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13. 急転



 部室にて。この学校には場違いの人間が三人いた。


「どもどもー。ボクは伊澤 イタチでーす。仲良くやろうね」


 彼女は笑顔でひらひらと手を振ると、すすすっと知里真にすり寄る。


「いやぁ、まさかミナっちとまた一緒になれるだなんて。ボクは感激だよー」

「うっさい近い! ……あー、なんでこいつが」


 不機嫌さ三割増しの知里真はヒシと抱きつくイタチをどうにか引き剥がそうと四苦八苦していた。


「計画通りね、ええ。これで戦力としての不安はなくなったわ!」

「部長、行く前は幹部かボスを引っ張り出すとか言ったなかったっけ?」

「計画通りよ!」


 力強く断言する雲上先輩。実際、彼女は三人の戦力を借り受けることに成功している。どこまでが計画通りかはわからないが、少なくとも次善の状態ではあるだろう。


「な、犬飼」

「何親しげにじゃがンだよ。てめェとはそんな仲じゃねェ」


 犬飼はそう言って本当に嫌そうに顔を歪める。


「ごめんね。うちの駄犬はツンデレなんだ」


 俺と犬飼に割って入った人物。それは、俺にとっては初対面の少女だった。


「おや。そういえば自己紹介がまだだったね。カゴメの名前は音夜 カゴメ。よろしく頼むよ」

「こちらこそ。俺は――」

「稲福 星一。この学校の二年生で最近になって超常現象部に入部した新入部員。家族構成は父母妹の四人家族。異能は転移。ちゃんとカゴメは君のことを把握しているから安心して欲しい」

