時にさっきまで俺が立っていた床が爆ぜた。


「感がいいな、ガキ」


 血走った目でこちらを見てくる眼鏡の男。

 しっかりと見てみると、その男はさっき資料で見た顔と同じだ。十中八九、誘拐事件の犯人。


「久しぶりに痛てぇ思いしたぜおい。見ろよ額、割れちまって血が出てるじゃねぇか! カカカ!」


 血が流れていることを愉快そうに言う男の姿は異様だ。けれど、俺の視線は男の血走った目でも割れた額でもない別の場所に注がれていた。


「……あんた、何者だ」

「馬場 リョウジ。こんなんでも会社員ってやつだ。カカカ!」

「会社員? 本当に会社員か? そんな物騒なもの持っているやつが」

「おいおい。武器に難癖つける気かよ。俺等が何持ってようが勝手だろ」

「銃刀法違反だろ、馬鹿野郎が」


 馬場は日本で見ることはまずない大剣を軽々と片手で持って俺を見据えてくる。そして、俺の言葉に少し考える素振りを見せると、ああと納得したかのような顔をした。


「そういえばそんなもんもあったか。カカカ! 悪ぃな、俺等はそんなもん知らねぇんだわ」

「……あんたが何者だろうがもういい。俺と星ノ宮さんを見逃してくれるんなら、あんたと戦うつもりは無いがどうする?」

「おいおい冷めるようなこと言うなよ。こっからが楽しいんだろうォ!?」


 ギラりと目を光らせて、馬場は俺たちに迫ってくる。俺は星ノ宮さんを抱えてその猛攻を凌ぐ。


「ちっ。人一人抱えているやつと戦いたいのかよっ」

「それなら女を置いておけばいいだろ? 次の瞬間には肉塊になってるかもしれんがな!」


 カカカと笑う馬場は一瞬だけ隙が生まれた。俺は姿勢を低くして馬場の顎を目掛けて蹴りあげる。


「――ってぇなぁ! ガキ!!」


 一刀両断するべく振り下ろさた大剣を俺は横に跳んで回避した。


「やるな、ガキ。的確にここ狙ってくるたぁ喧嘩慣れ……違ぇな。殺り合いに慣れてやがんな」


 最初の一撃も今の蹴りも、常人であれば死んでもおかしくない威力。これまでの異能力者は特殊な力こそ持っていたが、身体の強度自体は普通の人間。それなのにこいつは二度の攻撃を受け、それでもピンピンしている。

 今ので確信した。馬場は、こいつは人間では無い。


「あんたは――」

「いいぜ、本気でやってやるよ」


 またしても振るわれる大剣をさっきと同じ要領で回避する。


「同じ攻撃が通るわけ――がっ!?」


 想定していなかった方向から衝撃に襲われ、吹き飛ばされる。


「おいおい。ガキ、やっぱりこの世界の人間じゃねぇよな? 今のくらってピンピンしてるってことはよ」

「お前、本当に何者だ?」


 俺がそう聞いたのは、馬場が、男が真っ黒な肌に変貌していたからでも、額に禍々しいツノが生えてきたからでもない。どちらの世界でも見たことがない、背中から生えた両腕。


「カカカ! 知りたけりゃ、てめぇの力で聞きだして――」

「――『爆破』ぁ!」


 外からそんな声と共に何かが爆発する音がした。


「『水遁』」


 水で作られた槍が窓を突き破り、それと共にひとつの人影が突き抜けてくる。


「なんだぁ?」


 馬場を目掛けて突っ込んでくる人影に向かって、やつは腕を振るった。が、


「『止まれ』」


 馬場の動きが一瞬止まり、隙が生まれる。その隙を縫うように懐に入り込んだ人影、否、知里真は拳を叩きつけた。


「『制限……解除』ぉ!!」


 リミットを外した渾身の一撃。だが、それを受けたはずの馬場はピクリとも動かない。


「温いな、ガキ共」

「――逃げて」


 馬場が動きを再開した途端、廃材や折れた鉄棒がやつに飛来する。当然、やつにダメージは無い。だが、不愉快だとばかりにそれを払い除ける隙に知里真は馬場から距離を取った。


「おいバカ。勝手に行くな、バカ!」

「どうやってここに来た」

「場所はあの得体の知れねェやつに聞いたんだよ。マジでいるとは思わなかったが」


 続々と姿を現す面々。


「でも、これで犯人を見つけれた。あとは相手を倒す、ただそれだけ。実にシンプルになったじゃない!」


 犯人が誰かわからなかった状況から、実にトントン拍子に話は進んでいる。超常現象部のみならず、派遣された奇跡の会の面々。俺たちが今動かせる最大戦力だ。

 だが。


「気に入られねぇなぁ。ガキが増えた程度で俺等に勝てると思ってやがんのかよ」


 馬場の纏う空気が変わる。


「雲上先輩」

「なにかしら?」

「――逃げましょう」


「――逃がさねぇよ?」


「『グランド・フォール』」


 視界が根本から変わっていく様を見ながら、思う。

 俺はそれなりに多くの異能を見てきて、確信したのだ。異能と魔法は違うと。


 異能と魔法では――規模が違うのだ。


 

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