「……今ので一気に安心出来なくなったんだけど」


 既に調べあげられているか。だが俺の異能ということになっている転移、正確には転移魔法だが、調べる手段がない以上、バレる恐れは無いので気にする事はないが。


「き、危険だと判断したら直ぐに教えてください。け、消しますので……!」

「大丈夫。大丈夫だから、その銃はそこに置こうか。というか学校に持ってきてるんだそれ」

「い、いつでも戦えるように、してます」


 常時戦場の意識か。平和な国、日本で持つには物騒過ぎる。


「ちょっと! スイに何させてんのよ!」

「いや、俺何もしてないから!」


 ワッと食ってかかる知里真。俺は弁明しようとするも、なかなか聞き入れてくれない。


「ふむ……二人は仲が良いのだね」


 その様子を見ていた音夜が徐に口を開く。


「良くないわよ!」


 即座に否定する知里真。


「えー? そんなに楽しそうな顔、ボクの前じゃ見せてくれないのになー」

「それはあんたの前だからで……っ」

「ん? てこたぁ、楽しそうな顔してんのは否定してねェんだ」

「うっさい! もううっさい! 皆静かにしてっっ!」


 知里真の渾身の叫びが部室に響く。そして静まり返る部室。


「……はい。それじゃ、話し合いを始めましょうか!」


 静寂を破ったのは雲上先輩の元気な声。その言葉に反応して、それぞれが席に着く。


「それじゃ、情報共有からいこっかな。いーい? 部長さん」

「ええ。貴方たちの方から話を聞いてもいいかしら」

「りょーかーい。んじゃあ、カゴメっち。資料配ってー」

「任せろぃ」


 配られた資料に記載されていたのは、三人の男性の写真とプロフィール。超常現象部全員がこれは何だと首を傾げる。


「これは……?」

「うちら、奇跡の会が事件の犯人だと睨んでいる容疑者だよ」


 特大の情報に一瞬思考が止まる。

 すぐに資料をサラッと読み流してみると、三人ともここ最近の事件が起こった時刻での情報が抜けていた。


「どうやってこれを調べたんだ?」

「ちょっと伝手を辿ってね。とはいっても、四六時中どこにいるか把握することは出来ないから、ちょこちょこ情報が抜けていたりするけどねー」

「でも、調査出来た範囲で犯行時間にすべて情報が抜けていたのはこの三人だけ」


 イタチの説明に音夜が補足する。なるほど、アリバイで容疑者を搾ったか。……だが、


「でもよぉ、犯人が複数いる可能性もあるだろうがよ。そこんとこどうなんだ?」

「おお……」

「あんだよ」

「いや、犬飼が頭の良さそうなことを言ってるのが意外で」

「殴るぞてめェ」


 見た目と話し方からは想像もつかないが、犬飼はそれなりに頭が回る。意外と。

 俺は余計なことを言いそうになる口を押えながら、話の続きを促した。


「悪い。話を止めてしまった」

「構わないよ。確かに、バクの言う通りだ。複数犯であるならば、この推理は的外れになるだろう」

「だったらなんで」

「カゴメは少し引っかかってね。念の為にと人を使って三人を尾行させたんだ。そしたらどうなったと思う?」

「えっ。もしかして、犯行現場を見たの!?」


 まさかと声をあげる知里真の言葉を、いいやと音夜は否定する。


「そしたら容疑者ではないだろう。そういうことではなく、撒かれたのさ。尾行をね」

「と、ということは、犯人なんですかね……?」

「これで確定とは言えないわ。別の後ろめたい人か、あるいは用心深い人の可能性もある」

「そゆことー。ただまあ、一番怪しいよねってことで容疑者として調べてるわけ」


 三人の男の名前は『成田 正嗣』『田沼 歩』『佐藤 伝助』。年齢もバラバラ、出身もバラバラ。仕事も関連性は見えないもの同士。

 三人とも犯人の可能性も考えたが、ここまで接点が無いとなると流石にないのでは無いかと思ってしまう。


「ま、ボクらからは以上かな。あんまり調べてないから、これ以上は信ぴょう性がないからね」

「そう。ありがとう。ここまで絞れたら、これからの方針を決めるのが楽になるわ」


 こうなると、今後は主に尾行になるだろう。その場合何人かでチームを組むのだろうが、犬飼とは上手くやれる気がしない。別の人がいいのだが……。

 そんな呑気なことを考えていた時だった。突然、それまでその場にいなかった者の声が部室に響いた。


「例の事件が動いたよ」

「誰だ!?」


 突然現れた生物に、敵意を見せる犬飼。見慣れない人物たちを前に、来訪者はおやと眉を動かす。


「なるほど。奇跡の会と協力するとは聞いたが、こう来たか。面白いことをするね、マリー」

「褒めてくれてありがとう。それよりもムース、事件が動いたってどうしたの?」

「褒めてねェだろ。なぁ、あの毛玉は敵じゃねェんだな?」

「多分な。それよりも座れよ、犬飼」


 彼は舌打ちをすると、仕方なしに椅子に再び座る。そんな彼の様子を気にもとめないで、ムースは雲上先輩の問いに答えた。


「新たな行方不明者。いや、誘拐された者が現れた」


 部室中の視線がムースへと注がれる。ムースは一種溜めると、何故か俺の方を見て続きを言った。

 

 


「被害者の名前は星ノ宮 秋葉。この学校の生徒であり、稲福 星一、君の友達だ」


 


 ――は?




「おい、何でそれをてめェが知ってんだよ!」

「落ち着きなよ。まあでも、確かに何でもうそんな情報を知ってるのかボクも気になるけど?」



 ――それは、ダメだろ。



「別に君たちに信用して貰わなくてもいいよ。僕は超常現象部に伝えに来たんだ」

「そ、それなら、は、はは早く戦う準備をしないとっ」

「スイも落ち着きなさい。焦って良いことは――って、あんた、どうしたの?」


 ――俺は、彼女だけは。


「――っ、待ちなさい!」




「『テレポート』」



 


 ――彼女だけは守らないといけない。それが俺に出来る唯一の贖罪なのだから。

 

 

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